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32話 え!? あ、アナタは神様?

結局、オリビアは俺のメシを3分の1ほど食べてしまっていた。というか何で誰も注意しないんだよ。


「いやー、てっきり嬢ちゃんも気合を入れて準備してるのかと思ったんだよ。・・・今日は荒れるぜ?」


だからそのハンドシグナルを止めろ。


「おい、オリビア、またナナイロドクガエルがあるけど食っても大丈夫なのか?」


「毒があるのは親だけよ。ナナイロドクガエルは卵を隠して産むから中々見つけられない希少な物なのよ? ぷちぷちと弾ける食感、濃厚な旨みは一度食べたら止められないわ。・・・だからもう一口頂戴」


「反省の色がねぇぞコラ」


そう言って再びナナイロドクガエルの卵入りサラダを頬張るオリビアは心底幸せそうな顔をしていた。・・・ま、いいか、俺は一口食べられればそれでいいよもう。


「どれ、俺もまずはこのステーキから・・・はぐ」


ん! こりゃあ肉の旨みが凄いな。噛めば噛むだけ味が出てくる感じだ。オークだけに豚肉に近い感じの味だが、もっと濃厚な味だな。


「お、美味いぜオヤジ!」


「当然だろ? 俺も昔は冒険者をしていた事があったが、やった事と言えば採取と料理くらいだったんだぜ?」


・・・それって冒険者って言っていいの?


「おかげで食材探しには苦労しないよ。自分で採って来ればタダだからな。いい物を安く提供するのがウチのモットーなんだ。ホラ、次は口直しにスープを飲んでみな」


ふむ、このオヤジは言動も行動も卑猥だが、料理に関してはプロ中のプロと見たぜ。ここは大人しく従っておく方が得策だな。


「んぐ・・・うおっ、凄え! 口の中の肉の味がさっぱりと洗い流される感じだ! また肉が食いたくなっちまう!」


他の奴等が驚いた顔をしてる所をみると、やはりこの効果は俺のスープだけのモンだな。さっき言ってたナガラの実とやらがいい仕事をしているんだろう。飲んだ後、口の中が綺麗にリセットされて、また何か食べたくなる魔性の一品だ。


「ナガラの実は清涼感を感じさせてくれる。多いと香りが強過ぎるし、少ないと清涼感が出ないんだ。口直しには最適だろ?」


「悔しいがオヤジ、アンタは一流の料理人だな」


「へっ、よせやい!」


オヤジは照れて頭を掻いている。自分の自信のある分野で褒められると嬉しいんだろう。中年の照れ顔とか誰得かと思うが。


その後食べた蜜がけのパンも美味かった。風味の違うメープルシロップみたいな味がして元気が出て来た気がするし、ママイのジュースとやらもほんのりと酸っぱい上品な味だった。一つ一つが個性的な味だったが、それらが他の物を引き立てる、コース料理の様な素晴らしさだ。


ナナイロドクガエルの卵? 8割方オリビアに食われたけど食ったよ。イクラより皮が少し硬い感じがしたけど、味はこっちの方が上だと思ったね。俺は美味ければなんだって食べる様にして来たからな。日本でもイナゴの佃煮や蜂の子なんてのをよく爺ちゃんに食わされたもんだ。完全装備して蜂の巣に2人で突撃したのが懐かしいぜ。途中の藪で爺ちゃんの防護服が破れてて尻を蜂に刺されたのも今となっては笑い話だ。・・・必死に俺に「尻を、尻を吸ってくれ!」っていう爺ちゃんが怖くて思わず川に突き落としたり突き落とされたりしたのも・・・あんまし笑えねぇな。忘れよう。


なんだかんだで食いしん坊オリビアに半分くらい食われちまったが、宿代を出して貰ってる手前強くは言えねえ。代わりにオリビアのメシも半分ほど強奪したからおあいこだな。


「はふぅ・・・ご馳走様」


オリビアがそう言って自分が確保した最後の一口を腹に収めると、ギャラリーから溜息が漏れた。って、コイツ等ずっと見てたのかよ。それと最初の姉ちゃんはガン見し過ぎだと思うぜ。目が血走ってるじゃねぇか。


・・・そうだな、この先どのくらいこの街に居るか分からねぇんだ。多少覚えを良くしておいてもいいかもな。


そう思って俺も最後の一口残してあったオークステーキをフォークに刺してヨダレ姉ちゃんに差し出した。


「おい、姉ちゃん、アンタにゃ負けたよ。最後の一口やるから食いなよ」


言った途端、ヨダレ姉ちゃんはまるで天上から下賜された神器を見るような目でオークステーキを見ながら言った。


「え!? あ、アナタは神様?」


違うよ? コンビニ店員だよ?


「大げさ過ぎだって。しばらくこの街に居るからお近づきのしるしにって事さ。いらんなら俺が食うけど?」


「食べばく!」


・・・食い気味に言いながら食い気味に食ったな。顔は結構可愛いのに、残念な姉ちゃんだな。


「はぐ、はぐ、はぐ、はぐ・・・・・・う、うみゃ~~~~」


この世界に正統派の巨乳美人はいないのだろうか。皆欲望に忠実過ぎる。この姉ちゃんの胸? 俺が言及しない時点で察してくれよ。


「はふぅ・・・凄い美味しかった・・・今ならアナタに抱かれてもいいわ・・・」


一口のオークステーキで完堕ちとかチョロ過ぎるだろ。ビッチなんかな、この姉ちゃん。


「生憎間に合ってるよ。ごっそさん」


俺はまたヨダレを垂らしている姉ちゃんから目を背けながら手を合わせて食事を終えた。次はもう少し普通の人達と出会えますように、と。

・・・ご飯食べる回は苦手です。自分が一番お腹が減るから!

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