第28話 シュート
僕はサッカー部です!
球技大会で活躍した覚えがない……!
次の日の昼休み。
「サッカーに行こう!」
「「「えー」」」
「もうすぐ大会だぞ!そんなんでいいのか!」
「そういやそうだった!」
「……宇宙人忘れてたんだ」
「忘却は人間の能力なの!みんな!行こうぜ!」
「そうは言っても……」
「そんなこと言われても……」
「練習したところで……」
すっかり忘れていたが例年この数日間は球技がやたら流行る。
球技とは言ってもサッカー、バスケ、バレーの3種目だ。
去年も同じ時期にみんなが何かしらボールを触っていたが、理由は簡単『球技大会』だ。
では流行っているはずのサッカーへの誘いになぜ大多数の生徒が難色を示し、高校生活を楽しもうと決めたために頑張ろうとする俺が浮いているのか?
これも理由は簡単だ。
『勝てない』からだ。
俺は所属していないが、うちの学校にももちろん部活はあって、高校の部活ともなればみんなガチになる。
しかしだ、部活でどんなに頑張ったところで毎試合女子が応援しに来るわけもなく、女子に花形を見せる機会なんて引退試合ともう一つしかない。
そう、それこそが『球技大会』だ。
そして我らがC組にはサッカー部はいない。
よってサッカーに参加する奴らのやる気は底辺で、やる気があるのは陸上部のいかにも運動得意ですよ〜って感じの奴と俺だけってことだ。
仕方がねぇ!根性なし共に俺の実力を見せてやるか。
「おめぇら!やる前から諦めてんじゃねーぞ!俺の実力見せてやるから付いてきやがれ!」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
そう、俺は数々の武勇伝によってこのクラスの男子の支持を得ている。
曰く屋上から飛び降りた女子を救った、曰く遅刻しないためだけに教室を破壊した、曰くトイレ爆破犯と交戦した等、有る事無い事様々に語られるうちにバカな男子高校生の支持を得ることになったのだ。
男子の支持とかこういう時に使わないと意味ないからな!
〜〜〜
俺はサッカーに参加する7人を後ろに引き連れてグラウンドの真ん中にやってきた。
足元には白と黒のサッカーボールがあり、視線の先にはゴールが見える。
中学時代サッカー部に所属していた俺は他の奴らに比べて上手い自信がある。
それでも去年は部活の奴に手も足も出ないんじゃないかとチキって結局バレーボールに出たが、今の俺にはチートがある!
周りは男子高校生に囲まれ、暑苦しい。熱気が伝わりそうだ。
「滝!お前の力見してくれ!」
「お前がサッカー部に負けない実力を見せたらみんなで練習するぜ!」
「やってやれ!滝!」
男子高校生の野太い声。
黄色い声援だったらやる気は2倍くらいにはなるんだけどな!
とりあえず、俺の実力を何よりも雄弁に語ってくれるであろうプレイをしようとボールから3歩ほど距離を開け、屈伸をする。
ゴルフや野球で言うルーティーンのようなもので心の準備を整える。
中学時代練習ではよく蹴っていたが、キャプテンでも何でもない俺は使うことのなかったフリーキック。
そのイメージを思い出し、集中する。
そこまで見て周りの男共もようやく俺がシュートを打とうとしていることが分かったようで、場所を開けて息を飲む。
1歩、ボールの位置と歩幅を確認して集中力を高める。踏み出した足はただのスニーカーだったにも関わらず、滑らずに思い通り動く。
2歩、ゴールの位置を確認して、周りに人がいないか確認し、軸足の踏み込みの位置を調節する。
3歩、程よい緊張感と胸と高まりの中狙い通りの位置に軸足が入り振り足を加速させる。思考が加速し、時間が止まったような感覚の中、空気だけが動いて俺の耳を叩く
パン!
なんだ⁈
動揺する中振り抜かれた足はボールの芯を捉えることなくものすごいスピードで砂煙を纏いながらゴールから逸れて飛んでいく。
ズドン!
ボールはイナズマイレ○ンかキャプ○ン翼のようにトイレの壁に衝撃によってクレーターを残したと思うと黒い内側を見せて破れ、次の瞬間には2回目の攻撃にとうとう耐えられなくなったトイレが倒壊した。
あの音は音速の壁をこえた音だったんだな!
「「「ウォォォォォ!!!」」」
7人から他人事のような歓声が上がるが、ボールに足がミートしなかったことで賢者に戻った俺は即座に状況を理解する。
「おめぇら!逃げるぞ!」
〜〜〜
……もう2度とトイレにボールは当てないようにします。
こんな一文を書いて俺はペンを置いた。
何を書いてるかって?
まずは放課後初日にイケメン教師的なノリを見せてきた呼び出しをくらったところからだな。
「滝、お前がボールを当ててトイレを壊したって話があるんだが、まぁ、ボールじゃトイレの倒壊の直接の原因にはならないのは分かる」
誰もマッハを超えた振り足でシュートが打たれたとは思わんだろうし、これは大丈夫なパターンじゃね?
こんな風に心の中でフラグを立てたのがいけなかったのかもしれない。
「じゃあ……」
「でも、そもそもトイレにボールを当てることが不味いし、朝の件を疑っている先生方も少数だがいる」
オバハンのことだろうな。
「そこでこれに記入をしてほしい」
そういった体育教師が向かい合わせになっている机の向こうから取り出した紙を俺の方にスッと差し出した。
題名のところには大きめに『反省文』とかかれていた。
そうだよ!反省文だよ!
高校で反省文だよ?頭悪いよな!
取り敢えず『すいません』と『ごめんなさい』と『申し訳ありません』の3つを上手く使いこなして文をカサ増しして書き終えた俺は体育教師に提出に行こうと席を立つ。
「いや、すまなかったな。お前がみんなのやる気を出させるためにグラウンドでボールを蹴ったという話は聞いたんだがな……」
「きにする必要ありませんよ!疑われるようなことをした俺が悪いですしね!じゃあ、さようなら!」
「おう、お疲れ様」
俺は長くなりそうだった体育教師の話を遮って帰路に着いた。
ありがとうございます!
ちょっと話の転換が無理やりかもしれませんがずっと球技大会書きたかったんです!