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第35話 住人

昨日はすいませんでした!

俺は焚き火の明かりから離れて、暗い石畳の上を歩いていく。

場所にもよるが、結構な頻度で魔物の死骸が落ちていて、時々つまづいてしまう。

見つけた死骸をと木材を片っ端から《アイテムボックス》に入れながら歩いていく。


緑の血だまりに手をついてしまった時は吐きそうになったが、臭いには慣れてしまったし、なんとか耐え切った。


そして今、普段なら見逃してしまっただろうが、闇と緑の世界に突然入り込んできた赤は俺の目に強く残った。


振り向く前に確信し、それでもそうでないことを祈り、俺はそちらを見る。


人だ。死んでいるだろう。


しかし、確信が事実に変わったこと以上に衝撃的な光景が目に入る。


動きがあったのだ。


よく見てみればそこにいたのは1人ではなかった。

死んでる人も含めて3人、うつ伏せに倒れる男性、ボロ切れのようなもので辛うじて体を隠した少し年上の女性、その背中に背負われる男の子。


背徳感とかそういったものを感じるわけではないのだが、露出度の高い女性に残念ながら全く興奮できない。


その代わりに俺が感じたのは弱者に対する根源的な恐怖。


自分より確実に俺より弱いはずのその女性の目に宿った生に対する渇望、そこから来るであろう敵対心。

野生の獣が殺されかけたらこんな目をしているのでは無いだろうか。


「こ、こんななりだが人間だ。魔王は倒したから心配要らない」


スケルトンと間違われていたらかなわない。


「あなたが魔王を?そんな体で一体何が……」


そこで言葉を止め、刃物のような視線をまぶたにおさめると、ふらふらと足をよろめかせ彼女は倒れてゆく。


俺は急いでそこに駆け寄ると、肩を支えて受け止める。


「味方と言うのならすまないが……後ろの子と、この町の住人をお願いし……」


なんとか絞り出したような言葉ののち、彼女の意識は途絶え、落ちかけた子を支える。


この町にいた人を俺は見捨てた。

正確には助けることを「偽善」と勝手に判断し、助けの手を差し伸べることより八つ当たりを優先した。


確かに牢の中にいた人たちのように絶望して死体のようになっていたものもいただろう。

でも、すべての町の人が希望を捨てていたわけが無いんだ。

人間は俺の想像していた以上に強い生き物だったんだ。

どうしようも無い後悔と、この町の人に申し訳ない気持ちが俺の中に満ち顔を涙で濡らしながら、俺は3人を抱えて焚き火の元へ歩き出した。


〜〜〜


焚き火の周りは小さな避難所のような雰囲気になっていた。

多くの人がいた。


火に近づき暖まるもの、メイの元に行き、治療を受けるもの、助かったものどおしで話をするもの、田上とともに焚き木を火にくべるもの、親しいものの亡骸に寄り添い悲しむもの。


俺は3人がいることから3人をメイに頼もうとメイのところへ向かう。


「あの……」


「早急の治療が必要なのは皆さま同じですので、順番に寝てもらえますか?」


「何言ってんだ?メイ」


「え?あ、シューヤさん!すいません、先ほどから同じ対応をし続けているので……。焚き木は集めてきてもらえましたか?」


「ああ、ところでこれはどういう状況だ?」


俺は集めてきた木材を山のように積み上げながら質問する。


「この人たちのことですね。

この人たちはこの町の住人らしいです、そしてーー」


「この町は3ヶ月ほど前、魔物によって完全に籠絡され、住人に地獄が始まったのだ」


抱えていた少女がメイの言葉を遮り、言葉を続けた。

ボロボロなのに。


「詳しく聞かせてもらえますか。メイ、この人の治療をしてやってくれ」


「分かりました」


俺は運んできた3人を地面に優しく寝かせ、メイが《ヒール》の詠唱を開始する。


「すまないな。ここを訪れる旅人なら知っているかもしれないが、ここは300年前、人魔大戦において人類がメガニカに攻め入った際に最前線となった地だ。

勇者様が三大魔王を倒し、魔物たちがある程度落ち着くと、人類全体で戦争に対する熱は収まっていき、様々なところで最前線が放棄された。

住みにくい魔大陸の真ん中に好んで住むものも少なく、他の町の住人は元住んでいた大陸などに渡って行った、

しかし、最前線の町であったここには戦い好きの戦士たちが多くいた。

そのためにこの町は、他の町のこの魔大陸の地に思い入れのあるものを受け入れてこの地に残った」


最前線に立てるほど強い人たちばかりの町だったのか。


「ご先祖様は強かった。

しかしその子供までが強いとは限らない。

そこで先祖様が作ったのが結界だった。

魔大陸の魔物でさえも手も足も出ないほどのあの結界によって私たちは守られてきたんだ」


そんな歴史のある結界だったのか。

俺が消しました。ごめんなさい。


「しかし、私たちは油断していた。

結界があるから大丈夫だと。その結果3ヶ月前、ある冒険者を壁の中に入れてしまったんだ。

今考えればあんなに怪しい人物もいなかった。

顔は隠しているし、背は妙に高かった。

それなのに私達はひさびさの客人だといって入れてしまったんだ。

それからは悲惨だった。

その冒険者は町の強者たちをあれよあれよと殺していき、あるものは収容し、残りのものはは殺し、門を開けて魔物を招き入れた」


そうして人間が家畜や肉、道具として見られる魔の町ができたのか。


「辛い思い出だったでしょうにありがとうございます」


この頃にはメイの治療は3人とも終わっていて死んでいると思っていた男性も生きていたようだ。


「気にする必要はない。まだ生きているものも多いだろうし、助けてやってくれ」


「分かりました。それと一つだけ……」


「なんだ?」


その一言、その気持ちで心が飽和し、水が目から溢れ出しながら俺は女性だけでなく、ここにいる住人全員に向かって言葉を発した。


「本当にすいませんでした!!

俺、この町を見たとき、怖くて、恐ろしくて、何も考えたくなくなって、辛そうにしているあなた方から目をそらして、魔物を殺して、八つ当たりして、尊い命を粗末にして、魔王を倒して、勝手に満足して‼︎

本当に最低だったんです‼︎

あなた方は強く生きている!それなのに俺は、俺はーー!」


土下座のまま動かない俺の目に足が入った。

1人や2人ではなく、すごい数だ。


「顔をあげてください」


男性の優しい声に恐る恐る涙でグチャグチャの顔を上げると、目の前にいたのは老人。老人は続ける。


「あれだけの魔物がいて、あれだけの惨事を見せられたら誰だって取り乱すでしょう」


「でも!俺は力があってーー!」


「それは力があっても同じことです」


女性の美しく温かみのある声が後ろから俺の言葉を遮りそちらを振り向く。

さらに周りを囲む誰かからの声が続く。


「魔物の命をも尊いと考えるあなたは崇高なものでしょう、しかしあなたの選択は、今、私たちの『命』を救っている」


「私たちは強くなんかないよ。強く見えたとしたらお兄ちゃんがそうしてくれたんだよ」


「あなた様に助けられなければ今の我々はありませんぞ」


「それでもまだ足りないと言うのならこの町の住人をもっと救って下さい……《ヒール》」


最後にメイの言葉が聞こえて、頭がスッキリする。


「ありがとう、ちょっと助けに行ってくるわ」


「……宇宙人……よかった」


メイの少し喜びを含んだ言葉を背に、俺は涙を拭い走り出した。


〜〜〜


時は深夜、俺は町中を回り、人、魔物、木材を残らずかき集めた。

死んだ魔物以外はここから逃げ出しているようでここでは見当たらなかった。


俺が最初に戻った時に俺を迎えたのは香ばしい匂い。

魔物が焼ける匂いだった。


それを田上が人々に振舞っていたようだった。

物理的に目を光らせながら作業していたが、《鑑定眼》に補助を受けながら調理をしていたらしい。

本当に便利だと思う。

それ以上に田上が本当に食べるつもりだったことに驚きだったが……。


人々の雰囲気は宴会というには余りにも寂しげで、弔いの食事というには多くの笑い声が聞こえた。

これからのこの町の運命はここから始まるのだろう。


今はその笑い声も静まり、治療を続けるメイと火の番と死体の処理を続けるメイ、今まで動き回り魔物と人と木材を集めていた俺たちだけが残っている。


メイが最後の患者を治しているのをボーっと眺めていると、1つ処理していないものがあったことを思い出し、そのものの元へ歩いていく。


そこにあったのは『緑竜の頭蓋骨』

ずっと俺の頭についていたそれだ。

ゆっくりと拾い上げ、《アイテムボックス》にしまう。

初めて持った時は重いと思ったのだが、レベルがバグった今となっては軽いもんだ。


町の人たちが俺を励ましてくれた最後にメイが使った《ヒール》は俺の頭についていたこいつの時間を装着前・・・まで戻し、呪いの効果が出る前に外すためのものだったらしい。


同じ要領で普通の《ヒール》では治すことの出来ない部分欠損や体力も回復したらしく、町の人々の体は元気に戻ったそうだ。


異世界からきた俺たちはまだしも、メイまでチート化している気がするな……


そんなことを思いながら。眠ってしまったメイと田上に町の人から借りた毛布を掛け、俺は火の番をする。


夜の闇に、焚き火の光を絶やさないように、俺は一夜を明かした。


ありがとうございます!

やっぱりこういう雰囲気は難しい……。

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