へたれのホンカイ?
こつ、こつ、と。
使い古した靴の音が地下空間に響いた。
クロアはヴェルリン-東京街道を一人で歩いた。街道は街道で、まるで繁華街の商店街の様に賑わってはいるのだが、彼だけは違う。何せ、少し気乗りしない仕事――新人指導官――が彼の元に舞い降りてきたからだ。しかも件の新人は異性。健全な男たるもの、教え子が異性であると言うことに何も感じない訳がないのである。
悶々。
クロアは只ひたすら歩きながら考えていた。その足音の中に、回りの喧騒など入る隙がない程だ。
「……い。聞いてんのか」
「あ。聞いてなかった、御免レスカ」
レスカ=マドリードはクロアの幼馴染みで、警察官だ。今はクロアの護衛をしている。
「全く。これだから悩み多きガンスリンガー様は」
「いや、ガンスリンガーは関係ないだろう」
「いやー、関係大有りだろ。マスコミには追っかけ回されるし、ファンにも追っかけ回されるし。関係ない訳がないだろ」
「……。」
「よし、オレが飯を奢ってやろう!そしてクロアの悩みをオレがしっかりと聞いてやろうではないか」
――結局、話をする代わりに昼食はレスカに奢ってもらう事になった。クロアはオムライスを食べながら言う。
「僕に女の面倒を見れると思うか?」
レスカは鶏肉ハーブ焼きを食べながら「無理だな」と即答する。クロアはがくりと肩を落とした。
「まあ落ち込むなって。俺だって無理だからな、そんなの」
「だからって即答するなよ……。流石に傷付く」
「クロアてそんなに繊細だっけ?」
「僕は剛胆じゃないし」
「地上に行ってる時点で剛胆だろ!」
それとこれとは話が違うだろ、と思いながらクロアは渋い顔をする。
「まあよう。そんなに悩む必要性ってないんじゃない?一線を越えなけりゃ良いんだ。な?」
「そんな簡単なもんかなあ」
「簡単も簡単。超簡単。」
「だって誰も見ていないんだぞ。女と二人きりなんだぞ。僕がいつ変な気を起こしちゃっても可笑しくないじゃないか」
「逆に言えば、変な気さえ起こさなければ大丈夫なんだぜ」
レスカはにっこりと笑って言った。それはそれは爽やかな笑みだった。
「クロアはヘタレだから、そんな気起こしても絶対何も出来ないって!!」
――笑みは鋭いチョップによってかき消された。