72話 そしてこの既視感(デジャヴ)は一体・・・!?
「・・・もう朝かよ・・・」
俺は宿に居てすら安眠出来ねぇのか。この世界には安眠妨害する奴らが多過ぎるぜ・・・
「けど今日話をしなけりゃまた今晩もまともに寝れやしねぇんだろうな・・・ウゼェ・・・」
そういや昨日いつ寝たんだっけか? 俺が生きとし生ける者が何故胸に惹かれるのかを持たざる者に語って聞かせたら鳩尾にドロップキックを食らった事だけは覚えてるんだが。ラギは割と真剣に聞いていたと思う。真剣だけに。なんてな。
「・・・アホらし。まだ皆起きてねぇみてぇだから俺ももう一眠りすっかぁ・・・」
俺は懐に居るラギを抱き枕にして再び夢の世界へ・・・・・・・・・
「とう」
「ごぺすっ!?」
俺は何故か毛布の中に包まっていたラギを冷静にベッドから蹴り落とすとシームレスにマウントポジションに移行して小さい腹を圧迫した。
「く、くるひっ! リュウセ、くるふぃ!!」
「・・・ら~~~~~ぎ~~~~~? お前はどうして俺の毛布の中に混ざってんだ? ん~~~~~? 怒るから言ってみな?」
「ち、ちょっとは譲歩の心を示しても良いではないか!」
俺の許さない宣言にラギは涙目になったが、幼児は小さい内に躾けとかないとロクな大人にならないという。だが痛いのは流石に気が引けるので、ここは伝統のアレを行う事にした。
「ハイ駄目~、ラギは無限くすぐりの刑に処す! 執行!!」
「なっ!? はひゃ、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!! や、やめ、アヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
俺がラギの体を両膝でガッチリホールドして脇腹を突くと、恐ろしく敏感なラギは一突きで大爆笑に陥った。
「オラオラオラ、反省したか?」
「はんっハヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!」
「してねぇな・・・オラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」
「プヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!!」
一発突く毎にビクンビクンとラギの体が跳ね上がるが、俺の筋力を撥ね退ける事が出来れば英雄らしいのでラギにそんな事が出来ようはずも無かった。
「ハハハ、こりゃ癖になりそうだぜ!! こうなったら音を上げるまでトコトン突きまくって・・・」
「・・・トコトン・・・何?」
・・・いつからここは凍結地獄になったんだ? 冷気がハンパねぇんだけど・・・? そしてこの既視感は一体・・・!?
そういや俺はいつからこの部屋にラギと俺しか居ないと錯覚していた? ・・・そうか、これが寝惚けるってヤツだな!! いやー、参ったぜ!! 昨日寝不足だったもんな!!
と、いう趣旨の説明を俺を視殺しようと目論む長耳貧乳魔神にしたのだが、ラギの「だ、だめ・・・もうこれ以上突かれたら、妾・・・あっ」という喘ぎ声で台無しになってしまった。「あっ」て何だよ「あっ」て。
「・・・穿て矢よ。『魔法の矢』『最強化』」
返事は野太い魔法だった。
「ぬおおおおおおおおっ!? 摩擦がああああぁぁぁぁぁ・・・!」
俺に突き刺さる寸前に矢(というか殆ど投げ槍に近かった)を掴んだが、それは回転している上に強力な貫通力で押さえる俺ごと窓を突き破り、そのまま朝の街を横断して街を取り巻く石壁に張り付けた・・・というか磔だ。
「む、無茶苦茶しやがって・・・俺は聖人じゃねぇぞ・・・!」
幸い、少しだけ逸らして服が縫い止められただけで済んだが、俺は朝から磔放置プレイを余儀なくされ、門番のオッサンに発見されて怒られた上に石壁の修繕費を支払う事になったのだった。
やっぱり聖人は偉大だ。俺は2度と磔はしたくない、そんな事を誓う晴れた朝だった。
同じ様な事を繰り返す男、リュウセイ。
段々突っ込みが苛烈になるエルフ、オリビア。