9話 ・・・何がしたいんだよお前は・・・
「そろそろ書くぞ、いつまで経っても話が進みやしねぇ」
やれやれと俺は首を振って嘆いた。
「誰のせいだと思ってんのよーーーっ!!!」
うるせーな、お前のせいに決まってんだろうが。
「あ、それと、俺が何を書いても冷静にしててくれよ? 特に【称号】とやらは、多分ヤバいのは俺でも分かるのがいくつかあるからな」
「う・・・わ、分かったわ」
俺は少しマジな顔でグリューネ(仮)に先に忠告した。コイツは素直なのが美点だな。騙しやすそうだ。
そして俺は自分のステータスを地面に書いていった。
最初のレベルを書いた時点でグリューネ(仮)の目はこれ以上無いくらいに見開かれていたが、その後魔力、筋力と続くうちに顔色が青くなっていき、運を書いた時には真っ白になった。
「おい・・・そんなんじゃこれ以降書けねぇじゃねぇか・・・」
「だだだだって!! 何よこのステータス!? 色んな種族の英雄の一番高いステータスを寄せ集めたみたいな数値じゃないの!! 私じゃなくたってビックリするわよ!!!」
「あ、高いのか。良かった、死なずに帰れるかもしれないな」
「だからなんでそんなに覇気が無いのよっ!!!」
あるワケが無いだろうが。俺は中二病じゃ無いんだからな。この世界で聖剣を振って魔法を放ちたいんじゃないんだ。元の世界で『聖剣』を振るって違う物を放ちたいのさ。中二なんぞ、『高校卒業』と共に卒業したぜ。
「特にこの運の数値は異常よ。何よ147って・・・他の数値の2倍はあるじゃないの」
そんな事言われても、俺はむしろこんな世界に連れて来られて不運なんだが? 地球には概算で1億人はこういう所に来たいと思ってる奴がいるだろうから、そいつらにしとけばいいのに。
「リュウセイ・・・ここにこの世界のお金があるわ」
そう言ってグリューネ(仮)はスカートのポケットから一枚の貨幣を取りだした。
「何だ? くれるのか? 確かに運がいいな」
「違うわよ!! 何で私がリュウセイに理由も無くお金をあげなくちゃいけないの!?」
俺がラッキーだって証じゃねぇの?
「もう・・・こっちの絵がある方が表で、数字の方が裏よ。これを・・・」
グリューネ(仮)は握った親指の上に貨幣を置いて、指でピンッと弾いた。
貨幣は回転しながら上昇し、やがて力を失い下に落ちて来る。
グリューネ(仮)はそれを手で受け・・・ようとして、弾いてしまい、貨幣はコロコロと洞窟を転がっていく。
「・・・何がしたいんだよお前は・・・」
「う、うるさいわね!! ちょっと手元が狂ったのよ!!」
グリューネ(仮)は顔を真っ赤にして転がる貨幣を踏みつけた。おいおい、金を粗末にしちゃいかんぜ?どうせなら俺にくれ。
「リュウセイ、表か裏か言いなさいよ」
「あん? ・・・ああ、そういう事か。じゃあ表で」
コイツはコインの裏表で俺の運を試そうとしているらしい。まぁ、簡単な方法でいいかもな。
そしてグリューネ(仮)が足をどけると、確かにコインは表の絵のある方だった。
「何回か試すわよ。それっ」
今度はさっきより低くコイントスをしたグリューネが上手く落ちて来る貨幣を手で受け取ってこっちを得意そうな顔で見た。なんだそのドヤ顔は。耳ひっぱってやろうか。
「・・・裏」
時間がもったいないので、俺はさっさと答えを告げた。そしてグリューネ(仮)が手をどけると、貨幣は裏で、また当たりだ。
そんな事を13回ほどやってみた結果。俺は一度も外さなかった。
13回を一度も外さない確率は2の13乗だ。つまり2×2×・・・と13回2を掛けてやると答えが出る。つまり8192分の1だ。これは中々低い確率だと言えるだろうな。
「なるほど、確かに運がいいのは分かった。俺はこの世界で賭け事をして暮らせばいいんだな。エスポワールはどこだ?」
「何ワケの分かんない事言ってんのよ!! 賭け事なんかで勝ちまくったら目立って仕方無いでしょうが!! 裏社会の人間に一生付きまとわれるわよ!!」
おっとそいつは勘弁だな。佐々木 流星は静かに暮らしたいんだ。
「とにかく、スキル以降の事も教えてよ。どうやって生きていけばいいか分かるかもしれないから」
「おぅよ」
そして俺はまた地面にステータスを書く作業に戻ったのだった。