21話 なんで9800円のチャリの潜在能力を引き出したらスーパーバイクになるんだよ
そして1秒後に木に衝突して俺は叩きつけられた。
「ぐがっ!!!」
《ひぎぃぃぃ!!!》
ぐは・・・い、今のは効いたぜ・・・く、くそっ、生命力が200も持っていかれちまった。
俺が体を起こすと、目の前の木がへし折れていた。結構太い木だったのに、今の衝撃には耐えられなかったようだ。・・・まぁ、当たり前だな・・・今瞬間的に300キロ以上は出てたぞ・・・
《あひぃ・・・》
横で情け無い声がするので見ると、横倒しになった俺のチャリ(魔改造)から聞こえて来る。一体化したらしいラギの声だろう。
「お、おい・・・ラギ、テメェ俺のチャリに何をした?」
《ひぐ・・・『融合』して潜在能力を極限まで引き出したのじゃ・・・こ、こんな神器並みの力があるとは思わなかったのじゃ・・・》
・・・なんで9800円のチャリの潜在能力を引き出したらスーパーバイクになるんだよ・・・
《お、恐らく魔王をこのちゃり?で倒したから物としての格が上がったのじゃ・・・稀にそういう事があると聞いた事がある・・・けふっ》
クソッ、俺だけじゃ無くチャリまでレベルアップしてたのかよ・・・
「元に戻るんだろうな?」
《・・・・・・一度潜在能力を引き出したらもう元には戻せん。諦めてくりゃれ?》
くりゃれ? じゃねーよ!! こんなチャリでバイトに行けるわけねーだろうが!!!免許ねーんだぞ!!!
《と、とにかく分離するのじゃ》
そう言ってチャリがピカっと光ると、傍らにフラフラと剣が現れた。チャリは相変わらずそのままだ。チクショウ、初の給料で買ってからずっと俺の愛機だったのに・・・
「すまん、俺がアホに任せたばっかりに・・・シューティングスター号・・・安らかに眠ってくれ・・・」
俺は横倒しになって壊れしまったであろう愛機に(今つけた)名前で呼びかけて手を合わせた。2年間、俺をバイトに連れて行ってくれてありがとう。魔王を倒してくれてありがとう。ここまで逃がしてくれてありがとう。
ああ、感謝する事ばっかりだ。・・・クソッ、目から汗が出やがるぜ!!
《・・・・・・デ》
「ん? ラギ、何か言ったか?」
《何も言っておらんぞよ?》
今誰かの声が聞こえた様な気がしたんだが・・・悲しみの余り、幻聴でも聞こえたのだろうか? 目を瞑ってみても、脳内の2人は膝を抱えてブツブツ言ってるだけだし、何の問題も無い。
そんな事より今はシューティングスター号の供養だ。俺は再び手を合わせた。じゃあな、ちゃんと埋葬はしてやるからな。
《・・・・・・ナイデ》
む、やはり何か聞こえる! 今のは後ろからじゃ無いから、白目を剥いてるオリビアじゃねえ。でも今俺の前にはシューティングスター号しか・・・ま、まさか!?
《カナシマナイデ、マスター》
目の前のチャリから、確かにそんな声が聞こえて来た。
・・・・・・俺のチャリに心が宿ってしまったようだ。
変な仲間ばかり増える今日この頃、皆様は如何お過ごしでしょうか。