47話 何カクカクしてるのよリュウセイ!
「思ったより着心地も履き心地もいいな。ありがとよ、オリビア」
「いいわよ別に。これならそう簡単に見つからないでしょ?」
俺とオリビアはさっさとメシを食い、宿屋を後にして服と靴を買って街を歩いていた。
俺も髪が白いのを除けば周りの人間と特に大差ねぇな。平凡な顔に産んでくれた両親には感謝したい。
「じゃあまずは仕事を探しに行きましょう」
「ん? 調べ物は後回しか?」
どっちが先でもいいんだが、ヤケに確定的な物言いが気になって俺はオリビアに尋ねた。
「本を見るにはお金が必要なのよ」
「ああ、なるほどね」
異世界に公共福祉の概念を求めても仕方ないか。多分本自体が貴重品なんだろうな。
「ちなみにいくら掛かるんだ?」
「一日銀貨一枚ね。汚したり破ったりしたらその本に見合ったお金を払わないとダメよ?」
うげ、高ぇな。
「それで仕事なんだけど・・・リュウセイ、やっぱり冒険者をやらない?」
「えー・・・」
まだ諦めてなかったのか。
「俺は危ない事はしたくねぇな。汚くて臭くて悪い男と絡むのもイヤだし」
「まだそんな事言ってるの?」
呆れた顔でオリビアが言うが、トラブルを避けるのはとても重要な事だと思う。地球の歩き方にも危ない場所には行くなって書いてあるしな。ここは地球じゃないが、まぁどこに居ても活用出来る金言だろう。
「勇者と魔王を2回も倒しておいてこれ以上怖い物なんて殆ど無いわよ」
あるぜ、ナナイロドクガエルとかな。
「そんなに危険な仕事が嫌なら、採取系の仕事だけしてもいいじゃないの。討伐系の方が稼ぎはいいと思うけど、貴重な薬草や鉱物も結構いい値段になるはずよ?」
「ん~、でもなぁ・・・」
「そ、それに・・・そんなに他の人と絡みたく無いんなら・・・わ、私とだけ一緒に居ればいいじゃないの!」
ああ、そうか。これはゲームのRPGじゃないんだから、パーティーメンバーをフルにして冒険する必要は無いんだった。
「そうだな、オリビアが居ればそれでいいか」
「!!! も、もう!! な、何を言ってるのよリュウセイは!!! もう! もうっ!!」
モーモー言ってるけど背中をバシバシ叩くの止めてくれねぇか? 地味に生命力減るんだけど・・・
「じ、じゃあ決まりね!! 早速冒険者組合に行きましょう!!」
そんなに冒険者がやりたかったのか。そういえば最初から勧めて来てたもんな、冒険者。色々な場所に旅をするってのが束縛されたオリビアの琴線に引っかかったんだろう。
「~♪」
鼻歌まで歌ってゴキゲンだな。しかもただの鼻歌なのに滅茶苦茶上手いでやんの。酒場でオリビアが歌った方が稼げるんじゃないか? 俺はその隣でロボットダンスでもしてるさ。ウィーン・・・ウィ、ウィーンガシャってな。
「ホラ、何カクカクしてるのよリュウセイ! 置いて行くわよ!!」
俺の渾身のロボットダンスを見たオリビアの感想はそれだけだった。クソ、ロボットを知らないヤツには伝わらないとは、寂しい世界に来たもんだ。
俺の異世界で初めて晒した現代知識がロボットダンスというのもどうかとは思うが。
スキップでもしそうなオリビアを追って、俺は切ない気持ちで溜息を付いた。