44話 佐々木 流星は永遠に不滅だぜ!!!
「それでどうなったの、お爺ちゃん!!」
椅子に座って当時を思い出す俺の話を孫の恒星がワクワクしながら聞き、話の続きをせがんだ。妻の晴子とは1男6女を設けた俺は今、息子の七星に厄介になっている。
晴子とは2年前に別れは済ませた。「あなたと一緒になれて幸せでした」と言われた時は、俺は久方振りの涙を流して晴子の名前を何度も何度も叫んだが、晴子はそれきり帰って来なかった。
誰とも接触しようとしなくなった俺を心配して息子の七星が自分の家に招いてくれ、周囲の人間の温かい対応で俺は安らぎを取り戻す事が出来た。
俺ももう80だ。この先は長くないだろう。だからせめて孫の恒星にだけ、俺は自分が若い頃に体験した冒険譚を語ってやっているのだ。
愛梨にも話そうか迷ったが、父親になる男が他の女とキスしたりする話をするのは躊躇われた。そのおかげでという訳でも無いだろうが、愛梨は無事に非行に走る事無く成人し、そして嫁に行った。
娘が多いとこういう時が辛いものだ。皆俺の手元から巣立って行ってしまう。娘の結婚相手はとりあえず全員出合い頭に一発殴ってやった。娘たちには超怒られたけど。
この世界でもステータスの恩恵は残っていて、俺は恐らく世界で一番強い80歳だと思う。総合格闘技のチャンピオンくらいなら3秒以内に仕留める自信がある。
しかし俺はそのステータスを生かして目立とうとはしなかった。格闘界に行けば永世チャンピオンを張るのも夢では無いが、俺は帰ってから晴子に告白し、晴子は「まずは仕事を探して下さいね?」と泣き笑いで了承してくれた。
そして俺は小さな運送会社に就職したのだ。バリバリ働いて半年で結婚に漕ぎ着けた。
それからは流れる様に日々が過ぎていった。働いて、晴子とイチャイチャして、働いて、愛梨と遊んで、働いて、最初の子供が出来て大泣きして、働いて、子供が出来て、働いて、子供が出来て、働いて・・・そして今に至る。子供が出来過ぎなのは勘弁して貰いたい。俺は晴子を愛していたのだ。
今俺の手には指輪が2つある。ラギとシューティの指輪だ。
俺はラギの指輪を結婚指輪として晴子に贈った。いざという時に守って貰おうというつもり、では無い。この世界に帰って来た時、ラギもシューティもただの指輪になってしまったのだ。それでも俺の思いが詰まった品であるので、お守り代わりにと晴子に渡した。シューティだと拗ねるだろ?
その指輪は晴子が死んだ時、俺の指に戻っていた。こうして見ると、俺の手、老けたなぁ・・・
「ね~お爺ちゃん!! 続き、続きを聞かせてよ!!」
「ん? おお、スマン。で、どこまで話したっけな?」
「オリビアちゃんに魔法の矢で撃たれまくったところ!」
ぷっ、あったな、そんな事。
「ハハ、そうだったな、それじゃあ続きを・・・」
そう言った俺の目の前が不意に暗くなった様な気がした。手に力を入れようとしても上手く力が入らない。しかも世界から色が失われて行くように色褪せていく。
ああ、そうか・・・時間なのか・・・
「なぁ恒星、お爺ちゃんの宝物をお前にやろう。ホラ、手を出して・・・」
「え? なになにっ!?」
俺は指からラギとシューティの指輪を外した。痩せた指からは簡単に指輪は外れ、そしてそれを差し出された恒星の手の平にそっと握らせた。
「お前が異世界に行ったら、きっと助けてくれるはずだ・・・それまで、大事にしてくれるか?」
「え!? これってラギちゃんとシューティちゃんなの? で、でも、これお爺ちゃんの大切な物なんじゃないの?」
俺は微笑んで恒星の頭を撫でた。
「いいんだよ、俺はもうそいつらと十分に楽しい時間を過ごした。だから恒星、次はお前の番だぞ?」
「!? うん!!! ボク、カッコイイ勇者になる!! そしてオリビアちゃんをお嫁さんにしてあげるの!!」
その言葉に俺は思わず噴き出した。
「プッ・・・ハハハハハ!! そ、そりゃあいい! オリビアはエルフだから、きっと今でも行き遅れて若いまま独り身だろうから、お前が貰ってやってくれ!」
「も~、なんで笑うのお爺ちゃん!!」
いや、久々に腹の底から笑った気がする。笑い過ぎて少し疲れたくらいだ。
「ハハハ・・・ふぅ、ごめんな、恒星、お爺ちゃん、少し疲れちゃったみたいだ。少しだけ眠ってもいいか?」
「え~~~・・・仕方ないなぁ、ちょっとだけだよ? 起きたらまたお話の続きを話してね? 約束だよ?」
俺は約束を破る事になると分かっていながら、恒星を悲しませない為に自分の小指を恒星の小指に絡ませて言った。
「ああ、約束だ。・・・お休み、恒星。・・・ナナイロドクガエルには気を付けろよ・・・」
「うん、お休みなさい、お爺ちゃん!! ナナイロドクガエル?」
それが終わると俺の瞼は閉じられ、手は力無く恒星の指を滑り落ちた。ああ、最後に七星にも何か言っておけば良かったかな・・・いや、アイツには散々今まで言って来たんだ。別に無くても・・・
そして俺は意識を手放した。絶対的な孤独感が俺を包み始めたが、俺は恐怖を感じなかった。さて、晴子に会いに行くか。
「お爺ちゃん・・・? お爺ちゃん、お爺ちゃん!! ぱ、パパ!! お爺ちゃんが息してないよ!!!」
そんな声も遠くなって、俺の魂は闇に溶けていく。
俺の意識が現世を離れていくと共に、懐かしい声が俺の頭の中に響いた。
《・・・。・・ター。マスター! 聞こえますか!?》
《主殿!! 目を覚ますのじゃ!!》
「リュウセイ!! 聞こえないの!? お、起きなさいよ!!」
・・・なんとまあ、晴子の前にコイツらに会う事になるとはな。へっ、また佐々木 流星の新たな冒険が始まるのか? よし、現世のしがらみも無くなった事だ。一丁やってやろうじゃねぇか!!
俺は声のする方向へ流れて行った。
佐々木 流星は永遠に不滅だぜ!!!
「う~ん、恒星・・・オリビアは泣き虫だから気を付けろよ・・・あとよく露出するけど趣味だから許してやってくれ・・・」
「コウセイって誰よ!? それにそんな趣味は無いわよーーーーッ!!」
天地がひっくり返る感覚がして俺の体に衝撃が走った。な、何だ、このベットから落ちた様な衝撃は!?
「おわぁっ!?」
な、何が起こったんだ? アレ、ここどこだ? 恒星は? 七星は? そもそも俺の家は?
「もう・・・何寝ぼけてるのよ、リュウセイ。やっと帰って来れたのに」
帰って来た、だって? ・・・・・・・・・あ、も、もしかして、今のは・・・夢、か?
「ば、バカな・・・俺の80年の生涯が一炊の夢だったとは・・・」
ヤベェ、夢オチなんぞ許される事じゃねぇぞ! 誰が許さないのかなんて俺には分かりはしないが、とにかく安易な夢オチなんてモンは許されねぇんだよ!!
《主殿はオリビアの魔法を避け切った所で頭から落ちて気絶したのじゃ。そうしたら急に精神世界が歪み始めての。妾達は外に放り出されたのじゃ》
《マスターだけが目をお覚ましにならなかったので、とても心配しました!!》
「わ、私は悪くないわ! リュウセイが悪いんだからね!!」
・・・はぁ、なんか毒気を抜かれちまったな、もういいよ。尻が痛いと思ったのもきっと気のせいだと思うし。・・・気のせいだよ、な?
外を見ると薄らと明るくなり始めている。全然寝た気がしないのにもう朝かよ・・・
「・・・ちょっとだけ普通に寝かせてくれ。2時間でいいから」
「いいけど・・・今日こそ街に出るのよ? それと部屋も少し片づけないと・・・」
そういえば、何故か部屋が荒れてんな。お前がやったのか?
「わ、私だけじゃ無いんだからねっ!? どうも2人共寝ながら暴れたみたいなのよ・・・精神世界に行ってる間も、ここには私達の実体があって、それが夢遊病みたいに暴れたらしいわね・・・」
「・・・」
割と重要な事を言っている気がするが、今はもうどうでもいい。それより俺は寝たいんだ。そしてまた同じ夢を見て、恒星に「ハハハ、お爺ちゃんの死んだフリは凄いだろう!」って言って安心させてやりたいんだ。縁を切られる可能性も無くは無いが。
「・・・じゃ、2時間後な・・・」
「う、うん・・・」
疲れた目をした俺が本当に寝たそうにしてるのを察したオリビアが静かにしてくれた。ありがとよ。
そして俺はベットに横たわると、ようやく落ち着いて眠りに付いたのだった。
ある意味、渾身の1話でした。
当然、最終回じゃありません。最終回の皮を被った夢オチです。
・・・これで最終回に夢オチは使えなくなったワケだ・・・