40話 まぁ、気持ちは分からんでも無い。
砕けた破片がキラキラと辺りに舞い散る中、俺は手を合わせたまま無言で佇んでいた。
俺の心の中にある思いは一つだけだ。すなわち、
「い、い、い、いってぇぇぇぇええええ!!!!!」
ギャー! 手に破片が刺さりまくってやがる!!
ブチ折るつもりではあったけどこうなるとは予想外だった!! 痛くて合わせた手を開けないくらいに痛い。しかも合わせた手から血が漏れ出して来ている。これ見たくねぇなぁ・・・
だがまだセルフィを倒した訳じゃねえ。俺は痛みを堪えてセルフィの方に視線を向けたが、セルフィは砕けた剣を見つめたまま茫然としていて身動き一つしなかった。
いや、よく見ると目まぐるしく眼球運動をしている。散眼の様に左右の眼球が別々に動いているその様子は正気の人間とは思えなかった。うげ、カメレオンみたいだ。
そしてしばらくそれが続いた後、不意に目の動きが止まって意志の光が消え、そのままその場に崩れ落ちた。なんだよ、剣を砕かれたのがそんなにショックだったのか?
まぁいい、シリューもセルフィももう動かない。つまりは、
「俺の、勝ちだ!!!」
そう、今度こそ俺は魔王と勇者という、考える限り最悪のタッグを下したのだ。勿論それは俺だけの手柄じゃない。ラギが居なかったら有効な攻撃手段すら無かったし、シューティが居なかったらセルフィ達に追いつく事は出来なかった。最後には絶体絶命の俺を助けてくれたし、オリビアは・・・そうだ、オリビアは!?
俺は倒れたセルフィから足元へと視線を向けた。オリビアは相変わらず薄く微笑んだまま微動だにしない。
「オリビア! おい、起きろよ!! 勝ったんだぞ!!! オリビアーーーーッ!!!!!」
どんなに大声を出してもオリビアからの返事は無かった。
クソッ!! これじゃせっかく勝ったのに意味がねぇじゃねぇか!!!
「おい、ラギ、シューティ!! お前ら回復魔法とか使えねぇのか!?」
《妾は剣じゃ。その様な事は出来ん・・・》
《申し訳ありません、マスター・・・》
畜生!! ・・・いや、2人は限界までよくやってくれた。ラギは刀身が短くなったままだし、シューティに至っては自立出来ないくらいに損傷が激しい。これ以上を望むのは酷というものだろう。だけど・・・これじゃ余りにも・・・
《・・・一つだけ助かるかもしれない方法はあるのじゃ・・・じゃが、主殿は嫌がるかもしれん・・・》
何!? そんな方法があるのか?
「ラギ、今すぐにそれを教えろ!! どんな方法だって構うか!! なんなら俺の命だってくれてやる!!!」
どうせオリビアが居なけりゃ無かった命だ。そのくらいで済むなら喜んでやってやるさ。
ここでオリビアを見捨てたら俺は一生後悔する。そんな悔いを残して生きていくのは俺はゴメンだ。
《・・・本当に何でもするのか?》
《ラギ、アナタ、マスターに何をさせるつもりですか!? 場合によっては許しませんよ!!!」
「黙ってろ、シューティ。ラギ、くどいぜ。俺は何でもするって言ったつもりだぜ?」
俺は渋るシューティを黙らせてラギを促した。本当にこうして話している時間すら惜しいのだ。早くその方法とやらを言えってんだ。
《主殿がそこまで言うなら教えよう。その方法とは・・・》
俺は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。一体その方法とは・・・
《接吻じゃ!! オリビアに接吻するのじゃ!!!》
シューティが無言で前輪だけでラギの所までやって来てタイヤでギュルギュルし始めた。・・・まぁ、気持ちは分からんでも無い。
《あっ、ひっ、な、何をするのじゃシューティ!?》
《この鉄屑はこんな時に一体何を言っているんですか? 怒っていいですよね?》
《もう怒っておるでは無いか!? ヒギャァァァアアア!!!》
ラギに詳しく聞こうと思ったが、この様子では詳しくは聞けまい。流石にこんな場面で嘘は言わないと思うし、ならば俺がやる事は一つだけだ。嘘なら後で俺も折檻してやればいい。
俺は横たわるオリビアの後頭部に手を差し込むと、慎重に持ち上げた。血が付いちまうのは勘弁してくれよな、オリビア。
《!? マスター! 待って下さい――》
シューティが気付いて止めに掛かったがもう遅い。いいや限界だッ!! するねッ!!
俺は邪魔が入る前にオリビアの唇を俺の唇で塞いだのだった。
脱・シリアス!