第12話 決闘
俺は今、ムキムキな人魚と海底で向かい合っている。
2人きりで村から少し離れた場所で向かい合っているとはいえ、もちろん告白などではない。
……少し吐き気がした。
〜〜〜
決闘の約束の後、俺は講堂内の部屋に案内されて、そこで1時間待機する様に言われた。
その時に魚人の人が履いている海パンも貰ってかなり丁重に扱われてる気がする。
俺が今まで俺の大事な所を隠してくれていた海藻を《アイテムボックス》にしまうと、部屋にメイが入ってきた。
「メイ、俺にどうして欲しい?」
「決闘には勝って欲しいです」
「俺が本気出したら相手死んじゃうかもよ?」
「じゃあ、本気を出さないで勝って下さい。
ローレさんは短気ですけど、悪い人じゃ無いんです。
殺したりしたら絶交です!
でも、シューヤさんならできますよね!」
「まぁスキルなんか一つも使わなくても手加減して勝てそうだよ」
「やっぱりそうですよね!」
可愛い女の子に期待を受けて失敗する訳にはいかない。
改めてメイを見ると顔は日本人とは少し違うが、それによって長くて綺麗な水色の髪がとてもマッチしている。
文句無しの美少女だ。
ん?俺、今中々犯罪的じゃない?
美少女と密室で2人きり。
俺も向こうも魚人の皆さんと同じ水着姿。彼女は胸が小さいにも関わらずビキニを着ている。
「すいません。今すごい失礼なことを考えませんでした?」
「そんなことないよ。メイが可愛いなって」
メイの顔がみるみる赤くなっていく。リンゴの様に真っ赤だ。
「で、でも私、メロみたいに胸おっきくないですし」
「俺、貧乳大好きだよ」
「色気もないですし」
「今にも襲いそうなんだけど」
「……」
顔をさらに真っ赤にして、もはや紅ショウガの様なもはや不健康そうな色になりながら、俺からジリジリと距離を取るメイ。
手はない胸を押さえている。
まずったかな?引かれてる気がする。
本音なんだから仕方ないじゃん!
そう思いながらもフォローをする。
「いや、今襲ったりしないよ?決闘の前で時間ないし」
「ば、バカ!です!」
メイは一言だけ言い残して紅ショウガな顔のまま部屋から去って行ってしまった。
可愛いな。確実に俺の好感度落ちたけど。
メイがいなくなってしまったので、スキルの確認をする。
俺の持っているスキルは
《アイテムボックス》
《言語理解》
《状態異常耐性》
《ウォーターブレット》
の4つだ。
今まで使ってきて、よくわかっていないのは《ウォーターブレット》である。
シーカイザースケルトンと戦った時、満を持して使って何も起こらなかったのだ。
《メテオ》のことがあるので無闇矢鱈には使いたくない。
どこかで何かが壊れる音がしたことから時間差という訳では無いだろう。
仕方が無いので、部屋の中に誰もいないうちに使ってみることにする。
発射を見逃さない様に、指鉄砲の形をした手を注意して見る。
「《ウォーターブレット》!」
一瞬、ほんの一瞬だけ指から何かが出たのが見えた気がする。
しっかりと確かめるため、今度は指鉄砲の発射口に当たる部分に目を近ずけて発射する。
「《ウォーターブレッt》アァァァ」
大佐の真似をする余裕も無いレベルで目が痛い。
だんだんと意識が薄れるが、激痛と《状態異常耐性》が意識を失うことを許さない。
辛い、本当に死ぬんじゃ無いか?
10秒ほどの地獄の後、部屋に誰かが入ってきて詠唱を始める。
「……癒せ、ヒール」
少しずつ目の痛みが引いていき、やがて、目を開けると、泣きそうな顔をしたメイがいた。
「何やってるんですか?私が来なかったら大変でしたよ?誰かにやられたんですか?」
「ありがとう、メイ。自分でやったんだよ。でもおかげで《ウォーターブレット》が何なのか分かったよ」
「何で無茶をなさるんですか?必死になってた私がバカみたいじゃ無いですか」
そう言うと、泣き出してしまった。
確かに《ヒール》を使っていたメイの顔はとても必死だった。
悪いことをしてしまったとは思いながらも、俺の胸に頭を擦り付けて泣いているメイの頭を抱える。
あってるよね?ポンポンしてるのも正しいよね?
若干、突然ありがちなシチュエーションの当事者になったことと、水の中なのに何故か分かるメイのいい匂いにテンパりながらも、決闘の策略を考える。
まず、《ウォーターブレット》は《メテオ》よりよっぽど正しく発動している。
ただ、打たれる球が速すぎて全く見え無いだけなのだ。
目を近づけすぎた俺は目をつらぬかれ、死にかけた。
死ななかったのは恐らくステータス制の問題だろう。
ステータス制のこの世界ではHPが0になら無い限り、死な無いのだと思う。
でもまぁ、使い方さえわかれば中々使いやすい魔法だと言える。
流石に弱そうなのを選んだだけあったというところか。
壁を見ると綺麗に二つ穴が開いていたので、レーザーくらいの気持ちで打てば大丈夫だろう。
メイは泣き止んで、眠り始めている。
メロを運んだり、《ヒール》を使ったりで疲れていたのだろう。
さっき本気で俺のことを考えてくれていたメイに悪戯をする気にもなれず、村長が俺を呼びに来た時、部屋にあったベッドに寝かせるまでは、メイを優しい気持ちで受け入れながら、決闘の戦い方を考えていた。
〜〜〜
こうして俺はムキムキの前にいるわけだ。
さっきまでのメイとの空間に比べればもう地獄だ。
秘密兵器があるとはいえ……
「さっきの魔法もありますし、頑張ってください」
メイの声だ。すぐに起きちゃったのか。
相手には聞こえてないみたいだけど、手の内バラすなや!
「両者相手を殺すのはなしじゃ!相手を戦闘不能にするか、降参させたら勝利とする!ルールを守って楽しく決闘じゃ‼︎」
「それでは、始めるのじゃ‼︎」
俺の気がが整わないうちに、村長が始まりの合図を出してしまった。
戦闘開始後、俺とムキムキはどちらも動かなかった。
ムキムキはそんな俺を見て言った。
「一発くらい殴られてやろうと思ったが動くことも出来ないか?」
俺は口を真一文字に結んで声は出さない。
そんなやすい挑発には乗らないのだ。
そして、ムキムキは俺が無視している事で少し警戒心を上げたのか、静かになり、槍を構えて泳いでるとは思えないスピードで俺に近づいてくる。
ーーしかし、シーカイザースケルトンの剣戟よりは遅い。
俺は最初の突進を避けると、距離を取りながら、槍を避ける。
これなら、秘密兵器を使わなくてもなんとかなるかな〜何て思っていると、
「《プリベントスペル》!」
呪文を発動されてしまった。
「これでこの辺りの空間では魔法は阻害される!素手で戦いに臨んだのは失敗だったな。それでは魔法使いだと言ってるようなものだ!」
「これじゃあ、魔法が使えない!」
ドヤ顔で話すムキムキと外野から悲痛な声を上げるメイ。
いや、ただ武器を持っていないだけです。
さっきからムキムキが黙っていたのはボソボソ詠唱していたからだったのか。
話しながらも続く槍の攻撃を避け続けるが、
「小賢しい。この技で終わらせよう!《影取り》!」
次の瞬間、目の前にいるムキムキの姿が影のようになって消えた。
ズン!
後ろから衝撃
衝撃で少し胃液が漏れてしまう。
俺の後ろの丁度俺の影があったところにムキムキが現れ俺を刺そうとしたのだ。
しかし、俺のVITは7000。こんな奴の攻撃などダメージにはならない。
長引くと面倒臭そうなので、槍と俺の皮膚が拮抗して刺さらない事に動揺しているムキムキの両手を捉え、
「これが俺の秘密兵器だ‼︎」
口の中に残ったドラゴンの胃液を撒き散らしながら叫んだ。
それが水に溶けて顔や剥き出しの身体にかかり、ムキムキは暴れるが、俺は両手を離さない。
ちょっと可哀想だなと思い始めたあたりで村長の声がかかった。
「止め!勝者はシューヤ殿じゃ!」
俺は決闘に完全勝利した。
ありがとうございます!