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53話 これで勘弁してくれよ。

「・・・・・・・・・しにたい」


ヤベェ、オリビアがガチでヤベェ。なんかふて腐れて森の中なのも構わずに寝っ転がってる背中から哀愁すら漂って来る。


宿屋の中でとは違って服を着ていたんだからまだマシなんじゃないかと思ったが、そういう物では無いらしい。・・・まぁ、知り合いの前で絶頂したら俺でも凹むかもしれんが。


「なぁ、気にするなよオリビア。長く生きてりゃそういう事もあるさ、な?」


「・・・無いもん。今まで生きててあんな目にあった事なんて無いもん」


あまりの精神失調から幼児退行している様だ。組んだ腕に顎を乗せて落ち葉をフーフーと吹き飛ばしながらのたまうオリビアはその容姿も相まって下手すると中学生かそれ以下に見える。俺は引率の先生じゃねぇぞ。


「寂しい遊びをするなよ。次からは気を付ければいいだろ? もう採り方も分かったんだからさ」


「ヤダ」


「ヤダっておま・・・いや、何でもねえ」


思わずカッとなりかけたが、そもそもオリビアには助けられっぱなしの俺がここで労働の尊さを説くのも何か違う気がする。自分の事は自分でって爺ちゃんも言ってたからな。その割にはMMOやってる時は俺に素材集めを手伝わせる爺ちゃんだったが。


「分かった、俺はまた集めて来るからお前はここに居ろ。いいな?」


サワリ草は音や衝撃には敏感だが、触覚は鈍い様なのでそっと掘り起こせば大丈夫だ。これもステータスの器用さがいい仕事をしているのかもな。


そう言って俺がその場を離れようとすると、ズボンの裾が引っ張られて俺はその場にビタンと叩き付けられた。は、鼻がぁ!?


「・・・行っちゃヤダ」


俺のズボンの裾を掴んだオリビアがそんな事を仰った。くっ、どうしろってんだよ!


《やれやれ、主殿は女の扱いがなってないのじゃ。ここはもうぶちゅ~っと・・・》


《・・・アナタを轢き潰せばそういう音がしそうですね・・・他にも色々出るでしょうが、些細な事です》


《ヒィィ!!》


お前ら、漫才なら他所でやれ。


「リュウセイ、座って。そして後ろを向いて」


なんだ、後ろから締め落として記憶を飛ばすつもりか?


訝しくは思ったが、俺は言われた通りにその場で後ろを向いて地面に胡坐をかいた。へいへい、好きにしろよお嬢様。


「・・・」


その俺の背中に後ろに座ったらしいオリビアの背中が当たり、温かさが伝わって来る。


「しばらくこうしてて・・・お願い」


「・・・あいよ」


俺が下手に何かを言って事態が好転した試しが無いので、俺はオリビアのしたいようにさせた。背中越しにオリビアの心音とちょっと高い体温が感じられる。子供みたいだな。


はぁ・・・俺は異世界の森の中で何やってんだろ? 他の誰が見ても俺が勇者と魔王を倒した人間だとは思うまい。この世には腕っぷしだけで解決出来ない事が山の様にあるのだ。


「・・・・・・・・・グス・・・」


現に今俺は後ろに居るオリビアをどう言って慰めたらいいのか分からない。笑い飛ばせばいいのか、抱き締めて胸で泣かせればいいのか・・・所詮俺はまだ22の若僧なんだ。そんな器用さはステータスにゃあ載っちゃいないのさ。


・・・オリビアは俺の事をどんな風に思ってるんだろうな? 単なる口の悪い異世界人か? まさか前言ったみたいな恩人とでも思っちゃいないだろうな? よせよ、俺はそんな大層なヤツじゃねぇ。精々、今出来るのは人間カイロが関の山なんだ。これで勘弁してくれよ。


結局俺に出来た事といえば、オリビアの気持ちが落ち着くまで側に居てやる事だけだった。







~~~~~(オリビア視点)~~~~~


また失敗した。


私達の実力なら採取くらい簡単だって思ったのに。


私はリュウセイが慰めてくれるのが嬉しい反面、辛かった。優しくされると惨めな気持ちになる。


「分かった、俺はまた集めて来るからお前はここに居ろ。いいな?」


リュウセイがそう言って行ってしまいそうになった時、私は反射的にリュウセイのズボンを掴んでしまった。リュウセイが顔を打ったのかジタバタと悶えていたけれど、今一人になると私は見捨てられるんじゃないかと思ったのだ。


「・・・行っちゃヤダ」


甘ったれた自分の声と言葉に泣きたくなる。いつから私はこんなに弱くなってしまったんだろう。ずっと一人で生きて来たのに。


・・・ううん、嘘。私は最初から強くなんてなかった。いつだって誰かを待っていた。ただ、それをぶつける相手が居なかっただけだ。


「リュウセイ、座って。そして後ろを向いて」


流石に怒るかなと思ったけど、リュウセイは頭をガリガリと掻いた後、黙って従ってくれた。普段は悪人みたいなのに、気まぐれみたいに優しいのはずるいと思う。そしてそれを期待している私はもっとずるいんだろうな・・・。


座ってリュウセイの体温を感じると心が落ち着いて来る。大きな背中。男の人の背中だ。


「・・・・・・・・・グス・・・」


なんだか情けなくてまた泣けて来た。恥ずかしいのは勿論あるけど、それよりも情けなさが大きい。


・・・リュウセイは私の事をどう思ってるんだろ? 面倒くさい女だって思ってるよね。私をいいヤツだって言ってくれたけど、そんな事は無い。単に久しぶりに普通に話した人間と少し長く話をしたかっただけなのだから。




それから長い間、そのままで居たけれど、リュウセイはずっと私の後ろから離れなかった。


その温もりは、少しだけ私の凍てついた心を溶かしてくれる気がした。

少しだけオリビアの心情に触れてしんみりする回です。無機物2人は放置して下さい。

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