82話 性(サガ)じゃない、じゃねぇよ
「寝る前に言っておきたい事がある。・・・おいフローラ、人が喋ってる間に服を脱ぐな。頭膿んでんのか?」
「え? 別に私は恥ずかしく無いよ?」
水玉パンツ丸見えで堂々としているフローラはオリビアとはまた一味違った性癖なんだな。本当に一切恥ずかしがっていないせいか、何のエロスも感じない。元々感じないんだが。
「お前が恥ずかしいかどうかはどうでもいい。それより、この部屋は男一人に女3人、そして無機物2つだ。つまり男が俺しか居ねぇ。だから言っておくが、寝る時はこの布で仕切りを作る。この中は個人の場所だ。着替えたりする時はちゃんと隠すように。そして寝ている奴の個人の領域には入るな。特にフローラ」
「えぇ~~~~~~~・・・うふ~ん、リュウセイ~わ・た・し、一人じゃ眠れないのぉ~んぺっ!?」
ベッドの上で雌豹のポーズを取りつつ左親指を甘噛みしてこっちを挑発していたと思われるフローラの脳天にオリビアの踵落としがブチ込まれた。唇を噛んだフローラは声にならない呻きを漏らしつつ口を押えて転げまわる。
「永眠させてあげましょうか、この雌豚。もしこの部屋で変な事をしたらアンタのその突き出た尻に『魔法の矢』を口から漏れるまで嫌ってほど叩き込んであげるからね」
「ひぃぃ・・・いひゃいぃ~」
「その発情豚は一番奥で寝させるです。出来れば簀巻きにしておくといいですよ」
誰一人フローラに容赦しない。だってコイツ懲りねぇんだもんよ。
事実フローラは退かなかった。
「やだやだ~!! 一緒に寝ぇるぅ~!!! だって夜一人で寝るとか怖いじゃない!!! 誰かと温もりを共有したいと思うじゃない!!! それが血の通った生き物の性じゃない!!!」
性じゃない、じゃねぇよ。ここまで欲望に忠実で羞恥心を捨て去った女を俺は見た事ねぇや。ある意味尊敬に値するな。男がやったら冷たい輪っかを掛けられるのは必至だが。
「お前今まで一人で寝てたんだろうが」
「そんな昔の事なんへ知やない!!」
若干痛みで舌が回っていないが、コイツの事だからマジかもしれん。回ってないのは頭の方だろうが。
「これ以上は時間の無駄ね。『安き眠りを。『睡眠』」
「あっ、ズルい!!! そんな、の・・・ひ・・・きょ~・・・・・・」
オリビアの指先から放たれた光の粒がフローラの顔にぶつかると、フローラはすぐに目の焦点を失い、シャクトリムシの様に尻を天に突き出した格好のまま眠りに落ちた。出来ればもう起きないで欲しい。
そんなフローラに構わず、マロンがトコトコとフローラの下に行き、手にしたロープでしっかりと縛り上げて行く。ついでにフローラの荷物を漁って六魂珠を探り当てた。おい、手慣れてねぇか?
「さ、もう寝ましょ。明日も予定があるんだから」
「これでソイツに何かあっても六魂珠は確保出来たので問題無いですよ。充実した一日でした」
「・・・・・・もうそれでいいか、お休み」
何もかも考えるのが面倒になったので、俺は二重の意味で目を閉じた。きっと明日になればいい知恵も浮かんでいる事だろう。フローラが朝日を浴びて浄化されていればいいなと思いながら俺は眠りについたのだった。
こうして見ると、フローラに比べれば皆理性的だったんだなぁと思うのです。