20話 貧乳なのにはみ出すとか矛盾過ぎる
「チャリは乗っていったらまずいよなぁ」
コイツは俺の元の世界からの唯一の相棒だ。なんたって魔王を倒した神器だからな。ここに置いていくのは忍びない。
《なんじゃ主殿、これは馬か?》
ラギも流石に自転車は見た事がないみたいだな。
「これは自転車という乗り物だ。チャリとも言うがな。こうして跨って・・・そして漕いで走るんだ」
俺が実演して軽く周囲を一回りすると、ラギも興味が出て来たのか、宙に浮かんで回り出した。
《あ、主殿! 妾も乗ってみたいのじゃ!!》
俺に剣を片手に風になれと? 俺はどこの暴走族なんだよ。むしろバイクでバットじゃないので珍走隊と言った方がしっくり来るな。
チャリに剣を固定する場所なんて・・・あ、あるじゃん!
「じゃ、ここに入ってろ」
そう言って俺はサドルの後ろにあるフレームの隙間にラギを差し込んだ。この隙間って傘差すのにちょうどいいんだよな。
《主殿の国も戦いがあるのじゃな。乗り物に剣を固定する場所があるとは》
指定席が出来てラギは満足そうだ。日本でチャリに剣なんて差して走ってたら即通報だぜ。
ラギはむしろ血の雨を降らせる方だからその場所は矛盾しているが、満足なら俺から言う事は無いさ。
俺はサドルの後ろに差したまま周囲をぐるぐる回ってやった。
端から見たらチャリに剣を差してローブを纏った白髪のいい年した男が、気絶して白目を剥いた少女の周りをチャリでぐるぐる回りつつ虚空に話しかけている状態なワケだ。――これ何て儀式? 悪魔でも喚び出したいのか?
俺がそんな感傷に浸っているといると、ラギが妙な事を言い出した。
《主殿! 妾も動かしても良いか?》
「ん? 別にいいが、お前は足が無いだろ?」
《大丈夫じゃ! 妾に不可能は無い!》
ウソつくんじゃねぇ、一杯あるだろ。
・・・まさかコイツ、ファンタジーのお約束として人間みたいなのに変身するんじゃ無かろうな? しゃべり方からして幼女臭ぇんだよな。貧乳枠はもうはみ出してんだぞ。貧乳なのにはみ出すとか矛盾過ぎる。
《では行くのじゃ!》
俺はやっぱり止めようとしたが一足遅かった。
《『融合』!》
その言葉と共にチャリとラギが光り出し、思わず俺は目を瞑った。
「くっ・・・! 一体何を・・・・・・って、な、何だよコレ!?」
やがて光が薄れた後、俺の跨っていたチャリは異常に魔改造されていた。何故かウィンドスクリーンが装備され、ボディのパーツも増えて流線的になり、チェーンなどはカウルに覆われている。ハンドルも内側に曲がり、タイヤも太くなった。しかもボディ自体が伸びたのか、俺は前傾姿勢になっている。後ろにはどう見ても排気口的な何かがあり、排気ガスの代わりに光る粒子を吐き出していた。
これ・・・エンジンの無いバイクじゃねぇか! お、俺のチャリはどうした!?
《発進じゃ!》
その言葉と共に、俺の思考すら置き去りにしてバイクはとんでもないGを発生させながらその場から走り出したのだった。