30話 何か悪い事をして強制労働でもさせられていたの?
扉を開くとそこは雪国だった。
・・・という事は勿論無く、中にはベットでうつ伏せに寝るオリビアが居るだけだ。へえ、よく知らないけど結構いい部屋じゃねぇの? それとお前は短いスカートでそういう事しない方がいいぜ? 白いのがチラチラ見えてるから。若干雪国に被ってると言えなくも無いな。
「おーい、オリビア、とりあえず荷物を置いてメシでも食いにいかね? それから街で服とか靴とか買おうぜ?」
「・・・何よ、人の気も知らないで・・・」
ん? コイツ小声で何を言ってんだ? 呪詛か?
「いい加減機嫌直せよ。絶対何もしないって誓うからさ」
あれだろ、急に男と同じ部屋で寝る事になって緊張してるんだろ、オリビアのヤツ。俺の自制心を甘く見ないで欲しいもんだ。・・・でも、俺この世界に来てからなんだか物怖じしなくなった気がするな。日々のクレーマーへの対応で精神が鍛えられたのかね。
オリビアは俺の言葉に顔を上げると、なんだかもにょっとした顔をしていた。・・・何だよ、如何にも何か言いたそうな顔しやがって。
「・・・・・・はぁ、もういいわ。私ばっかり馬鹿みたい。そうね、ご飯でも食べに行きましょ」
まだ機嫌が直ったワケでは無いんだろうが、とりあえず一区切り付けた様だ。そうそう、面倒な事はメシを食ってからでも遅くないさ。
「それに、本格的に仕事も探さないといけないからな。・・・俺、この世界の仕事とかまだ何も知らないからな~」
「人間が生きて行くのに特にどの世界でも基本的な違いは無いと思うわよ。こうやって宿を営む人、ご飯を作る人、町を警備する人に魔物を狩って暮らす人。リュウセイの世界にだって似た様な仕事をしている人は居るんでしょ?」
「そうだな、まぁ、そんなもんか」
宿屋はそのまんまあるし、ご飯を作るのは料理人、警備は警察として、狩りといえばハンターか。流石に俺が居る様なコンビニは無いとしても、物を売る店はあるみたいだしな。
オリビアが起き上がってこっちにやって来た。
「じゃ、行くか。ちなみに俺は一日中やってる仕事場で働いてたんだ。それなりの仕事は出来る自信があるぜ?」
「・・・一日中って・・・リュウセイ、やっぱり向こうで何か悪い事をして強制労働でもさせられていたの?」
・・・コンビニ業務を何だと思ってやがる。確かに覚える事は多いし、客も多くて給料は少ないけど・・・アレ? 俺なんでコンビニで働いてるんだろ・・・ああ、晴子さんだ。それ以外何の理由も無いな。強いて言えば廃棄で食える弁当は助かるが。それとやっぱりって何だよコラ。
「アホ、俺だって向こうじゃただの一般人だったよ。それに店は24時間やっていても俺が24時間働いてるワケじゃねぇっての」
「ふうん・・・治安のいい世界ね。夜もお店やってて襲われないなんて」
いや、たまに襲われるみたいだがな。だから俺は深夜はやらないんだ。カラーボールだって投げる気は無い。そんな事して犯人を刺激したら怖いじゃないか。最初はこんなの当たるのかと思ったが、あれって地面に叩きつけて使うみたいだな。掃除大変そう。
「ま、話はメシを食いながらにしようぜ」
「そうね」
そう言って俺とオリビアは部屋を後にした。