42話 甘酸っぱいなんて嘘だったのじゃ!!
俺の周りの奴らは頭がおかしい。俺の唇はエリクサーじゃねぇってのにやたらと吸い付きに来やがる。しかもラギに至っては正面から飛びかかって来たので俺の唇は絶賛流血中だ。
「ま、マスター、そろそろ私も限界ィヒィィィ!!」
「嘘だったのじゃ!! 甘酸っぱいなんて嘘だったのじゃ!! 鉄みたいな味がしたのじゃババババババ!!」
意味不明な発言にイラっと来たので俺はアイアンクローの力を強めて揺さぶった。シューティは両手で俺の手を掴んでいるが効果は上げられておらず、ラギは長い髪を振り乱してされるがままだ。・・・アレ? さっきまでラギの髪って短くなかったか?
考え事をしている内に2人がグッタリして抵抗しなくなったので俺は手が手を放すと、2人はそのまま地面にべちゃっと横たわった。ふん、これで少しは懲りただろうよ。
そんな2人を放置して俺はオリビアの所へ歩いて行った。
「な、何よ! こっちに来ないでよ!!」
「チッ、うるせー、これでも被っとけ!」
俺はローブを脱ぐとオリビアに頭から被せた。それなら文句無いだろ?
「わぷっ!? ・・・コレ・・・リュウセイの匂いがする・・・」
「それくらい我慢してくれ。他に隠せる物なんてねぇんだからよ」
それでも今の状態よりはマシだと思ったのか、オリビアはもそもそと俺のローブを被り始めた。その顔はもにょもにょして複雑そうだったが、背に腹は代えられないと判断したんだろうな。
・・・あ、切り裂かれたローブじゃ胸を隠せねぇ! と俺は思ったが杞憂だった。オリビアの慎ましい胸はローブを押し上げる事も無くしっかりと隠せている。良かったなオリビア、貧乳で。
「・・・何かバカにされている気がするわ・・・」
「妙な因縁をつけるなよ。・・・これからどうする?」
勘は鋭いらしいオリビアから話題を逸らして俺は尋ねた。実際問題、どうやったらここから出られるんだろうね?
「リュウセイの精神世界なんだから、リュウセイが何かをすれば戻れるんじゃないかしら?」
「俺に心当たりはねぇなぁ・・・」
と、そこに倒れて動かなかったセルフィが目を覚ましたので、俺は咄嗟にオリビアの前に立って戦闘態勢になった。剣が無いからって油断は出来ないからな。
「・・・ふぇ? ここどこですかぁ?」
だがセルフィの様子がおかしい。凛々しい口調はなりを潜め、力の抜けた目元と口調はまるで普通の女の子みたいだ。何だ? 頭の配線でも切れたのか?
「あっ、く、クサナギッ、クサナギはっ!?」
セルフィはキョロキョロと地面に這いつくばったまま辺りを見回してクサナギを探していた。その横顔には先程の凛々しさはやはり欠片も見つけられない。
何だろう、クサナギはコイツにとってセーフティブランケットみたいな物なんだろうか?
「その娘はクサナギのアホの依り代となっておったのじゃろう。それが本来のその娘の人格じゃ」
「なにぃ!?」
二重人格みたいなモンか? 殆ど本来の人格の出番は無かったみたいだが・・・
「・・・ラギ、お前も出来るのか、あれ?」
「当然じゃ! アホのクサナギに出来て妾に出来ない事などないわっ!」
嘘付くんじゃねぇよ。斬られて短くされちまったじゃねぇか。お前ら聖剣とか神剣とか言ってるけど呪いの装備だろ? 魔剣とか邪剣とかに改名しちまえよ。
「さて、どこに封印しようか・・・元の洞窟でいいか・・・」
「わ、妾はそんな事はしないのじゃ!! それに主人格の許可が無いとそんな事は出来ないのじゃ!!」
ほんとかよ? って事はだ、あの人格になってたのはセルフィの許可があったからだって事になるぜ?
「・・・じゃあセルフィは望んでクサナギに体を貸してたってのか? 何でだ?」
「妾には分からんのじゃ。直接聞いてみたらいいんじゃないかの?」
それもそうだな、話は早い方がいい。
俺は柄とちょっぴりだけになった刀身のクサナギをペチペチ叩いて話し掛けているセルフィに声を掛けた。側から見たら危ない人だな、コイツ。
「クサナギ! クサナギ!! お、起きて下さぁい!! アナタが居ないと私は・・・!」
「おーい、ちょっといいか?」
その時初めて俺の存在に気付いた様にセルフィは俺の方を見て露骨に体を強張らせて震え出した。
「ヒッ!! わ、私をどうするつもりですか!? か、神に選ばれし勇者に手を出すと天罰が下りますよぉ!! ぐ、具体的には・・・そ、そうです!! か、髪を一本ずつ引き抜く痛みを髪が無くなるまで続けられる呪いがリュウセイさんに降りかかります!! だ、だから犯さないで・・・」
マジか。神って超陰湿だな。というか今思い付いただろ、ソレ? しかもコイツ、俺を何だと思ってんだよ。何故俺の周りに居る奴らは俺を性犯罪者にしたがるんだろうか・・・
それに天罰が下るならとっくに下ってるだろ。俺は勇者殺しで魔王殺しだぞ。称号に書いてあるから嘘じゃねぇよ。
「お前の平たい体には全く興味がねぇよ。そんな事よりここから出る方法を教えろ」
「ひ、平たい!? そんな事!? お、乙女の体をそんな事って・・・」
面倒臭ぇヤツだな。されたいのかされたくないのかどっちだよ。
「さっさと答えろや!! あ゛あ゛?」
「ヒィィィ!! し、知りませんゴメンナサイゴメンナサイ!!」
「・・・こうして見てると明らかにリュウセイの方が悪者に見えるから不思議ね・・・」
オリビア、うるせーぞ。
「わ、私はシリューさんにくっついて来ただけなので、詳しい事はシリューさんに聞いて下さいぃぃ・・・」
チッ、この勇者マジ使えねぇ。
「変な真似するんじゃねぇぞ。もし妙な事したら、今度こそ真っ二つにしてやるからな・・・」
「ハヒィ! な、何もしませぇん!!」
うん、脅しが効く相手は楽でいい。・・・多分セルフィは自分が気が弱いからクサナギに代わりにやって貰ってたんだろうな、と俺は理解した。・・・そんなヤツを勇者にする神とやらは相当な間抜けだな。
俺は溜息を付いて向こうで寝っ転がっているシリューの方へ歩いて行った。死んじゃいないだろ、多分。