第14話 神速
少し長めです。
とりあえず、スケルトンの壁をどうにかしないといけない。
俺はメイを背中に乗せたまま海に潜りなおし、魔大陸へ近づく。
海中にも陸ほどではないが、大量のスケルトンがいる。
「メイ、どうしようか?」
「蹴散らしちゃいましょう!」
メイのテンションが高い。
ドライバーズハイみたいなものと、魔王に挑むという緊張のせいだと思うが、作戦の面であまり役に立たないな。
確かに、俺一人ならスケルトンをゴミのように蹴散らすことも可能だろう。
ゴミは蹴散らしちゃいけないけどね!
しかし、俺の背中にはメイがいるのだ。
避けるのが上手くない俺の背中では、メイも安心できないだろう。
遠距離攻撃で片付けるか。
「《ウォーターブレット》」
一瞬、何も起こらずに静寂が俺たちを包む。
しかし、次の瞬間には俺の前一直線上のスケルトン達が崩れた。
「今のうちにーー!」
「閉じましたね」
そしてすぐに隙間は埋まった。
そりゃあそうだ。こんだけたくさんいるんだから、1列倒したところでたかが知れている。
じゃあどうするか?
弾幕でしょ!
「ウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレットウォーターブレット!後は連射!」
名前が長くて面倒臭い!と思って連射とか言ってみたら、自動で連射されている。
《ウォーターブレット》のMPは低かったので、打ち過ぎを気にする必要はない。
実際高くても関係ないけどね!
俺は人差し指を少し動かすだけで、おびただしい数のスケルトンを蹂躙する。
「わぁ!レベル上がりまくりですよ!」
そうか。今、俺とメイはRPGでいうパーティーの様な状態になっている様だ。
メイの声がでかいのも、耳にレベルアップのファンファーレが響いているからだろう。
「全く相手になりませんね!」
「お前が言うなよ」
もう殆ど殲滅した、というところで陸に上がろうと歩き出す。
ん?
連写の止め方知らねぇ?
「止まれ!ストップ!終了!終わり!おしまい!止まって!」
「『自分のスキルを使いこなせない』って本当だったんですね」
メイはさっきまで高かったテンションがなかったかのように静かな声で、言ってくる。
レベルアップも止まったみたいだしな。
それでも、全然止まる気配がない。
仕方がないので一先ず人差し指を上に向けて進む。
大量のスケルトンの尸を乗り越えて
二日ぶりに陸に着いた。
スケルトンの尸と言ったが、重複はしていない。
天を指差し尸を越えていく俺。
指先から制御不可能のレーザーさえ出ていなければとても絵になるのにな!
陸に上がった俺の目の前に広がるのは真っ白な風景。
雪景色のような綺麗なものでは無く、一面に広がる骨だ。
しかも動く。
骨が俺たちに群がる前に俺は人差し指を骨に向ける。
骨は指を向けた先から動きを止めて崩れる。
俺は既に指を指鉄砲からビームの形に変えている。
こういうところは大切だ。
陸上も蹂躙しきると、俺は再び陸の上を歩き出す。
「痛いです!」
後ろからメイの悲鳴が聞こえた。
すぐに後ろを振り向くと、メイはスケルトンの死骸の上に足を踏み込めない様だ。
魚人族は基本裸足だし、割れたりしている骨の上を通るのは骨が折れるだろう。
うまい。
「またおぶさってやるよ」
俺はメイのところまで行き、背中を差し出す。
「お願いします」
メイをおぶさって俺は再び歩き出す。
もちろんドラゴンに靴を溶かされた俺も裸足だが、俺のHPは10000近いのだ。
だが、歩いていて気づいた。確かに全く痛くない。しかし、キモい。
「神速の魔王ゲパルドの魔王城は海岸のすぐ近くにあるそうなのですぐに見えるーーってさっきから何つぶやいてるんですか?」
「星の砂もプランクトンの死骸なんだよ!」
「何言ってるんですか?」
「悪い。(精神の)HP減少を防ぐ呪文みたいなものだ」
「な、なるほど」
そう、かの有名な星の砂もプランクトンの死骸なのだ!
ならば下にあるネズミや何かしらの爬虫類の様なもの、人間などの死骸も気持ち悪がる必要はない!
例え形が結構残ってたり、海の水で濡れてヌルヌルしててもだ!
呪文を唱えたり、生き残り(1回死んでるけど)を倒したりしながらしばらく歩くと、白い平原を越えて、魔王城が見えた。
魔王城、平原の中ポツンと建つその姿は確かに大きいが、塔は3個くらいしか無く、横幅は小さい。
「なんか思ったより小さいな」
「魔王は眷族が周りに住む魔物だったり、新しく召喚したりするので、城の中に駐在する兵がそんなにいないんですよ」
確かにゲームとかの魔王も色々モンスターを出してきたりするもんな。
そうして俺たちは城壁の前までやって来た。
訂正しよう。
近くまで来ると超でかい。
この城壁とかどうやって作ったんだろう。
「デカいな」
「さっきと言っていること真逆ですよ。まぁ気持ちもわかりますけどね」
まじデカいな。
でも、城壁とお堀があるんだけどどうしよう?
RPGなら勇者を迎えてくれるんだけどな。
「インターホン探そう!」
「何ですか?それ?」
「あれだよ、ドアノッカーだっけ?」
「何で魔王倒しに来たのに正面から入ろうとしてるんですか?」
「礼儀?」
「バカですか?あ、この辺堀の幅が狭いですし、とびこえちゃってください」
「メイはどうすんの?」
「そうですね、お堀を泳いで越えたら城壁はよじ登りますかね」
「よし、俺にいい案がある!」
そう言うと、天を指していた指を城壁に向けてアーチを描く。
「よし、取り敢えずお堀を越えよう!」
お堀を越えて、さっきアーチを作ったところを押すと、綺麗にくり貫けた。
「よし、それで城にはどうやって入ろうか?」
「今更ですけど、何ていうか……デタラメですねその魔法。これ多分城の壁も抜けてますよ?」
言われて城の壁を押してみる。
はい、侵入できました!
「魔王の部屋は上にあるはずです。真ん中に階段があるのが一般的な城の作りですね」
ということで目の前に壁が現れるたびに軽く押すだけでアーチ型の穴ができる。
うん、やばいね。
しばらく押すと、階段のところまで来た様だ。
階段を上に登る。
「「「え?」」」
階段の上に登ると3人が一斉に言葉を失う。
そう、巡回兵らしきスケルトンと顔を合わせたのだ。
今まで居なかったし、いないものかと思った。
「そ、その者はどうした?」
スケルトンが喋った⁉︎
このネタはもういいですね。
「あ、あれです!ほ、捕虜です!」
「あー、ツカマッチャイマシタ」
とっさに適当なことを言ってみる。
メイも下手な芝居で合わせてくれたが、捕虜2人が城の中歩き回ってるとか訳がわからんな!
「そ、そうか。取り敢えず、地下牢に入れておけよ」
「え?あ、いや、わかりました」
こ、此奴!俺をスケルトンと勘違いしてやがる!
「ん?お前、その体……」
「え?あ、ほら、あれですよ生前を思い出したみたいな?」
「侵入者だぁぁぁ!」
目の前のスケルトンが叫んだ。
「背負ってください!逃げますよ!」
メイの言葉に合わせてメイを背負うと、逃げ出す。
しばらくめちゃくちゃに走ると他の部屋とはかなり大きさの違う大きな扉を通り過ぎた。
「待ってください!今の扉が魔王の部屋に繋がってます!
「嘘だろ!」
さっきの扉は既にどこから出てきたのかわからないレベルのスケルトンの波に覆われてしまっている。
「突破です!」
「よっしゃ!」
上に向けていた人差し指をスケルトン達に向けて、殲滅していく。
スケルトンを淘汰すると、次の追っ手が来る前に、部屋の扉を開ける。
今回はちゃんと壊さないで開けたよ?
ギギギィィィ
鈍い音とともに重い扉が開いた。
扉の先にいるのは黒い肌でツノを持ち、二足歩行をする鬼のような生き物。
身長は俺の1.5倍くらいあるが、威圧感よりも醜い顔が気になる。
生まれたばかりの赤ちゃんの顔と死にかけのおばあちゃんの顔を足して2で割ったような顔だ。
「ゲパルド様に逆らうのはお前かぁ?」
「神速の魔王ゲパルドの眷族の魔族です!」
こんなのが魔族らしい。
これはロリ魔王とかは期待できなそうだな。
そうすると魔族の体がぶれた。
「遅いな!」
後ろから小突かれる。
振り向くと蹴りが頭に入っていた。
人の頭を蹴るなんて許せん!
「シューヤさん!大丈夫ですか?」
「問題ない!」
1分で倒す!
俺は最初は使わずに封印していた人差し指を解放する。
「オラオラオラ!」
魔族の動きも不意を突かれなきゃ遅いものでそれに向かって人差し指をふる。
死の指揮者!
……調子乗りました。
頑張って俺に近づこうとしているみたいだが、全く近寄れていない。
なんか骨が折れるような気持ち悪い音が聞こえる中、
「こ、こんなことが……」
いかにもなセリフを吐いて、とうとう魔族は倒れた。
魔族の血って緑なんだな。
「次は魔王だ」
「はい」
メイと真剣な顔で見つめ合い、静かな声で覚悟を確認すると、目の前にある、さっきより大きく、細工が凝った扉に手を掛ける。
ドドドドォォォォン‼︎
扉が崩れ去り、その先の大きな部屋には玉座と、その前にいろんな生物を組み合わせたような醜い生物が緑の血を流して転がっていた。
「これはなんだ?」
「魔王、でしょうか?」
俺たちが首を傾げていると、醜い生物が言葉を発した。
「わ、妾は魔王ゲパルド。隣の部屋からこ、攻撃するなど卑怯だぞ。下等な人間よ。はぁはぁ」
ゲパルドさんもしかして……
「だ、第二形態になってもあの不可視の攻撃にはた、耐えられなかったはぁはぁ」
マジか!外したり貫通した弾だけでこんなダメージか!
「わ、妾はもう長くないが、忘れるな。はぁ、き、貴様らがこの世界の魔素を独占しようとし、更に魔王を倒そうと動いている事は分かっている」
え?流れ弾だけで死んじゃうの⁉︎
ん?魔素の独占……?俺?
「エ、エターナルシャインは魔素集めに使おうと思っていたが、関係ない。もう、一部の魔王は動き出している。
これから『人魔大戦』いや、魔族による人族の蹂躙が始まるのだ!ハハハハハ……」
俺のせいで『人魔大戦』起こんの⁉︎
魔王の耳障りな笑い声が小さくなり、無くなると、光の暴力が俺の網膜を襲った。
魔王は流れ弾だけで死にました!
次回から現代に戻ります!
あと、大陸の数を間違えて計算ミスったんで、魔王の数が18→15に修正しました!
ありがとうございます!