続々・39話 ナイトメアバトル(後編)
当然と言えば当然だが、戦いは一方的に推移していた。ここで「それはモチロン俺の圧勝でな!!」と言えればいいのだが、現実は非情であり、俺が一歩的に押されている。クソッ、ここで俺が主人公なら、ハンサムなリュウセイは一発逆転の秘策を思い付いたとかなんとかいう場面なんだがな。実際は短くなったラギを片手に転げ回るだけだ。
「リュウセイ!! くっ、近くて援護出来ないっ!!」
《マスター!! せめて私が盾に!!》
「来るんじゃねぇ!! お前らじゃ一発で真っ二つにされちまうぞ!! ぐっ!?」
こちらに近づこうとしたオリビアをシューティを俺は止めた。残念だが、2人が加勢しても犠牲者が増えるだけだ。ここは俺がどうにかするしかない。
とは言ったものの、反撃のプランがまるで立たない。セルフィはただ剣を振るっているだけだが、それだけに付け入るスキが無いのだ。俺は所詮戦いの素人であり、一撃の威力勝負なら負ける気は無いが、剣捌きなんて知りもしない。テレフォンパンチになっている攻撃が当たるほどセルフィは素人では無かった。
「いい加減諦めたらどうだ? このままでは無駄に苦しむだけだぞリュウセイ!」
「うるせぇクソ勇者!! 今どうやってお前を料理してやろうか考えてんだよ!! っと!?」
クソ、今のは危なかった! ステータスの後押しのおかげで見えるし、かわせない事は無いんだが反撃出来るほどじゃないのがツライな。
・・・ん、今頭に何か浮かびかけた様な・・・?
「キミがその気なら私にも考えがある・・・先にキミの仲間から仕留める事にしよう」
げっ、コイツ!! 発想が勇者じゃねぇよ!! それは悪役がやる事だろうが!?
「おい! 勇者がそんな卑怯な事をしていいのかよ!?」
「大事の前の小事だ。神もお許しになるだろう」
ならねーーーよバーーーーカ!!!
「・・・セルフィ、お前はもう勇者じゃねぇ!! ただの殺人狂だ!!」
「何とでも言え!! キミ達を切り捨てれば見ている者は誰も居らんのだ!!」
俺はオリビアに駆け寄るセルフィを追って、咄嗟にオリビアを突き飛ばした。
「きゃっ!?」
オリビアは悲鳴を上げてよろめいたが、何とかセルフィの剣の範囲から外れたはずだ・・・代わりに姿勢を低く崩し、よろめいている俺にはもうセルフィの上段斬りをかわす術は無い。
・・・終わったな・・・オリビア、シューティ、ラギ。お前らだけでも無事に逃げろよ・・・
俺は落ちてくる斬撃を前に目を閉じた。最後に浮かんだのは晴子さんと、何故か一緒にコンビニで働くオリビア、シューティ、ラギの姿だった。晴子さんが端末を上手く使えないオリビアの世話を焼き、オリビアは悪戦苦闘している。シューティは一ミリもズレの無い前出しをして微かに笑っており、ラギは商品の包装を破いてしまって俺にアイアンクローをされていた。
ハハッ、なんだよ、随分楽しそうじゃねぇの。俺の中でいつの間にかコイツらの存在がこんなに・・・
そして剣が振り下ろされ、俺の体を両断・・・する直前、俺の体が凄い勢いで横に吹き飛ばされた。
「ゴハッ!?」
こ、この衝撃には覚えがあるぞ! 確かシューティに最初に乗った時の・・・
俺が衝撃から立ち直って目を開けると、そこにはシューティに跨るオリビアの姿があった。きっとよろめいた時にシューティに取り付いて一気に魔力を流し込んで割り込んだんだろう。
「ゲホッ! ・・・もうちょっと穏便に、助けてくれても、いいんじゃねぇの?」
俺は苦笑してオリビアに声を掛けたが、オリビアは俯いたままだ。シューティも答えない。
「おい? オリビ・・・」
俺の見ている前でオリビアの体がぐらりと傾くと、シューティの後部席がガラリと崩れ落ち、2人は地面に横たわった。
「オリビア!? シューティ!?」
《わ、私は大丈夫です、マスター・・・しかし、オリビアが・・・》
シューティはまだなんとか大丈夫の様だが、オリビアの状態は酷かった。肩から脇腹にかけて深い裂傷が奔っていて、どうみても重体だ。もしかしたら・・・致命傷かもしれない。
それでもオリビアの顔は何故か満足そうに笑っていた。
《り、リュウセイ、オリビアはもう・・・》
「黙れよラギッ!!! オリビア! オリビアッ!! ぐっ・・・オーーーリーーービーーーアーーーッ!!!」
オリビアは浅い息遣いのまま笑みを浮かべていて俺の声には答えない。
「愚かな。徒に苦痛を長引かせるだけだと言うのに・・・」
その言葉に俺はピクリと反応した。
・・・何だと、コイツ今何て言いやがった? 愚か? オリビアが? ふざけるなよッ!!!
「テメェはぜってぇ許さねぇ・・・」
俺はオリビアを静かに横たえてセルフィに向き直った。膝を付いたままだが、目だけはこれ以上ないくらいに力を込めてセルフィを睨み付けた。
オリビアは恰好は付けたがるクセに、ドジだし間抜けだしすぐ露出する残念なエルフだ。胸は無いし、共同の部屋の中で一人で致してしまう様な迂闊さについてはフォローしようもない。
だけどよ、コイツは俺をこの世界で初めて助けてくれたんだぜ? 帰って来たら家に変な男が居たら普通は悲鳴の一つも上げて叩き出すモンだろう。殺されてもこの世界なら文句は言えなねぇかもな。だがお人好しのコイツは俺に促されるままにメシを食わせてくれたし、街にも連れて来てくれた。
だから俺は帰る時にはコイツには山ほど礼を渡して帰るつもりだったんだ。色々あったみたいだが、これからの人生は幸せに過ごして欲しいと、心から思っていたんだ。
それをコイツは壊した。
例え俺がここで死のうとも、その報いだけは絶対に与えなければ気が済まない。それが俺を助けて傷付いたオリビアにしてやれる、俺のせめてもの礼だ。
「・・・その様な目で見ても、結果は変えられん。せめて仲良く散れ、リュウセイ」
セルフィがゆっくりと剣を上段に掲げた。
「魔王と勇者を相手取ってここまで善戦したキミは、間違い無く世界有数の強者だ。いや、強者だった。さらば、リュウセイ」
そして剣が振り下ろされる。
俺が望んだ最後の勝機が来た!!
さっき戦いの中で思った事が、オリビアを見て結実していた。
低い体勢で相手を斬るなら、それは当然上段からの斬り下ろしになる。そして俺にはコイツの剣筋が見える。
どこから来るか分からない斬撃では無理だっただろうが、限定されているなら何とかなるはずだ。そう、ラギと戦った時にだって出来たんだからな!!
後は度胸と根性だ!!!
「うおりゃぁぁぁぁぁあああああああっ!!!!!!」
俺は目の前で両手を力の限りで叩き付けた。
「な、何ぃぃッ!!!???」
俺の顔の20センチくらい手前で、セルフィの剣は止められていた。
「見たか・・・これが真剣白刃取りだ・・・この場合、神剣白刃取りか? ま、どっちでもいい。・・・終わりだぜ、セルフィ」
「クッ、下種な人間の分際で私に触るなッ!!! このまま押し切ってくれる!!!」
ん? 変な言い回しをする奴だな? まぁいい、この好機、絶対に逃すつもりは無い!!
「お前らを倒して手に入れた力で負けやがれ!!! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!」
俺は渾身の力で挟んだ刀身を締め付けた。すると、刀身からピシリ、と何かに亀裂が入る音が確かに響いた。
「ま、まさか!? や、やめろ!! やめないかっ!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
俺は自分の腕も砕けよとばかりに力を込め続けた。やがてクサナギの亀裂は手の中から刀身全体に広がっていき・・・
「やめろぉぉぉぉおおおおッ!!!!!!!」
パキャァァァアアアアン!!!
澄んだ音と共に刀身は粉々に砕け散ったのだった。
勝った! 第三部完ッ!!
実際は章分けもしてないのに第三部も何もあったもんじゃないですね。