71話 何なんだこの果てしなく鈍臭い生き物は!?
結局、俺が眠れたのはまたしても明け方近くになってからだった。せっかく回復したのに消耗してから寝るとかアホとしか言い様が無い。
そして眠ったはずの俺がこうして思考している時点で色々察して貰えると助かる。
「・・・で、何の用だよシリュー」
「貴様、我の話を聞いておったのか!? 何故何事も無かったかの様にドラゴンゾンビなんぞを討伐しておる!?」
「話?」
そう、眠った俺の前に現れたのはシリューである。魔力が回復したのかと思ったが、その貧相な体は透き通っていて回復したとは思えない。
「本気で忘れておるとは・・・我は6つの宝珠を探せと言っただろうが!! それなのにリュウセイと来たら起きたらスッカリ忘れおって!! オリビアのみならず、ドワーフの小娘も篭絡したのだから話を聞くのに好都合ではないか!!」
「・・・ん、おお、覚えてる、覚えてるに決まってんだろ!! 話にはタイミングってモンがあるんだ、今日聞くつもりだったに決まってんだろ!?」
ヤベェ・・・99%忘れてたぜ。最近の一日が濃密過ぎるせいであって、俺が若年性健忘症に掛かっているワケじゃねぇよ?
「どうだかな・・・?」
チッ、こっちの動揺が伝わってるのか、シリューの目には疑念しかない。魔王の癖に生意気な。
と、そんな事を考えている俺の首筋に何かがコツンと当たった。
「なんだ?」
思わず振り返ったが、後ろには特に気になる物は無い。そもそも隠れる場所なんて無いからな、この脳内世界は。ひたすら開けた景色が広がるばかりで目に付く物と言えば、10メートルほど先にある木箱ぐらいだ。
「とにかく、明日は必ず聞くって! 調べ物をする予定だし、そうなりゃ当然話題に・・・」
釈明する俺の頭にまた何かが当たり、俺は先ほどよりも素早く後ろを振り向いた。
「・・・っ!」
すると後ろにあった木箱が一瞬だが動いた気がした。いや、俺の動体視力で見るに間違い無く動いた。
「・・・」
「・・・」
俺は箱を見つめたが、箱は沈黙したままだ。が、当然と言えば当然だろう、箱は無機物であり言葉を発したりはしない。そして自ら動いたりはしないのだから。この際シューティーの事は脇に置こう。
「・・・ふぅ、ちょっと疲れたな。あの箱にでも座るか」
俺は素早く箱に駆け寄り上からドンと腰を下ろした。一瞬箱が逃げようとした様な気がするが気のせいに違いない。
「シリュー、そういやまだセルフィはクサナギでパズルやってんのか?」
「いや・・・あまりに女々しくて吐き気がしたので9割ほど組み上がっていたクサナギを蹴り飛ばしてやったら泣きながらどこかに行きおった。そんな屑は知らん」
もう勇者じゃなくていじめられてる小学生だな、ソレは。
「ふーん、人間は何を思ってセルフィを勇者なんぞにしたんだろうな? な?」
語尾に重ねて木箱を踵でガンガン蹴ると「ひぃっ、ひいっ!」と悲鳴が聞こえて来るが、授業中に後ろの席から消しカスを投げる様な嫌がらせしか出来ない奴に反論は無い様だ。出来ないのかもしれんが。
「セルフィなんぞどうでもいいわ!! それより起きたらすぐに行動するのだぞ!? 我はずっと貴様を見て―――ええい! 時間切」
全文を言い切る事無く魔王様は深淵へと帰って行った。・・・ところでアイツどこに行っちゃうんだろうか? 俺の脳内のどこかには居るんだろうが・・・
「ま、いいや。・・・おいセルフィ、お前も俺になんか言いたい事があった化けて出たのか?」
「・・・せ、セルフィちゃんは今日は留守です~・・・」
「ざっけんじゃねぇぞゴルァ!!!」
バコンと木箱を蹴り飛ばして凄むと中に居るセルフィが腰を抜かして涙目で転げ出て来た。
「はひぃぃぃん!? こ、怖いぃぃぃぃい!! 魔王より怖いよぅ!!!」
「うっせぇ!!! 俺は後ろでコソコソコソコソしてる奴が大っ嫌いなんだよ!!! 言いたい事があるんなら顔を出して言えや!!! 仮にもお前は人間の勇者だろうが!!!」
こういう女々しい敵意というのは俺が最も嫌う物だ。それなら面と向かって「悪いけどアンタの事は嫌い」と言われる方が俺としては随分気が楽なのだ。なあなあで居るよりも決裂するならハッキリ決裂した方がいい。
「お、大きい声をださ、出さないで下さいぃ・・・」
「・・・ふん。じゃあ出さねぇよ。それで俺に何か用か?」
一応勇者という自覚はあるのか、俺の発言でなけなしの勇気を振り絞ってセルフィが答えた。・・・内容は果てしなく情けないが。
「・・・あ、あの・・・こんな事を頼むのは・・・その・・・アレなんですが・・・」
「・・・」
「ひぃん・・・怒ってるよぉ・・・」
は・や・く・言・え!!
額に青筋が立ったが、何とか大声を上げるのは堪えた俺を誰か褒めてくれ。
「いいから言えよ」
「じゃあ言いますよぉ・・・あっ、緊張して来ちゃった。こういう時は深呼吸を・・・すー・・・はー・・・すー・・・はー・・・すッ!? ボヒュッ!! エフッ、オフッ!!」
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!! 何なんだこの果てしなく鈍臭い生き物は!? こんなんで勇者が務まるとかどうなってんだ!!! 深呼吸してむせる勇者とか死ね!!!
「はぁ、はぁ、で、ですから、私が言いたいのは・・・あっ、そんな!? ち、ちょっと待っ」
その言葉を最後にセルフィも消えて行った。恐らくグズグズしていたから魔力切れで時間切れになったのだろう・・・そ、それは分かるが・・・!
「だあああああああっ!!! すっげーイライラする!!! クソがああああああああああああッ!!!」
セルフィとの対話は俺の精神に負荷を掛けただけで終わるという最悪の結末で終わり、俺の意識は覚醒していったのだった。
果てしなくうざい感じを目指してみました。