第21話 地上へ
危なかった。
《ワープ》自体は成功した。
地味に1発目で魔法が狙い通り成功するのは初めてなのだが、俺にそんなことを考える余裕はなかった。
転移が成功した直後、俺は圧倒的な圧力に襲われた。更に目にしみる水に反射的に目を閉じる
「ブォホゴホッ!」
ーー水圧
常人がいきなり放り出されればタダでは済ま無いその力も俺の高いVITには意味を成さず、俺の身体にはダメージは入らなかった。
しかし、《状態異常耐性》をとっていなかったことを完全に忘れていた俺は驚きと圧力によって肺の中を空にされてしまう。
しょっぱい水を大量に飲み込み、意識が朦朧とし始める。普段の俺なら『死んでもいいか』と諦めるところだが、近くにメイがいるからだろうか?
俺は全く諦めずに呪文を唱える。
こんなの逆境のうちにははいらねぇ‼︎
「ブヮーブ(ワープ)!」
しかし何も起こらなかった。
気持ちとかイメージとか可能な限り込めたにも関わらず、《ワープ》は発動しなかった。
よく考えたら今までイメージとかしたことないし、言葉だけが大切なのか……
ヤバいもう時間みたいだ……
いくら俺がチートなHPを持っていても、窒息で気を失って酸素が供給されなければ死ぬだろう……
最後にと思って目を開けると、目に映ったのは覚悟を決めたような1人の少女の顔だった。
〜〜〜
「知ってる天井だ」
目が覚めた俺が見たのは知ってはいるものの決して見慣れてはいない天井ーー魚人の村の講堂の一室の天井だった。
つまり俺がいるのは2週間前の部屋だ。
助かった理由は分からないが、水の中なのに息ができるし、必要以上の圧力も感じない。
とりあえず状況を把握しようと、上体を起こそうとすると、手が握られていることに気づいた。
メイだ。
メイは俺のベッドに頭を乗せて、俺の手を握りながら眠っている。
起こすの悪いなぁと、思っているとメイが目を覚ましてしまった。
「ん、んぁあ。あ!シューヤさん大丈夫ですか!身体はもう、問題ないですか!」
この反応を見るに今までと同じように相当な心配をかけてしまったらしい。
「ごめん、ごめん。大丈夫みたいなんだけど、どういう状況か説明してくれるか?」
「フゥー、スゥ、シューヤさんが気を失ったすぐ後に村長やローレさんがエターナルシャインの光に気付いて私たちを見つけてくれたんです。
シューヤさんはかなりの量の水を飲んでしまっていたので、一刻の猶予もなく、村に地上の客人が来た時のためにと伝わる『潜水草』を飲ませたんです。
これは24時間の間、人間を《水中耐性》のスキルを持った状態にしてくれる霊薬です。
普通なら使うかどうかの意見は別れることになりますが、シューヤさんは魔王を倒してエターナルシャインを持ってきたという功績がありましたので、全員一致で霊薬を使うことになりました。
そして今の状態ですね。
ちょっと前まで寝ていたのに、朝まで寝ちゃったんですし、そこそこのダメージになったんじゃないですか?ハァハァハァ……」
間に俺の言葉を入れる間もない上に本人も息を切らすような畳み掛けるような状況説明だった。
そんなとこ頑張る必要ないだろ!
しかし、霊薬なんて使わせてもらったのか。
魚人の方々には感謝しないといけないな。
「サンキュー。じゃあ今は朝なのか」
そう言いながらカーテンを開くと眩しい光が差し込む。
「昨日、帰ってすぐにエターナルシャインは設置され直されて、魔王の魔核を利用することでこの村は光を取り戻し、元の生活に戻りました」
「そうか。よかった。
じゃあ俺は出発するかな。もともとここには大陸の場所を探すためにきたしな。
今は《ワープ》で大陸まで移動できるから目的は達成したし、霊薬の効果は24時間しか続かないんだろ?」
「そうですか、村を出るんですね……
あ、あの、私も、私も一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「俺は構わないけど、村長の孫が村を出て大丈夫なのか?」
赤い顔でうつむきながら勇気を持って言ってくれたメイには無粋かもしれないが、こういうところは大切だ。
「本当ですか⁈私に関しては大丈夫です!前にも言ったと思いますが、私はもともと地上の世界に憧れていて村のみんながそのことを知ってるんです。
今まではそれこそ立場上の問題で地上には行けませんでしたが、この村の英雄のシューヤさんの付き添いということなら地上に行けます!」
メイは俺の返答に対して目を輝かせ、身を乗り出している。
よっぽど嬉しいんだろう。
「分かった。一緒に地上へ行こう!」
〜〜〜
地上に向かうことに決めたメイは家に帰って準備をして来るらしい。
ーーそしてそのついでに|村長(お祖父さん)にあいさつするように言われた。
家に向かうと、メイは準備をするように言われ、俺とお祖父さんの2人で話すことになった。
部屋は洋風の部屋で石製のテーブルとイスのある部屋だが、なんとなく日本の居間と重なってしまう。
俺、多分これから精神を散々削られて「何処の馬の骨とも知らない〜」って殴られるんだ。
向かい合って席に着く。
村長の温厚な笑顔が怖い。
「シューヤ殿。このたびは本当にありがとう。あなたのお陰でこの村に光が戻り、未来がつながった」
深々と頭を下げる村長に俺の気は抜けてしまう。
「い、いえ、俺こそ命を救っていただいた上に孫娘さんまで……」
「そうか、孫娘のことは連れ行ってくれるのか!おそらく世界最強であろうシューヤ殿の近くであれば安心して任せられるの。
しかし、孫娘を泣かしたらどうなっても知らんがの?」
怖い!そしてこの人やっぱり……
「お祖父さん、《鑑定眼》で俺のこと調べるのはやめて下さいよ〜。
あんまり見られたいものじゃないですし」
「ホッホッホ。やはりばれておったか。わしの《鑑定眼》に気づいたのは娘婿とシューヤ殿だけじゃよ。ちなみにわしの《鑑定眼》で名前も見えなかったのはシューヤ殿だけじゃ。魔族でも思考まで見えたんじゃがの」
相手の強さと《鑑定眼》のレベルで観れる情報が変わるのか。
目が光ったように見えた時から怪しんでは居たけど、本当にあたるとはな。
《鑑定眼》は厄介だし、これからは気をつけよう。
「それでは孫娘を頼んだのじゃ!」
机に頭をぶつけそうな勢いで頭を下げるお祖父さん。
対する俺は
「こちらこそ本当にお世話になりました!そして責任を持ってメイを守ります!」
机を割りそうな勢いで頭を下げた。
〜〜〜
その後準備の整ったメイと2人で手を繋ぎ、《ワープ》の準備をする。
|村長(お祖父さん)にはメイと俺にたまには霊薬を手に入れて帰ってくるように言われ、ムキムキには無言で握手を求められた。
そして
「《ワープ》!」
俺は異世界で初めての村に別れを告げた。
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ありがとうございます!
次はメイサイドで書く予定です!