11話 私の事を好きにしていいわ・・・
「・・・ねぇ、リュウセイ。私もアナタに一つお願いがあるの」
グリューネ(仮)はどこか緊張した面持ちで俺に語り始めた。
「『聖剣使い』のスキルがあれば、聖剣を使う事が出来るわ。そして私は聖剣の守り手としてこの洞窟の管理をさせられているの。聖剣の主に相応しい誰かが現れるその日まで」
そこまで言えば俺にもグリューネ(仮)が何を言いたいのか理解出来た。
「俺にそれを使えって言うのか? さっさと元の世界に帰りたい俺に?」
よくは知らないが、普通聖剣なんて持っている奴は世界の為に何かをしなくちゃならないんじゃないか? それこそ勇者みたいにさ。
「リュウセイがこの世界に何の思い入れも無いのは分かってるわ! でも私はもうこれ以上こんな場所に無意味に暮らしていたくないのよ! 何もしなくていいから・・・その為なら私はなんだってするわ」
そう言うとグリューネ(仮)は俺の体にしな垂れかかって来た。
薄く甘い香りがグリューネの髪から俺の鼻をくすぐった。
「私の事を好きにしていいわ・・・だからお願い、リュウセイ。私をここから解放してよ・・・」
ふむ・・・どうやら俺がその聖剣とやらを手に入れればグリューネ(仮)はここから解放されて、晴れて自由の身になれるって事か。
その為に俺に自分を抱かせてやると。
グリューネ(仮)は確かに俺が今まで会った中では断トツの美少女だしな。少々幼さはあるが、普通に道行くサラリーマン100人に聞けば100人がご相伴に預かる事だろう。日本人はロリ好きだからな。
そういう俺もグリューネ(仮)が晴子さんよりも美人である事を否定は出来ない。確かに晴子さんは俺の女神だが、グリューネ(仮)の容姿は神懸かっている。胸は小さいがな。
今俺を見上げる、潤んだ瞳。形のいいツンとした鼻梁に、薄桃色の唇。そして俺の体を刺激する柔らかな体の曲線。うんと言えばこれから俺は生きながらにして天国に辿り着く事が出来るのは間違いない。
だから俺は見上げるグリューネ(仮)の顔を見つめながら、肩に手を置いた。
ビクっと体を強張らせたグリューネ(仮)だったが、やがて目を閉じて俺を受け入れる体勢に入った。
おお、まさか俺の人生でこんな美少女から甘いkissをねだられる場面があろうとはな。過去の全俺にドヤ顔で「まあ、そのうちいい事があるかもな?」と言ってやりたい。脳内俺がギルティギルティと叫んでいるが知った事か。俺は俺のやりたい様にやる!!
だから俺は――グリューネ(仮)の両耳を掴んでヘッドバットをブチ込んだんだ。
「ふぎゃ!?」
突然の額への衝撃にグリューネ(仮)は混乱して尻もちをついた。ふん、男を甘く見るなよ小娘め。
「な、何すんの!!」
俺はしゃがんでグリューネ(仮)のほっぺをうに~っと両方から引っ張った。
「お前は俺をなんだと思ってるんだ? そんなに俺を性犯罪者にしたいのか? あ゛あ゛?」
「にゃ、にゃんへほんひゃひほほっへふほひょ~?」
何を言ってるのかサッパリだが、コイツが今の状況に混乱してるのは分かる。だから俺は言ってやった。
「・・・チッ、あのな、お前は俺を助けたんだろうが!!! だったらよ・・・た、頼みくらい、何もくれなくても聞いてやるってんだよバカヤロウ!!!」
義理と礼儀の国、日本の出身である俺を見くびらないで欲しいもんだ。一宿一飯の恩も返さないってんじゃ男が廃るぜ。
俺はグリューネ(仮)の顔から手を離して立ち上がった。フン、顔なんか合わせてやらねぇぜ。今俺は機嫌が悪いんだ。・・・・・・は、恥ずかしいからじゃねぇぞ!!!
グリューネ(仮)に背を向けたまま、俺はグリューネに言った。
「さっさとその聖剣とやらの所に案内しろよな。とっとと済ませるぞ」
そのまましばらく待ったが、グリューネ(仮)からは何の返答も無い。
怪訝に思って振りかえると、グリューネはぺたんと女の子座りをしたまま俯いて地面にポタポタと染みを作り続けていた。・・・あー、すっげぇ手加減したけど、ヘッドバットはやり過ぎだったかな・・・
バツが悪くなった俺は仕方無くグリューネ(仮)の前に跪き、謝罪を告げた。
「お、おい、俺が悪かった。でもお前も良くないんだぞ? あんな事を男に言ったら何をされるか――」
最後まで言う前に俺はグリューネ(仮)に押し倒されていた。しまった、罠かッ!!
しかし腹に刃物を付きたてるでも無く、グリューネ(仮)は俺の胸に顔を預けてただ泣き続けた。俺もそれ以上は茶化さずにそのまましたい様にさせる事にした。
人でもエルフでも、涙を止めるのは時間と誰かの温もりだろうという事は変わらないんだろうからさ。