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天然ジゴロの才能とは

 その女生徒は秘かに紙を握りしめていた。

 机にすわりSHRの間一言も喋らずただ下を向いていた。だが彼女は今朝の事件を知ってからずっとこの様子なのである。心配した友人が声を掛けても反応がなかった。


「景子ってどうしたのかしら」

「調子が悪い日もあるわよ、だって女の子だもん」


 どこの涙がでちゃう女の子なのかは不明であるが、バレーボールなんてやっていない。


 ただ彼女は怯えと憎しみで動く事が出来なくなったのだ。ガラスの花瓶を投げたのは彼女では無かった。

 実際彼女はずっと朝からこの教室で友人達と喋っていたので、アリバイもある。


 だが生徒会長の綾小路美月を妬み、殺したいとまで思っていた人物。最初は其処までの感情では無かった。だが試験で負け続け、生人会長選挙でも負けてしまった。長浜景子の実家は地元の政治家で、この学校に来たのも本人が望んだだけでなく、親から将来のコネや地位を作るようにと言われた事も一つの要因。だが中学生になり入学した景子の前に現れた強敵が綾小路美月だった。


 運動は得意ではないものの、常に満点を叩き出す頭脳と美貌、そして誰もがみとめるリーダーシップが彼女には存在した。鍛えられて身に着いた物ではない天然のカリスマという存在。それが美月と言う女生徒だ。


 昨年の秋、高校1年の現時点で前生徒会長からの推薦による出馬後、自分以外の対抗馬さえ登場せずに全生徒に認められた美月という存在。己の才能が届かない悔しさ、遊ばず毎日のように勉強をしても敵わないという現実。


 彼女が縋ったのは一冊の呪術の本だった。たまたま覗いた古書店でみたその本に引き寄せられるようにして彼女はその本の通りの呪詛を仕掛けた。


 だが、その本に書かれていたのは呪詛は返された場合に自分に降りかかるという記述があったのだ。

 果たして今朝の出来事は呪詛を返された事によるものなのか……


 どうして花瓶がぶつからなかった、その恨みと恐怖が景子の心を狂わせていた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 一時間目が過ぎて休憩時間がくると崇の周りには遠慮がちではあるが、同級生が興味津々という顔つきで並んでいた。話題としては絶好の物だろう。女子の花園に紛れ込んできた男性、しかも天ヶ瀬家の許婚である。興味が無い方が少ない。


「質問! 許婚っていうとやっぱり結婚がいつかってのが気になるんですが」

「まだ結婚できる年齢ではありませんし、僕が振られる可能性もありますね」

「はいはい、綾小路様を助けられたと聞きましたが、まさかの三角関係ですか?」

「綾小路生徒会長と会ったのは今朝が初めてです。三角関係なんてありえないですよ」

「でも抱きしめられておられたとか聞きましたが」

「花瓶が落ちてきたのでその時に庇っただけですから、なにもありません」

「急な転校だけど、何かあったのですか」

「それは私から御説明します、崇様と正式に婚約をすることになりましたので、仮にですが我が一族と同等の扱いをすると祖母からのお達しで我が家に泊まられる事になりましたので、それにあわせた転校です」

「じゃあ授業とか大変だったんじゃないかしら、うちの学校ってそこそこのレベルのはずよ?」

「授業自体はすでに予習していた範囲内でしたから問題はありませんでしたよ」

「崇様の成績はおそらく私よりも上ですわ」

「「「「え?」」」」


 全員が固まっているが、どうしたのだろうか。由紀より上は拙かったりするのかな?

 そんな変な仕来たりなんて無さそうだけどなあ。


「あれ?」

「どうしたのですか?」

「あの、由紀より点数がいいって、ちょっとアナタこの学校で満点以外はとった事ないでしょ?」

「模試ですとそこまで取れませんわ」

「その、崇君の成績って」

「うちの高校の外部入試でしたらトップを取られる事は可能ですわ」


 ん?よく考えたら俺の点数とかってどうやって知ったのかな。聞けない、聞かないでおこう。

 でもまあ、うーんそれなりの高校には確実に入る為に模試のトップは争ったけど。そこらへんの情報かな。


 それからも他愛無い質問が繰り返されたがキスをしたのかとかそういう絡みばかりだったので、全てご想像にお任せしますといっておいた。途中で致したのですかと言われた時だけはノーコメントに訂正した。

 ある意味女子パワーの恐ろしさを知ったきがする。


 あと二ヶ月の辛抱だから、まあ大丈夫だよね?


 知らぬが仏とはよく言ったものである。2ヶ月たっても崇は一人である。

 通常に待つなら一年2ヶ月は男の入学者は居ない。

 しかもそれなりの資産と頭の良さがないと受験にすら受からない学校だ。

 不憫ではあるが転校生でも来ない限りはこれから3年クラスメイトに男子は現れないのである。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 昼休みとなり、昼食を取るのであるが選択肢が用意されていた。個人で用意するお弁当。もしくは食堂という名のレストランである。一部の子女などは昼に料理を配膳させる荒業を見せるらしい。

 崇の選択はお弁当であった。

 それも本当は自分で作ろうかとしていたぐらいである。前日に静音に確認をしていなければ早起きして自分で用意していただろう。


 そしてなぜか弁当箱は3つ存在していた。


 3つとなれば妹の美由も人数に入っているのは判りやすい事であった。中庭の温室テラスで天ヶ瀬姉妹とランチとなるのだが、これは後悔する事になった。その場の殆どの視線を浴びたからだ。


 ここまでの注目を浴びる事は流石に経験が無かった。だがお弁当は美味しく「美味しい!」と一口づつ新しいおかずを摘んでは呟いていた。


 このあたりが天然野郎と元の中学で名をはせた崇の恐ろしさである。勿論静音からお弁当の話を聞いた由紀が朝から料理して作った物。朝食の準備よりも早く起きて下ごしらえをするお嬢様に感動したシェフ達が秘伝の味の出し方を惜しみなく伝え、食材とそして由紀の覚えの良さと元々の調理スキルの高さがこのお弁当には込められていた。


 それを知らずに美味しいと連呼する崇。流石に妹はこのお弁当の正体を知っていて姉と崇双方に対してやるわねと評価を付けていた。


 意外と冷めても美味しい料理を薄味で作るのは難しい。保存の関係でもそうだが冷えると食材の食感や味の感じ方が変わる。基本的に保冷できる弁当箱などでない場合は濃い味付けにしないと食材の痛みが激しい。そうすると以外に弁当は冷めているので丁度良い味付けにはなる。しかし、濃い味では出せない風味というものがあり、それは食材の本来の味であり噛み締めて初めて判る。


 出汁巻き一つとってみてもその奥の深さが感じられた。

 崇としては料理はできてもこの味は出せないなと感心した。食材から違うので当たり前だが、一流料亭やホテルにいるようなシェフが伝授した味である。


 完全に料理人が作ったのだろうとまで勘違いさせてしまった腕の良さだが、途中であれ?と崇も気がついた。微妙だが所々完璧じゃない風なのだ。そして由紀が顔を赤くしていることでやっと気がついたのである。美由からすれば遅いと言いたいが、これがまた可愛いと感じる女性は姉のようなタイプに多い。またもや崇の評価が上がっていた。


「ありがとう由紀凄く美味しいよ、こんな美味しいお弁当は初めてだ」


 昨日選ぶ選ばないは由紀さんにと言っていた男の科白としては破壊力が桁違いすぎた。

 美由はあーあといった風に聞き流している。これは落ちたなといった具合だ。


 恐ろしいお兄ちゃんである。しかも義理の妹も既に居る事を掴んでいる。

 こんな素敵な男性を捕まえてくる姉も恐ろしいが、それをコロリといかすお兄ちゃんという存在に憧れをいだいてしまったのだ。義理の兄。反則としか思えない。ここまでの男を捜して来いというのか……

 美由としては悲しいまでに姉に勝てるのはその愛くるしさだけだと自覚している。おそらく運動では勝っているとはいえどそれは魅力足り得ないと思い込んでいるのだ。

 実は小学生時代にノックアウトされた男子全員によるファンクラブがあるだなんて知らない美由、知らぬが仏だ、知っていれば小悪魔がいただろう。


(お母様は妾さんだなんて冗談ぽく言ってたけど……見付からなかった場合は妾でもいいからお姉ちゃんを説得しよう)


 恐ろしい妹も実は此処にいた。さらに千葉の地元にも一人居る事を考えると恐ろしい将来しか想像がつかなかった。刺し殺されるエンディングは全力で回避したい所だとしか言えない。

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