白亜の天使
ちょっと長くなったので中途半端。それではどうぞ~
「ハクア・イコクマ……、と、申します。よろしく、お願い致します!」
クロアが初めて聞いた声は、彼女――ハクアの自己紹介だった。
一瞬、我を忘れてハクアに見惚れていたクロアは、横に居るレスカに脇腹を突かれて正気に戻る。
「あ、えーと。クロア=イザーローンです。よろしくお願いします……」
深々としたお辞儀から頭を上げたハクアは、それはそれは美しい容貌を持っていた。
長い艶のある黒髪は、大和撫子を思わせた。瞳の色は黒曜石の如く。肌の色はまるで白雪姫で、唇は血を落としたかのよう。仕草の女性らしさも相まって、誰もが好感を持つ人間に見えた。
「おいこら、クロア、見つめ合ってんじゃねえよ。そんな事してる暇あるんならさ、ちょっくら仲良くなるために喋ればいいのに」
レスカが不満げな声を上げた。
「うん。……でもね、レスカ。――どう切り出していいのか、分からないんだよ……」
「あ!あのッ……! わ、私、すっごくクロアさんとお話したかったんです!」
レスカに言ったつもりが、ハクアが反応した。どうやら、聞こえていたらしい。
レスカは、男が言うべき台詞を、女に言わせるなんて、なんてヘタレなんだ! と思った。だが、それは言わず、
「おい、折角の機会なんだ。ちょっくらそこに、いい感じのレストランがあるからよ。行ってくりゃ良いじゃん」
と言った。
「う、うん。解った。――では、ハクアさん。行きますか」
「はい! 了解です!」
かくして、彼らはレストランにて、食事会をする事になった。
ただ1人出番がなく、取り残されていた、東京都市庁長を除いて。
レスカの案内によって連れてこられたレストランは、お洒落なものだった。
「オレはちょっと離れた席で回りの人間を監視しておく。不審な動きがあれば、すぐ対処する。だから、クロアはハクアさんと仲良くなれ。解ったか?」「心配性だな〜。そんなにヘマはしないから、大丈夫だ。それより、レスカも混じって喋ったって良いのに」「いや。お前らはこれから二人で行動するんだ。慣れておけ。それに!オレが仲を取り持ちする訳にもいかないんだよ。そこんとこ解っとけ」
レスカとクロアは内緒話をしながらレストランに入る。その後ろを、ハクアがおどおどとした表情でついて行く。
「ここで一旦解散だ。くれぐれも仲が悪くなって帰るなよ。あと、金はクロアが払え!」
「何回も言わなくていいよ。耳にタコができそう」
レスカは離れて行き、カウンター席で何かを頼んだ。それを確認したクロアは、その近くの二人席にハクアを導き、座った。
取り敢えずとばかりにお勧めランチを頼み、やっとハクアと向き合う。
「改めて、宜しく。僕の事は、呼び捨てでお願い。敬語もできれば無しの方向で……」
「わ、解りました〜。では、クロアさんこれから宜しくお願い……。じゃなくて、宜しく!」
そう言って微笑む彼女は美しかった。
そして、クロアは、かねてからの疑問を口にする。
「ところで……、なんで、僕を師匠に選んだの?僕以外にも、有名で腕の立つ旅人は沢山いるのに」
それを聞いて、
「それは、貴方に憧れて旅人になろうと思ったから、です。私と少ししか違わない人が、未開の地上で、銃を片手に探検しているなんて!格好いい!と思ったから……」ハクアは心底興奮した様子で言った。
「それはどうも、ありがとう」
クロアは照れた。こんな風に、憧れで旅人になった人を初めて見た。少し誇らしいとも、思った。
今まで見てきた「クロアのファン」は、「アイドルを見る目」をしていた。まるで手の届かない物を見るような、そんな目だった。
だが、ハクアは違うように見えた。彼女はあくまでも「アイドル」を見ているのではなくて、「ガンスリンガー」としてのありのままのクロアを見ていると思った。