83話 保父さんになったつもりは無いんだが・・・
良く晴れた空。部屋に差す光は柔らかく、今日一日がいい日になるのではないかと予感させてくれる。目覚めもすこぶるいい。…………視界の端に芋虫の死骸みたいな何かが転がっていなければ尚良かったのに。
「むにゃ……えへ~……そんなに強く縛っちゃダメよ……気持ちよくなっちゃう……ぷひ~……ぶるる……」
……筋金入りの変態芋虫はほっといて顔でも洗って来るか。
外の井戸まで行くと、そこには見慣れた人影が2つあった。
「よう、早いな2人とも」
オリビアとマロンだ。だが2人ともまだ眠いのかどことなくボンヤリとしていた。
「……おはです」
「おはよ。リュウセイはよく眠れたみたいね……」
「は」って表現が引っ掛かるな。
「あんだよ、昨日は何もなかっただろ?」
「……夜中にフローラの寝言が煩いのよ」
「起きてるのかと思うくらい流暢に喋りやがるです。寝てても起きててもうるせぇなんて反則です……」
生きてるだけで人に迷惑を掛けるってのも業が深いな。だけど物音がする程度、俺には関係無いがね。そもそも、この世界って車も走ってないし電化製品特有のブーンて音も無いから俺には静か過ぎるんだよな。俺は電気が付いててもテレビ付けっぱなしでも寝られるクチだし。
「何にせよ、そんな状態じゃ朝から調べ物はキツイだろ? 部屋に戻ったらちょっと寝ておけよ。フローラは……窓の外にでも吊るしとけ」
もしかしたら次起きた時には蛹から脱皮して綺麗なフローラになってるかもしれねぇよ。そしてこう言うんだ。
「リュウセイ! 生まれ変わった私の生まれたままの姿を見て~ん!」
……何も変わってねぇな……脳細胞を無駄遣いした気分だぜ……。
「そうさせて貰おうかな……今本なんて見てたら間違い無く涎のシミを付けちゃうわ」
「時間が勿体ねぇですが……確かにこんなんじゃ……ふぁぁ……」
どちらかと言うと真面目な2人がこんな事を言うくらいだ、まだ相当眠いんだろう。そうすっと俺はどうするかな……2度寝するほど眠い訳でも無いし……
《マスター、私とお散歩でもしませんか? こんないい天気ですし、気持ちいいと思いますよ? ……なんだったら木陰でもっと気持ちいい事をしてもいいんですよ?》
……シューティとフローラは欲望に忠実という点で言えば似てるかもしれんな。まぁ、後半は無視するとしても、ちょっと外を一回りしてくるぐらいはいいかもしれん。俺だって少しは異世界を満喫したいじゃん?
「そうだな……せっかくだし行くか」
《妾も行くのじゃ! あの変態女と残るのは嫌なのじゃ!!》
フローラは順調にラギにも変態枠として登録されたらしい。
「おう、お前が居ないと俺は丸腰だからな」
《わーい!!!》
《…………チッ、鉄屑も来るのか……》
シューティ、聞こえてんぞ。
「んじゃ、俺とシューティ、ラギはちょっと出かけて来る。昼頃には戻るから……」
「ギャーーーーーーーーーー!!!」
その時、断末魔の悲鳴が宿の上の方から外に届いた。今の声は……フローラ!?
「チッ! 一体何があった!? オリビア、マロン、お前らはここから部屋を見張ってろ! 強盗でも入ったんなら窓から逃げて来るかもしれねえ!!」
「分かったわ!」
「任されたです!」
その場をオリビアとマロンに任せ、俺はラギを片手に大急ぎで宿の中に引き返した。あんなのでも一応仲間だ、死なれたりしたら目覚めが悪い。それに見た目だけは悪くねぇから、もしかしたらエロい事を強要されて……いや、そしたらむしろ歓喜の声を上げるはずだから無いな。無い。
そんな事を考えて万一の最悪の事態から現実逃避し部屋に飛び込んだ俺の目の前には虚ろな目をして転がるフローラの姿があった。余程苦しかったのか、顔には大量の汗と涙が流れている。
「フローラ……クソ、遅かったか……」
俺はガックリと膝を付いて項垂れるしかなかった。事態は俺の予測を上回るほど酷かったのだから……。
「また漏らしてやがる……」
縛られたフローラの股間の辺りの縄が水分を吸って変色していた。縛られていたからトイレに行けなかったんだろう。
「う、うえぇぇぇぇ……2日連続でこんなのって無いよぅ~……」
もうそこには爽やかな朝の残滓は欠片も残されていなかった。あるのは別の残滓だ。……具体的な描写は控えるぜ。大体自分ので分かんだろ。
「……とりあえず親父に雑巾借りてくらぁ」
居たたまれなくなった俺はすぐに部屋を後にした。なんか俺、この世界に来てからこんな事ばっかりしてる気がするな。保父さんになったつもりは無いんだが……
フローラの扱いが酷い! 可哀想!!
・・・まぁ、縄でグルグルの時点でこの展開を予測した人には花丸をあげます。