第26話 打ち明け
短いです。
目が覚めた俺の前には田上がいた。
なぜなんだろう。改めて時計を見ても、だいたい8時40分1時間半も経っていない。
そして田上を見た途端に俺の頭は異世界から現実に移り変わった。
あれだけたくさんの魔物を理由もなく殺してしまった。
手にはまだ命を奪う冷たく重たい感触が残っている。
「田上、俺さ、クズなんだよ」
「……知ってる。そんなことは全く気にしてない。……それよりなんで泣いてるの?」
「厨二病の頭がおかしい奴みたいな話だぜ?」
「……宇宙人は私のこと電波だと思ってるんじゃないの?」
「はは、バレてたか。実は3週間前な……」
〜〜〜
俺はなんで田上に話したんだろう。
というかなんで田上がここにいるんだろう。
俺は彼女と出会って数週間だし、素顔を知ったのもついこの間だ。
確かに可愛かったが、それだけで悩みと秘密を話し、懺悔する気になったのだろうか。
俺の考えも田上の行動も全く分からないが、田上に話したのは正しい選択だったことは分かる。
初めは俺の分かる限りゲームのルールを語った。
気を紛らわせるついでに田上の驚く顔を見たかったのだが、長い前髪に阻まれた。
そもそも髪以外の仕草からして驚きより、真剣に話を聞く気持ちが強いのが分かる。
相手の感情を読むのとか別に得意でもないが、田上の感情はなんとなく分かるのだ。誰かによく似ている気がする。
そしてドラゴンを倒し、大陸ごと魔王を倒したこと、魔王を倒し、魚人の村に光を戻したこと、気まぐれで寄った街で人間が殺されているのを見て、魔物を殺して回ったこと……
すべて話した時、震えていた俺の手を取り話の間、相槌も打たずにときどき首を振るだけだった彼女が初めて口を開いた。
「……宇宙人がやったのは復讐じゃなくて自分の八つ当たり……理由があれば殺しも許されるけど宇宙人のは命に対する冒涜」
弱っていた俺は心のどこかで田上が慰めてくれることを期待していた。
しかし、田上が返したのは俺を責める言葉。
もう、異世界に行くのはやめ……
「……だからもう一度異世界に行って殺した魔物を食べよう」
「なんで⁈」
「……理由の後付け?」
「お前が疑問形にするなよ!」
極端な例だがそうだ。無駄な殺しを気に病むなら無駄じゃなくせばいいんだ。
そしてもう二度と俺は理由もなく魔物を殺さないようにしよう。
「……元気少し戻ってきた。デートに行こう」
俺のことを思って元気付けるために俺を攻めてからボケをかましたのか。田上が魔物を食べたいって可能性は……ないな。
〜〜〜
そこで気持ちを切り替えた俺はなんとかデートに行き、そこそこ楽しめた。
家を出てしばらくして、現代で生きる時に危ないものなどを確認するためにスキルを思い出そうとしていた。
突然雨が降って来たが田上は先に進んしまってているので田上のところまで行きながら考える。
《言語理解》、《魔法抵抗》は今まで通りだし大丈夫だろう。
ん?雨が止んだな、通り雨か。
《ワープ》は対象の指定がミスるとやばいから、自分1人で使うようにしたい。
《絶倫》は今日は無理そうだけど今度使ってやろう。ゲヒヒヒヒ。
もともと切り替えは早い方だし、田上が側にいてくれたのも大きかった。
デート場所を動物園に選んだのも正解だった。
俺は動物の言葉がわかるからだ。
動物園の動物達はみんなそこそこ幸せそうだった。
「ふぁぁあ。ご飯食べよう」
「とうとう山のてっぺんまで来たぞ!」
「あれぇ?なぁんかすごい雰囲気の人間が来てるなぁ?」
上から虎、猿、鳩だ。
俺のおかしいステータスは動物の本能には働きかけないのかと思ったが、鳩が反応して飛んでいったことからわかるのだろう。
鳩は一応野生だからな。
そしてほとんどの鳩が飛んでいった中飛ばない鳩に話しかけてみる。
「なあ、そこの鳩」
「おいおい、人間がなんでわいらに話しかけられるんや?いや、なんやそれ!勘弁してえや。あんた強すぎやろ、異常とかそんなレベルやないやん」
「ちょっと特殊でな。質問いいか?」
「あんたに聞かれて答えない鳩なんてこの辺りにはいやしませんわ」
関東なのに鳩は関西弁なの⁈
鳩目線だと俺そんなにやばいの⁈
まぁ、鳩には鳩の事情があるだろうし、気が変わらないうちに1番気になることを聞いておこう。
「人間ってどう思う?」
「面白いこと聞くな。
わいら人間の生活自体はよう知らんけどな。向こうの開けたとこ行くとなぁ毎朝、飯撒いとるじーさんがおるんや。
あんな人間がおるんやし、ちっちゃいのに追いかけられるんとかそんなに苦じゃないわ。
あんたみたいに面白い奴もおるようやしの」
「そうか、面白がってくれて良かったよ。俺は秋夜だシューヤ。よろしくな」
「名前っちゅう奴か。人間はけったいなもの使っとるのぉ。わいのことはハットンとでも読んでくれや。
わいもこの辺の鳩なら中々に顔きくしな。
飯さえくれるんなら力になったるで」
「まぁ、もし俺んちがわかって、メッチャ腹減った時とか話し相手が欲しくなった時は遠慮なくきていいぜハットン。まぁ分かるかどうかはわからないけどな!」
「鳩の情報力舐めたらあかんで。そんじゃそろそろ行くわ。向こうで飯撒く人間が出る頃やからな。おおきに。」
ハットンは飛び去っていった。
「……宇宙人、それはやばい」
後ろを見ると田上に若干引かれていたので、
その先は《言語理解》と他のスキル、今までやったことを詳しく話しながら動物園を回ってかなり気持ちが楽になった。
罪の懺悔は人の心を楽にするからな。
田上は時々首を動かしたり相槌を入れてくれたり聞き上手で話しやすかった。
スキルのことを話した時は色々注意されたけど俺を心配してくれてるのだろうか?
もしかして脈あり?
はい、すいませんDTの悪い性質が出てしまいました。
楽しかった。幸い俺が娯楽に使われると思っていた動物達も生を楽しんでいることも分かった。
再来週は田上と一緒に向こうに行きたい。
ありがとうございます!
もっと上手く文を書けるようになりたいです。