1話 流れ流れて流れ星
俺はチャリで街道を爆走中だった。
別に後ろから誰かが追っかけてくるわけじゃないが、楽観は出来ない。
なにせ俺は……
「魔王殺しに勇者殺しってか? 冗談じゃねぇぞ!!!」
俺がこのワケの分からない世界に来てからまだ3時間少々しか経っていないが、俺が世界的な指名手配をされるまで、後数時間も無いだろう。いや、もう既に手配されているかもしれない。
「本来なら今頃は晴子さんと一緒に弁当の検品してたはずなのに・・・」
俺は愛しの晴子さんを頭に思い浮かべて気分をアゲようと試みた。
全てを包み込むような慈愛に溢れた眼差し。新雪よりも美しい白い肌。今時の流行りに流されない漆黒に濡れる黒髪。そしてでっかいおっぱい。おっと、急に表現が直接的になっちまったな。
これまで何度もリフレインして来た俺のイマジネーションによる晴子さんの再現度は完璧だぜ!
「…………ふぅ」
気分はアガったが、俺はチャリを止めた。再現度が高過ぎて俺の聖剣が鞘から抜け出そうと暴れたからな。
晴子さんの破壊力はとんでもない。特に弁当を奥に入れようとして俺の前に無防備な尻がある時なんか特にヤバい。ナチュラルに俺に犯罪を勧めて来るんだ。
しかし、俺には愛梨ちゃん(1歳・晴子さんの娘)の父親になる身。その様な犯罪行為で悲しい思いをさせてはならないのだ。まだ会った事も無いけど。早く俺をパパと呼ばせてあげたい。ついでに弟や妹も一杯作って寂しい思いをさせない様にしてあげたい。
しかし、これからどうしたもんかな……ここが俺の居た世界じゃないのはもう分かってる。髪の毛がナチュラルボーングリーンの人間なんて、俺達の世界に居ないもんな。イケメンで耳が尖ってて、緑色の髪。あれってもしかしなくてもエルフだよな? 俺の事をクソミソに言うもんだから両耳掴んで顔面にヒザ入れてやったら黙ったけど。いいや、イケメンだし。
その隣で喚いてたのは黒い肌をした、これまたイケメンだった。あいつなんか、頭から角生えてたもんな。いや、怒ってる比喩じゃないよ? ガチでヤギみたいな角生えてたし。とりあえず角を両手で掴んで顔面にヒザ入れてやったらやっぱり黙ったけど。あ、鼻血出てたな、ざまぁ!!
でも、そいつらが言うには、俺が魔王殺しで勇者殺しらしい。一体なんのこっちゃって感じだが、奴らの目はマジだった。俺の言い分なんか聞こうともしなかったから、さっきの顔面膝蹴りの刑にしてやったのだが……
「ああ、腹減った……」
チャリを押してトボトボ歩きながら、俺は腹をさすった。バイト先のコンビニでメシを食う予定だったので、今日はまだ何も食べちゃいないのだ。晴子さんの想像(妄想)は胸はこれ以上なく満たしてくれるが、腹を満たしてはくれないのだ。
「俺……こんなとこで死ぬのかな……」
この世界に俺を助けてくれる奴なんか一人も居ない。むしろ殺したいと思っている奴が大半なんじゃなかろうか?
勇者に魔王と言えば、イイ奴とワルイ奴のツートップだ。きっと本当の意味で世界だって狙える凶悪なコンビだ。そいつらを俺が殺したと仮定すると……俺の居場所なんてあるワケが無い。
出来るものなら帰りたい。マンガやネットで最近こういう異世界に転移したり生まれ変わったりする話を見た事はあるが、俺は元の世界がいいのだ。魔法や聖剣、異世界の美女や美少女には興味があるが、三千世界を見渡しても、晴子さんのいる世界は元の世界だけなのだから。それに聖剣ならもう一本あるからな。元気すぎて朝が辛い事はあるが。
「流星って名前だけに、流れ流れて流れ星ってか? はぁ……最後に晴子さんに会いたいな……」
《誰だ、そのハルコというのは?》
「うおおおおっ!!!」
独り言に返事が来て、俺は慌てて神器に跨った。魔王すら倒したんだから神器でいいだろ。9800円(税込)だったがな。
「だ、誰だ!? おおおお俺は強いんだぞ!! ま、魔王だってワンパンで倒したんだぞ!!」
雑魚臭をプンプン放ちながら、俺は周囲に居るであろう何者かを威嚇した。威嚇になっているかどうかは知らん。
《……実際、一撃で倒された事は確かだが、無茶苦茶腹が立つな、貴様》
「な、何!?」
その偉そうな口調の奴は俺に言った。
《我は魔王。魔王シリューだ。貴様に倒された我の意識が貴様に乗り移った存在……分かりやすく言えば霊体だな》
大変だ、母さん。俺、魔王にとり憑かれました……
大体こんな感じで流星の一人称で話は進みます。ゆるくゆるく進めて行きますー。更新速度とか。