第36話 旅路
ちょっと長めです。
「……お腹すいた」
「私も空きました」
「そろそろなんか食うか」
俺たちがメガニカ西側の街ウェタンを目指し始めて3日経った。
メイのAGIに合わせて俺が田上を背負いながら進んでいる。
長旅は初めてだが、旅の心得と道具をある程度魔の町の人たちにもらったので大きな問題はない。
旅の心得はほとんど田上が覚えてくれたんだけどな!
服ももらったおかげで今の俺は魚人の海パンの上から麻のズボンを履いて、シャツで上半身を包んでいる。
メイは上半身は魚人のビキニのままで、ズボンとコートは上から着ている。
上着まで着ると動きずらくて気持ちが悪いらしい。
ちなみに、田上は皮装備のままだ。
最初はなんかすごそうな鎧や剣を渡されそうになったのだが、なんだか悪いので一番安いのをいただいたのだ。
防御力とかいらないしな!
剣はカッコいいが、俺の異世界での武器は魔剣か妖刀で決めている!
彼らを助けた次の日、復興を手伝おうと言った俺たちに倉庫から出してきた旅道具を渡してきた彼らはイケメンだった。
「いつか復興を果たして君たちを迎えよう」
別れ際にそんな言葉を最初に見つけ、死にかけていた男に言われた時には最近ゆるい涙腺がヒクついたものだ。
そんなわけで俺たちの旅は順調だ。
強いて言えば、ドラゴンとかジャイアントの群れみたいなのに襲われて、俺TUEEEみたいな展開がないのが不満なことくらいだ。
嘘だ。
ドラゴンはまだしも、巨人のの肉はちょっと遠慮したいから、襲ってくるならドラゴンがいい。
ちなみに「不用意に殺した魔物は食べる」という田上の方針は絶対で、2日目にデカイ蚊が襲いかかってきた時、魔の町で魔物殺しをしていた時の反射で蚊の魔物の弱点である、ストローの付け根の下を殴って倒してしまった時に作られた料理が、魔の町で美味しいと思って食べていたものだった時にはとてつもなく複雑な気持ちになった。
その時に気づいたが、魔物を殺すことでいちいちクヨクヨすることはなくなった。
人間によって殺される魔物と、魔物によって殺される人間との両方のことを知ったことで、心構えが変わったからかもしれないし、死体を見続けたせいで慣れたからかもしれないし、ただの開き直りといえばそうだろう。
まぁ、食べてるしな……。
「ひと狩り行こうぜ‼︎」
「……なんでも美味しくしてやる」
「あ、そ、それについては少し相談が……」
なにやら2人でこそこそ話を始めた。
不思議なことに、この3日間もっと言えば町を出発した次の日の朝からメイと田上はかなり仲良くなった。
見張り番がメイと田上の2人の日だったので何かあったのかもしれ無い。
それまで直接話もしなかったのが、これほど仲良くなったのだから本当に不思議としか言いようがない。
俺はこそこそ話に入るような無粋な真似はせず、2人の話に全力で聞き耳を立てながら辺りを見渡す。
俺の肩ほどの高さがある草に覆われた碧い大地に雲ひとつない空は朱色に染まり始めている。
すましていた耳はこそこそ話の内容まではつたえてくれなかったが、至る所で魔物が移動している音と、何かが水を打つ音を捉えた。
移動している魔物を音だけで追うことはかなり難しく、それに失敗して1日目の夕飯を逃しかけているので、水の音を辿る。
「田上、メイ、池があるみたいだ。多分向こうに」
「はい!今回のご飯は魚ですね!」
「……まともな食材……つまらない」
「いや、ゲテモノ好きにもほどがあるだろ!」
ちょうど話が終わった様子の2人が返事をする。
田上はかなり食べる。いや、超食べる。
俺だって男子高校生としてラーメン屋に行ったら替え玉を頼むし、頑張ればそれにライスをつけることができる位には食べる。時々。
あの体で、そんな俺の5倍位食べるのだ。
一昨日女子に食べる量で完敗して悔しくて
「そんなにエネルギーとると太るよ」
と忠告した時には
「その分頭働かして使ってる」
と、返ってきた。
頭働かすだけじゃ消費できないと断言出来る。
走っている俺の上に乗っている彼女は太っていってしまうことだろう。
「イタっ!」
……くはないけど!
「なんだよ田上」
「……レディにそんなことを思うのは失礼」
目が光っている彼女の前で下手なことを思うと、読まれる。
俺には思想の自由もないんだな!
「もう、シューヤさん何考えてたんですか?早く行きましょう!池かが見つかったなら食べ物は手に入ったも同然ですから!」
え?俺が悪いの?太ると思うことはスネを蹴られるほどの罪なのか?
「……どうせ痛くはない」
「いちいち心読むなよ!メイのいうとおりだし、さっさと行こうぜ」
そう、池さえ見つけてしまえば飯は手に入れたも同然なんだ。
田上の目の光が消えたのを確認して、俺たちは池に向かった。
〜〜〜
そこそこの広さの池に着いた俺たちは準備を始める。
俺たち3人の3分クッキング!
今日作りますのは多分魚料理でございます!
用意するものは
・池……1つ
・アイテムボックス……1つ
・魔火種……1つ
・小さな魔石……1つ
・森で集めておいた枝……多め
・ピネの枯葉……少々
となります!
アイテムボックスは容量が大きめのもの、
魔石は火をつける魔道具である魔火種を動かせる程度に、
油分の多いピネの枯葉は着火剤の役割を果たしてもらいますのでその分だけで十分です!
悪ノリはこれくらいにして、ちゃんと説明すると、
魔火種が町人にもらった魔道具で魔石を入れることで火が出せるものだ。
小さな魔石でも数回そこそこの火力が出るのでいいものをもらえたように感じる。
生活の中で使われる魔道具とかファンタジー感満載ですよ!
ピネの葉は元の世界の松の葉に似たもので、枯葉がよく燃えるので、旅の中で着火剤としてよく使われるらしい。
そのピネの葉に火をつけて枝に移していく。
最初は上手くいかず、何個も魔石を無駄にしたものだが、今となっては一発でできるようになった。
魔石と食べられない部位は魔の町で田上が剥いでくれて、大部分は復興に使ってもらうために置いてきたが、そこそこアイテムボックスに入っているから困りはしないんだけどね。
「田上、火の番頼むぞー」
「……分かった」
大きな枝に火が燃え移ったところで赤々と燃える枝を素手で組み直し、田上に火の番を代わってもらう。
《状態異常耐性》は過度な熱の変化を感じさせないようで、俺は火に手を突っ込んでも、氷に裸足で立っても何とも感じない。
けっこう便利だ。マグマの中とか泳げるんじゃないかな!
火の準備が終わったら食材狩りだ。
普段なら順番が逆だし、ここが一番面倒だが、今日のように水場が見つかれば話が違う。
俺は池の淵に行き、苔に覆われたヌルヌルの岩の上から落ちないように水に向かって慎重に手を伸ばし……
「わぁ!シューヤさん!……驚きました?」
「ウェアェ⁈」
後ろから声をかけられて慌てた俺はバランスを崩して池に吸い込まれるように倒れていく。
「えっ?すいません!」
バタバタさせてなんとかバランスを取ろうとしている手をメイが掴む。
助かった
「うゎあっ!」
ボチャン!
ーー訳ではなかった。
ヌルヌルの岩に滑ったメイはバランスを崩して2人は池に落ちる。
2人ともビショビショだ。
「……2人共はしゃぎすぎ」
ボチャン!
「はは!お前もじゃん!」
綺麗なフォームで田上が飛び込み、ビショビショになる。
初日に森の泉で身体を洗って以来、風呂に入ってなくて、布で拭いてただけだし、池といっても綺麗な水なのでこういうのもいいだろう。
ちなみに3人バラバラで入って、俺には常に監視が付いていた。
紳士な俺は覗きとかしないのにな!ちょっとしか!
「……ぶはぁ、ちょーきもちい」
田上が髪をかき上げながら水中から顔を出す。
「うゎあ!だ、誰ですか?」
「……何言ってるの?」
「お前、可愛いな」
恐ろしいほど素直に本音が出てしまった。地味に恥ずかしい。
「……そんなの当たり前」
「コウさん可愛すぎです!」
照れてるのか顔を背ける田上にメイが抱きつく。
忘れているかもしれないが、煌というのは田上の名前だ。
そして彼女はその雰囲気とは違い、可愛い美少女なのだ。前髪さえどかせば!
「……ちょ、まってダメ」
てかいいな!俺もやろう!
「田上可愛い!」
パンパン!
2人の張り手が俺の両頬に決まった。
「「……バカ!」」
「す、すいません」
ノリで抱きつけると思ったんだけどな!
なんか急に静かになってしまった。
ごめんねマジで!
そして静寂を破るようにこだまするある音……
グゥゥゥウ!
メイの腹が唸りを上げた。
「ぷっ、み、みんなお腹すいただろうし、プフっ、そろそろ魚とるか?」
紅生姜モードのメイを気遣って何とか笑いを堪え話を進める。
「……ふふッ、そ、そうしよう」
田上も笑いを堪えている。
「その優しさが心にしみますぅ」
「アハハハハ!まぁ生理現象だし気にすんな!」
「……フフフフ。それくらいの方が可愛い」
メイの弱々しい言葉に笑いのダムが決壊する。
赤くなったメイも可愛いが、笑ってる田上が可愛すぎるので目を逸らす。
「ハハハ、はぁ、じゃあ行くぞ!水!」
頭がおかしくなった訳ではない。
俺は《アイテムボックス》に水を収納したのだ。
服の水分も収納され、乾いた服で池の底に立つ3人。
この水分吸収のおかげで洗濯がかなり楽なんだよ。
主婦に売りだしたらすごい売れると思う。
脱水も収納もこれ一台!みたいな。
田上は髪が乾いたためか再び髪で顔を隠してしまった。
その足元には大量の魚がピチピチ跳ねている。
「相変わらずデタラメですね」
「……宇宙人は本物のチート」
「お前らも大概だからな!」
時間戻せる奴と、思考読める奴も十分チートだと思う。
思考の方は俺でも出来るから、そこまででもないか?
田上は2つだけだからメイと話している以上それだけだしな。
そんなことを思いながら魚を拾う。
それぞれ食べる分だけ拾って池の外に出ると、水を9割がた戻した。
初日から水を補給して無いのでできるだけ補給しておきたいが、さすがに池全部の魚は食べられない。
メイは1匹、俺は大きめのを2匹、メイは、大きいのを、えーと、10匹以上必死に抱えている。
「お前それちゃんと食えよ?」
「……愚問」
まぁ、なんとなく俺も田上なら食えそうな気がする。
俺は全員の生きのいい魚たちを袋に入れるのを手伝い、あとは女子2人に任せる。
料理とかできねーよ!カップ麺で水入れて失敗するレベルだよ!
「料理できたら起こして〜」
「はーい!任せてください」
いつもなら田上の「……手伝え」が聞こえるのだが、なぜかメイから返ってきた快い返事に不自然さを感じたものの、全身を優しく撫でる風と《状態異常耐性》がなくても心地よいであろう気候は、昨日見張り番だった俺の瞼の重量を10トン近くさせている。
俺は異世界の太陽の染みるように赫い夕焼けを見ていくらか寂しい気持ちになりながらとうとう瞼を落とした。
夕焼けってのはなんでだか昔の思い出とか悲しいこととかを思い起こさせると思う。
ありがとうございます!
本当に申し訳ないのですが、最近疲れが溜まっているので、これからは3日に1度投稿のつもりで読んでもらいたいです。
できるだけ毎日投稿できるよう頑張りますが、もし少しでも続きを気にしてくださっている方がいたら本当にすいません。