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第32話 下降


「そろそろもういいだろ?一旦落ち着こう」


俺のスネが蹴られ始めてから5分ほどたった。

最初の方はどうやって2人を落ち着かせようか考えて話しかけていたが、無理そうだったので途中からはもっぱらここから降りる方法を考えていた。

高さは学校の屋上の三倍ほどだろうか。降りるための糸口を見つけるために「そろそろこの氷の牢獄から出たいなぁ」などと思っていた俺が言葉をかけると彼女たちも止まった。


しばらく黙って考えていたのが良かったのかもしれない。


「この根暗のせいです」


「……この魚が悪い」


最悪のファーストコンタクトになってしまったようだ。


「まぁ、取り敢えずここから出ようぜ?メイも腹減ってただろ?」


「そうですね!こんな狭いところに暗いのと居たら陰気が映りますもんね!」


「……ん?ちょっと生臭くなった」


怖いな。女子。

女子2人の黒い会話から逃げるように俺は氷の牢獄から這い出した。


「うぉっ、あぶねっ!」


さっきは氷の牢獄の中のメイに夢中で、気がつかなかったが、高さ相応に風なども吹いているようだ。


この調子だと《状態異常耐性》の無い2人は寒いだろうな。

俺、今2人が険悪なお陰で逆に紳士度が増してます!


「田上、メイ寒いだろうから中に……」


牢獄の天井から降り、振り向きながら紳士の言葉をかけようと後ろを向くと、我先にと牢獄から出ようともがく2人。


「小学生か!」


突っ込みながらも2人を引き抜く。


「グルル!」


「……ガァ」


2人は引っこ抜かれた途端に牢獄の反対側に回り、寒さに耐えるように縮こまりながらもお互いを威嚇する2人。

両方怒っていても可愛いのだが巻き込まれてはたまら無いし、2人の体が心配なので、降りる方法を探して下に顔を向ける。


ヒュオウッ


風が抜ける音にビビり、腰を引きながらも壁や他の場所も観察する。

壁は芸術品として売りだせそうなほどに見事な滑面で、上り下りに使えそうなとっかかりは無い。

気が乗らないけどあれしか無いか?


下の町並みも見わたそうと目を凝らそうと少し身を乗り出したところで、


「「キャッ!」」


計ったように揃った2人の声。

そして浮遊感。


「え?」


一瞬空中で止まるような感覚。

そして落下が開始される時、2人の手が俺の腕をなんとか掴むものの、


氷の上で踏ん張りのきかない俺たち3人は目測で12階分はありそうな塔の上から紐なしバンジーを敢行した。


「「「わぁぁぁ……!」」」


空中からの落下はすでに2度経験している俺は2人を衝撃に晒さないよう繋いだ手を手繰り寄せ、俺の背中に回す。

そして、あまり気の乗らなかった脱出手段をそんな感情を思い出す間も無く使う。


「《ウィンド》!」


しかしなにも……


起こった。

魔の町の中心に近い一帯の地面がめくり上がるように割れ、砂煙が俺たちのあたりまで舞い上がる。

威力が風とかのレベルじゃねぇ!

MP低いのにコスパが異常だろ!


そして俺たちの体は少し加速した。


「なんでぇぇ!」


「……宇宙人!魔法に反作用は無い!」


そうか、《ウォーターブレッド》の時と同じ状況ということか。


「なにやってるんですかぁぁぁ!今加速しましたよねぇぇぇぇ!」


それな!ちょっと加速した意味が分からん!


「……多分下降気流とかのプロセスから熱による下降のーー」


「分かんねーよ!つまり?」


「……上に、《ウィンド》を使え」


「《ウィンド》!」


俺は空中を泳ぐように無理やり方向転換し、改めて2人を背中にかばう。

そして空に向かって豪風が駆け抜ける。


「……ずっと!」


《ウィンド》を継続させるイメージを持ち続けることで《ウィンド》によって空気の流れができる。


そして下からの風が俺たちを押し始めた。


〜〜〜


「ハァ、やっと地面だよ」


集中を切らさずに《ウィンド》を使い続けていた俺を褒めて欲しい。


「助かったんですね!やったー!」


「……ナイスプレイ、良かった」


田上とメイがそれぞれ俺のところまでかけてきて両手でハイタッチする。

2人はその流れでお互いにタッチし……


「「あ、」」


田上は皮装備で、メイはローブで手を拭く。

どんだけだよ。


地面についた俺はついた溜息で排出した酸素を取り入ようとして、


「ウッ⁈」


前回の転移の時とよく似た鼻に付く臭いに冷静さを乱されそうになる。

前回の時はミントの飴が口に残ってたし、ちょっとマシだ。ん?


そんな俺の元に2人が駆け寄ってきて、


「……宇宙人、大丈夫、落ち着いて、待ってて」


「シューヤさん、ヒールをかけます」


2人は仲は悪いけど、俺のことはそれぞれ気にかけてくれているらしい。


俺は仰向けになって灰色の空を仰ぐ。


あれ?氷の塔ってあんな角度だったっけ?


氷の塔を上から下まで舐めるように見ていくと一番根元の部分に問題があることがわかった。

誰かさんのMPに優しい異常に高威力な豪風のせいで空いた穴だ。


「これこっちに倒れるじゃん!」


俺は焦りながらも俺を治そうと詠唱を続けるメイを見る。

メイの顔は青い。

最初は倒れてくる塔に驚いているのかと思ったが、そうではなさそうだ。

詠唱を続け、光を纏っていく自分の両手だけを見ながら青みを増していく。


「シューヤさん、逃げてください」



ありがとうございます!

明日は投稿夜になるかもしれないです

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