41話α リュウセイには秘密の話(オリビア視点)
「・・・・・・」
「そ、そう睨むでない、オリビア。事実ちゃんと治ったじゃろ?」
私は無言でラギアナギア様を睨み付けた。ほっぺたも膨らませて「私、怒ってます!!」と全力でアピールしてだ。だって、本当に怒ってるんですもの!! 髪の短い人間の子供みたいになってるけど、そんな事は些細な事よ。
「・・・なんでそんな事を言ったんですか?」
それでも体が治ったのもまた事実なので、一方的に責める訳にもいかないのがもどかしかった。
「それはじゃな、ここが主殿の精神世界じゃからじゃ。オリビアも主殿も気付いておらんようじゃが、2人の今の体は生身では無いぞ? あくまでも精神世界に投影された、極めて本体に近い影の様なものじゃ」
「えっ!?」
その言葉に私は愕然とした。だって、匂いや感覚だって・・・
そう思った私の指は無意識に自分の唇に触れていた。さっき起きた時に突然リュウセイの顔が目の前にあって、そして私の唇はリュウセイの唇で塞がれていて・・・
そこまで考えると私の頭は真っ白になった。反面、顔は真っ赤だ。これが現実じゃないなんて信じられない。
だって、せっかくリュウセイが・・・
「ん? 何だよ? まだ具合でも悪いのか?」
そんな事を考えていたら、ついリュウセイを見てしまった。リュウセイは相変わらず目付きの悪い顔で私の方を見ている。
「な、何でもないわよ!! こっちを見ないでって言ってるでしょ!!」
「チッ、いい加減機嫌直せってんだ・・・」
ブツブツ言いながらもリュウセイはまたそっぽを向いた。リュウセイは傍若無人で礼儀知らずに見えるけれど、言った事はちゃんと守ってくれる。
でも、私はそれが怖い。
リュウセイは口には出さないけれど、私に恩を感じてるみたい。リュウセイはひょっとしてその恩義だけで私と一緒に居るんじゃないかと思うと、私は足が震えそうになる。だから私は自分がリュウセイの役に立つ事を見せ続けなければならない。
私が役に立つ限り、リュウセイが私を遠ざける事は無いと思うから。・・・こんな後ろ向きな自分の思考が嫌になるけど、ずっと一人で居た私にはどう人と接するのがいいのかよく分からなかったから。
今だって心配してくれているリュウセイに酷い事を言ってしまった。こんな不器用な自分が情けなくて泣きたくなる。
「で、話を続けると、オリビアが治ったのは、精神が高揚したからじゃ。他にオリビアが喜びそうな事が思い付かなかったのじゃ、許せ」
・・・へ?
私は今まで沈んでいた気持ちが一気に吹き飛ぶのを感じていた。
だ、だって! ラギアナギア様の言い方じゃ、私が、えっと、その・・・り、リュウセイの事が・・・
「どどどどういう!?」
「落ち着け。精神世界では感情が力になる。喜びは癒しの感情に近しい。じゃから、オリビアを喜ばせれば傷を塞げるかもしれんと思ったんじゃ。・・・効果抜群じゃったな?」
ラギアナギア様がニヤニヤして私にそんな事を言ったので、私は思わずラギアナギア様をぶってしまった。往復で2回。
「へっ!? ぶっ!! ひぎゃ!? ぷへっ!? な、何をするんじゃオリビアッ!?」
「だ、黙りなさい!! いい、ラギ!! その事をリュウセイに言ったらシューティにお願いしてギュルギュルして貰うわよ!! いいわね!?」
「お、オリビア? 妾を呼び捨てに・・・」
「い・い・わ・ね?」
「・・・はいなのじゃ・・・うう、妾、オリビアを助けただけなのに・・・」
「・・・それは良い事を聞きました・・・」
それまで黙って横で話を聞いていた人間形態? のシューティが目に掛けている何かを直す仕草をしながらそう言った。アレ、なんだろう・・・?
そんなシューティの右腕は無くなってしまっている。最後に斬られた時に無くしたんだろうと思う。ごめんね、無理させちゃったね。
と思ったらシューティはトコトコとリュウセイの所に歩いて行き、リュウセイに声を掛けると、振り向いたリュウセイの唇に自分の唇を重ね合わせた・・・って何やってんのよシューティッ!!
「んぐっ!?」
「ん~~~~・・・・・・・・・・・・・・・・・・チュル。・・・ふう、マスター、ご馳走様でしたっ!?」
「キ、キサマ、何を突然突拍子も無い事をやってやがるっ!! し、舌まで入れやがってッ!!」
リュウセイはシューティを片手で顔を鷲掴みにして持ち上げている。痛そうだけど、自業自得だよ!! わ、私だって舌までは・・・
シューティは両手でリュウセイの手を掴んでもがいているけど全然外れないみたい。やっぱり凄い力よね・・・あ、ほんとだ。シューティの手が生えてる・・・
「ち、治療です、マスター!! マスターとキスすると体が治るんですよほほホホォウ!!!」
痛みで語尾がおかしくなってるけど、そういう事にしておいて貰いたい。絶対に真相は吐かないでよね!!
~~~(ラギ視点)~~~
(やれやれ、オリビアもあれくらい素直ならのう・・・傷が治ったのは何もオリビアだけとは限るまいに)
妾の目線の先にはリュウセイの「傷の無い」手があった。フフ、何時の間に治ったのやら?
「さて、次は妾の番じゃな? 初めてのキスは甘酸っぱいというのは本当かのう・・・」
短くなってしまった髪の為に、妾はウキウキとリュウセイに駆け寄って言ったのじゃ!
珍しくリュウセイ以外の視点でした。