35話 ヒントは触手
下に下りるとオヤジがうるさそうなので、俺は突き当たりにあった窓から雨樋らしき物を伝って屋根の上に登った。表側の場所に居ては人に見つかって怒られるかもしれないので裏側の方に行って腰掛ける。
「ふう・・・ようやく静かになったな・・・」
あの後、俺は指輪のシューティとラギも外して部屋に置いてきた。俺だって少しは一人になりたい時もある。特に便所で・・・いや、言うまい。スッキリしたとだけ言えば分かるだろ?
そのまま俺は屋根の上にゴロンと横になった。さて、今日はもう何も出来ないだろうな。ナニは出来るだろうが、そんな事はどうでもいい。
「空・・・青いな・・・」
異世界の空だからって緑だったりピンクだったりするワケじゃない。元の世界と同じ、いや、妙は化学物質が無い分こっちの方が綺麗な青空が広がっている。
「晴子さん、心配してるかな・・・」
《フン、女々しい男よ。いつまでも女の事ばかり言いよって》
「うおっ!?」
突然返事が来て俺は体勢を崩したが、なんとか持ち直して一息ついた。
「なんだよシリュー、もう回復したのか? 続き見るか?」
《見せんでいい!! ・・・ま、全く、我をあの様な目で見ておったと国の者が知ったら貴様は今頃縛り首になっておる所だぞ!!》
マジか、思っただけで捕まるなんて戦前の日本の特高みたいだな。時代は民主主義だぜ?
「お子様に欲情なんざしねぇよ。別の意味で捕まっちまう」
《お子様では無い! 我のこの角が目に入らぬか!》
角くらいなんだってんだ。そんなモン生えてるから掴み易くて助かるがね。主に黒イケメンに顔面膝打ち入れた時だけど。
「それがどうしたんだ? 一定量伸びたらポロッととれたりすんのか?」
《野生動物の角と一緒にするな! これは魔族が成人している証拠ぞ!》
「ふ~~~~~ん、心底どうでもいいけど、それならお前もうそれ以上育たないんだな。可哀想に・・・」
《ど、同情するなーーーー!!!》
あーもーコイツうるさい!
《フン、所詮は魔王などと言ってもその程度。私の方が女性としての魅力は上と言わざるを得んな》
《あ゛あ゛?》
セルフィも復活したのか。ずっと寝てればいいのに。
《貴様こそ背は確かに我より高いが、胸は我と同じくらいではないか! そ、それに我は真の姿になれば胸はバインバインで身長だって貴様よりずっとあるもんね!》
嘘つくなよ。お前アッサリそのまま死んだじゃん。
《お、同じくらいではない!! そ、それに私だって成長の余地はまだある・・・はず!! 真の姿なんて無いクセに、この嘘つき魔王!!》
《うるさいこの洗濯板勇者!! 貴様が弱過ぎて真の姿を見せる前に終わっただけだ! あ~楽勝だった~》
《わ、私だって真の姿くらいある!! あ、あそこでリュウセイが来なかったら第一段階の変身をしていた所だったんだがな~。あ~残念!!》
お前はどこの宇宙人だ。
《勇者のクセに嘘をつくな!!》
《キサマこそ自分の非を認めろ!!》
さて、と。
「う~~~~ん、こういい天気だと・・・妄想したい気持ちになって来たな~・・・」
《《ごめんなさいっ!!!》》
俺が脅すと2人揃って脳内で土下座して謝って来た。余程自分達の妄想が堪えたのだろう。そうそう、親が躾に失敗してる分、俺はスパルタで行くからな?
「ったく。そもそもなんでお前等争ってんだよ。仲良く暮らせばいいだろ?」
《だって・・・人間って口ばっかり達者で数が多くてムカツクから・・・》
《魔族は傲慢で暴力的で人の話を聞かないからな。おまけに嘘つきだ》
・・・・・・こいつらこんな下らない理由で殺し合いしてんの? ガキか?
「とにかく俺の中に居る間はケンカすんな。いいな?」
《でも勇者が・・・》
《しかし魔王と・・・》
「・・・おい、俺が優しく言ってる間に言う事聞いとけよ。次の妄想行くか? ヒントは触手」
《《仲良くします!!》》
そうそう、それでいいんだよ。俺だって画面栄えしない貧乳共の触手攻めなんぞ想像した所でツマランからな。食い込む谷間すらありゃしねえ。
「俺は少し寝る。大人しくしてろよ?」
ぎこちない笑顔で俺に手を振る2人が見えた。そうそう、そうやって仲良くしてればいいんだよ。俺も慣れない説教と連続の自家発電で疲れた。あのエネルギーを何か世界の役に立てれればノーベル賞も夢じゃないな・・・
そんなアホな事を考えている内に、俺の意識は闇の中へと沈んでいった。