87話 ああ……これで第三次イケメン大戦の勃発だ。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺の名はアスラだ。場所は言えんがドラゴンの群れの若長を務めていて……そこに転がっているハイアシンスの兄でもある。無礼な真似を働いて済まなかった」
そう言って頭を低くしたのは多分頭を下げたんだろうと思う。若長って言やぁ王子様みたいなモンだよな? そんな立場のドラゴンが貧弱な人間に頭を下げるなんて普通は有り得ないんだろう。それは周りにいるお供のドラゴンを見れば良く分かる。ハイアシンスとかいう白いのほどじゃないが、何で人間なんかにウチの若が頭を下げないとならんのだという空気をヒシヒシと感じるからな。ブッ飛ばしてやろうか?
「俺はリュウセイ。あっちで八つ〇村よろしく頭からパンツ丸出しで地面に埋まってるのがフローラだ。まぁ、一人ずつ恥をかいたって事で手打ちにしようぜ。お前さんは中々話せるドラゴンみたいだしな」
「フッ、そう言って貰えると助かる」
フッとか言ってるし、きっとドラゴン界ではイケメンなんだろう。それに無茶苦茶強そうだし。俺に首絞められてションベン漏らしてるハイアの比じゃねえ、強者のオーラみたいなものがヒシヒシと伝わって来る。アスラが理性的な性格で良かったよ。
「それにしてもリュウセイは人間とは思えんほど強いな! いくら未熟で短絡的とは言え、ドラゴンを絞め落とすような人間が居るとは思わなかった!! さぞかし名のある冒険者なのであろうな!!」
「お互い様だろ? 俺だってアスラみたいな理性的で話の分かるドラゴンが居るとは思わなかったぜ。さぞかし夜はお忙しいこったろうよ」
「何、それも若長の務めに過ぎんよ」
おっと、結構際どい会話にも乗って来るね。サラリと返す辺りが好感度高いぜ。種族が違い過ぎて全然嫉妬心も湧いてこないし。リア充野郎と友達になってもいいかななんて考えたのは初めてだな。
「しかし、このままでは少々話辛いな。俺も人型を取るから待ってくれ」
「え? ま、待っ――」
俺が止める暇も無く、アスラの体が光を放った。
ダメだ、ダメなんだアスラ!! ドラゴンが人間の形になったりする話は俺だって知ってるよ。だがな、そういう時、決まって物語ではドラゴンは超絶美人か超絶イケメンに変身するんだよ!!! そうなったらイケメン嫌いの俺はお前とはもう友達にはなれねぇんだ!!! 小粋な下ネタも笑って許してくれる寛容なお前でいてくれよ!!! それを流せる俺でいさせてくれよ!!! イケメンになったお前に夜は股間が乾く暇が無いなんて言われたら……戦争だろうが……種族が違うならまだしも、同じ人型になったら戦争だろうがっ!!!
そんな俺のざわつく心中も省みず、アスラはあっさりと人型になった。なってしまった。ああ……これで第三次イケメン大戦の勃発だ(第一次は糞エルフ、第二次は角悪魔)。
俺が悲しい覚悟を込めてラギを呼び出し、アスラのパールハーバーを奇襲しようとしたその時、俺の目に飛び込んで来たのは……。
なんか太った褐色のオッサンだった。ついでに言うと禿げてた。
「え……?」
「うむ、500年ぶりの人型だが、こんなものか。髪は戦闘中掴まれないように丸め、太っている体は裕福さを表すのだったな。済まんリュウセイ、一応俺にも見栄という物があるのだ。ハハ、格好良く変身したからと言って軽蔑はしないでくれると嬉しいな」
声だけはイケメンボイスの勘違い王子に俺は……。
「友達になろうアスラ!!!」
生涯で一度も言った事が無いセリフを脊髄反射で解き放っていた。
種族を超えた友情です。