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84話 俺が本気を出せばこの程度は余裕――

「わ、はや、ひぇ、ほわっ、ひょえっぷ!」


「おい、イチイチうるせぇよ! せっかく乗せてやってんだから、ちったぁ大人しくしろっての!」


「だ、だってぇ……!」


今俺が居るのは町から大分離れた場所にある平原だった。そして隣で喚いているのはフローラだ。あの後優しいナイスガイである俺は2日連続での失禁に流石に落ち込んだフローラを元気づける為に一緒に遠乗りに誘ったのだ。しかしこれにはオリビアとマロンの両名が反対意見を唱えた。曰く、「私の席にソイツを乗せるな」だそうだ。いつからお前らに指定席が出来たんだっての。


しかしフローラと密着して遠乗りは俺も貞操の危機を感じるのでシューティーに尋ねた所、俺の魔力を一気に半分注ぎ込む事で機能拡張を図ると言ったので任せてみた。その結果生えて来たのがサイドカーである。


……いや、サイドカーが生えるって何だよ。質量保存の法則舐めてんのか?


と、言ってみても詮無いか。そもそもチャリがバイクになった時点であの世のラボアジェ先生は匙を投げ尽くしてるだろうし。ちなみにサイドカーの元になったのはママチャリの前に付いていたカゴを応用したらしい。……まぁ、ギャーギャーうるさいフローラの尻を前のカゴに入れて走る事を考えれば俺に文句はねぇんだが。事故ったらフローラが「フローラだったもの」になるしよ。


《言っておきますがね、私の高貴なボディに粗相をしたら振り落として挽肉にしてやりますから覚悟しておきなさい》


「ひぇぇぇん!!」


《やかましい娘じゃのう……》


シューティとラギの事は適当に説明しておいた。簡単に言うと「もうなんか凄い乗り物と剣」だ。……いや、どうせ詳しく説明したって分かんねぇだろうから省いたんだよ。フローラもイイ笑顔で「分かった!」って言ったし。フローラの脳じゃ俺の説明は理解出来ねぇんだからそれでいいのさ。


そろそろフローラの喚き声にも飽きたので、俺はシューティに送る魔力を絞って速度を落とした。今は大体30キロ前後だ。


「ほら、これくらいならいいだろ?」


「う、うん。これくらいなら何とか……」


そのまま走り続けるとフローラもスピードに慣れてきたのか、周囲の景色を楽しむ余裕が出て来たようだ。低速トルクも安定しているシューティは相変わらずトンデモ性能だな。


「ん~、天気もいいし気持ちいいわね、リュウセイ!」


「気分が晴れたんなら何よりだよ」


シューティはガソリンエンジンでは無いのでこのくらいの速度ならそれなりに音を気にせずに会話は出来る。燃費は……いい方じゃねぇかな? 時速100キロで走ると1秒で1ポイント魔力を消費するのが仕様なので、俺の場合なら835ポイントあるから14分弱は走れる……かと言うとそうじゃねえ。


魔力は総量が多ければ多いほど時間経過当たりの自動回復量が多くなるらしく、俺の魔力は魔法使いであるオリビアの倍はあり10秒で8ポイントほど回復する。1分で50ポイントほどなので、最大魔力量の1%が10秒毎に回復するんだろう。つまり大人しくしていれば俺の魔力は17分ほどで全快するワケだ。


しかしこの自動回復には穴があり、静止した状態でなければ効果は10分の1まで落ちてしまう。更に激しい戦闘中などは全く働かなくなる。戦いながら無限に魔法連打とかは無理だ。まぁ、俺には召喚魔法しかないから気軽に使えねぇんだが。召喚魔法は燃費が悪いんだよな。今度オリビアに簡単な魔法を教えて貰おうか。


ともかく、こうして運転している間なら自動回復は働くので、2人乗りの重量を考慮しても80キロ以上出さなければ消費する魔力と釣り合うって事だ。4人乗りだと……50キロくらいかな? その辺の計算も今度しておこう。ステータスの知力は魔法の威力にしか適応していないみたいだから、こんな込み入った計算を脳内で済ませるには俺のスペックでは厳しいんだよ。ダチに付き合って受けたセンター試験の数学なんて、200点中2点しか取れなかった黒歴史は伊達じゃねぇぜ。


と、そこでフローラが警戒の声を上げた。


「あ……リュウセイ、このまま進むと危ないかも」


「なぬ?」


フローラの警告に辺りを見回しても俺の目には何も見当たらんが……。魔物どころか小動物すらいねぇぞ?


「ホントかよ、何も見えねぇぞ?」


「ホントよ~、私の目が特別だって知ってるでしょ? この目があるから私達は危険な目に遭わずにここまで来れたんだよ?」


おう、何か凄く納得した。フローラみたいなポンコツがこれまで曲がりなりにも五体満足に旅をしてこれたのはそういう理由だったか。俺は兵士の皆さんがよほど優秀なのかと思ってたぜ。しかし考えてみればフローラなんかに優秀な兵士を付けても勿体無いもんな。俺が王様ならそんな優秀な兵士はもっと国の為になる場所で働かせるね。


「リュウセイ、何か失礼な事を考えてない?」


「全然? それよりどこに何が居るのか教えろよ。弱い相手なら小銭稼ぎに蹴散らしてやるぜ」


現状、金はいくらあっても困らないしな。多少稼いでいけばオリビアとマロンも俺の事を見直してリュウセイさんと呼ぶ様になるに違いない。ま、俺が本気を出せばこの程度は余裕――


「ドラゴンが4匹ね~。一番強いので50メートルくらいの大きさだから、1000歳越えの古竜だね。ブレスを吐かれたら人間なら骨も残らないと思うわ」


「よし帰るぞ」


「……小銭稼ぎに戦わないの?」


馬鹿野郎、ドラゴン4匹とか頭おかしいんじゃねぇの!? 余裕なんて一瞬で吹っ飛んだわ!!


「いいかフローラ、人間は知恵のある生き物だ。そして知恵のある生き物は危ない場所にわざわざ自分から飛び込んだりはしねぇんだ。そして俺は人間だから知恵がある。だから勝てる勝てないに関わらず俺は戦略的撤退を選ぶんだ。ドゥーユーアンダースタン(理解したか)?」


「ん~……最後何を言ったのかは分からないけど、とりあえず逃げるって言う事は分かったわ」


「オーケー、それが伝わってるんなら別に構わねぇよ」


ダメだな、つい英語は通じない単語があるのを忘れて使っちまうや。これは日本語の中に和製英語が多いのが原因であって、俺が奇妙な冒険譚のファンだからというのは関係ないはずだ。多分。


「シューティ、このまま街に引き返すからナビゲートを頼む。ラギは一応剣に戻れ」


《了解しました》


《腐っていないドラゴンとは滾るのぅ》


滾るな。俺は帰るんだよ!


「あ、……多分だけど今ブレス吐いたわ」


「のんびり報告してんじゃねぇよ!!! どこだ!?」


「リュウセイの左から後6秒後に。5~、4~、3~、1~」


「2はどこ行った!?」


という俺の突っ込みも空しく、その直後耳を聾する大音声と共に俺の周囲は大爆発に包まれたのだった。

久しぶりの更新。そしてフローラとデート。……トラブルの予感!!!(矢吹先生の方でもいいですが)

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