大物小物
笑えない状況だ。
空から花瓶が落ちてくる。
助ける。
目の前に大きな二つの塊がっ。あーこれは静音さんの不幸返しの幸運かなあ。
転校初日から何やってんだ俺って奴はっ。
で、できれば早く退いて頂きたいなぁと思いつつ、恐る恐る顔を動かす。
「ひゃん」
「あの、できれば上から退いて頂けると」
「失礼しましたっ」
ようやく現状を認識してくれたようだ。
「崇様御無事ですか」
「お兄ちゃん死んでない」
「あーうん、死んでない」
「良かったですわ、さあ、綾小路様、お手を」
「ありがとう、天ヶ瀬さん」
やっと上からどいてもらえた。
おお、奇跡てきに植木のお蔭で服も破れてなかった。
高そうだからな…
「いきなり飛び出すから何事かと」
「そしたらガッシャーン」
「たまたま、見えたから間に合ったんだ」
「しかし、花瓶ですかこれ」
「うーんガラスで粉々だからわかんない」
「花瓶であってると思うよ、落ちてる時に見たから、それよりこんなもの落ちてくるなんて」
「そうですわね…その方が問題ですわ」
「この校舎の上の方ですわね、二階が高等部二年、三階が高等部一年、四階が音楽室、そして屋上ですわね」
ふむ、由紀の話だと…っていうか全部窓閉まってるし。
これは犯人がいるなぁ。
そして、助けた人物、綾小路さん…
狙われたとすればこの人なんだけど
頭の上に暗雲があった。
このレベルはどうなのさ。
あーっ。
実は京都だから期待してたとか、そんなこと…あったんだよね。
こっちなら向こうよりまともな生活を送れるとか思った事もあったよ。
速攻で打ち砕かれ続けてるけど。
「えーと綾小路さんでしたっけちょっと頭下げて」
「え、はい」
「ああ、ゴミがねほら」
「あれ、え、はい有難う御座います」
これだけの邪気とも言えるものが憑いてたんだから…
祓いのけたら戸惑いもするさ…
―守護霊視点―
(何やってるんだ、自分から瘴気の禍を握りつぶすなんて無茶な)
(あれをするから災難にあうぐらいは判ってるけど性分でしょうね)
(というか、なんで握りつぶせるんだ、くそ、あんなの俺でも強力すぎて対処できんぞお)
(そんな事ができる位の瘴気の禍ならば、あちら様がやってますよ)
(いや、これは助かりました、妾がそこの娘の守護霊をしておる者じゃ)
(貴方様は…)
(白山の使いでこの者の守護霊をしている神使じゃ、菊理媛命様から白雪という名を貰っておる)
(ヌォ、では神使より一柱の神とも言えるお方ではないですか)
(いや、我は所詮は修行を経て神霊としてなった本体の一部に過ぎぬからの、あのような瘴気の禍は祓えなんだのじゃが、助かった、もう少しで大怪我をさせるところであった)
(見たら放って置けないのが崇さんですから)
(しかし、突然沸いたあの瘴気、よくも祓えたものよな)
(祓ったというより握りつぶして取り込んだ…よな鈴音)
(そうですね、だからまた難儀がその内やってきます)
(こいつの守護霊は気が休まらんな…まったく)
(全くですわねぇ、うちの守護する天ヶ瀬家に婿入りするのに…)
(誰だっ)
(フフフ、嫌ですわぁ、うちは天ヶ瀬の守護霊どす)
(ここまでハッキリした守護霊がついてるのは流石だが…)
(そりゃそうや、天ヶ瀬家は、うちの主神様の子孫やからなぁ)
(((えっ)))
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「崇様、こちら高等部一年の綾小路様、現生徒会長」
「あの、千鳥崇です」
「助けて頂きまして有難う御座いました、綾小路美月と申します」
「立ち話をしてもなんだから、職員室へ行きましょう、どうせ転校の挨拶もありますし、この花瓶の事もはなさないと」
「そうですね」
「じゃあ私もいくよ」
「はぁ、仕様が無いですわね」
職員室で花瓶の落下事件として報告後、用務員の方が掃除に向かってくれた。
一応各教室で花瓶を落としてしまったものがいないか、目撃者なども探す事になった。
「転校初日から大忙しですね、崇さん」
「あ、静音さん」
「ここでは、申し訳ありませんが香取先生でお願いします」
「はい、えっと香取先生、って先生ですかっ」
「ウフフ、驚かせようと思って黙ってました、すいません崇様」
「提案したのは私ですから」
「護衛役としてボディーガードを何人も入れると物々しいからとこうして教員として校内におります」
「静音さんね、すっごく強いんだよ」
「フフフ、美由様、香取先生です」
「はいっ、香取先生は凄く素敵なんだよお兄ちゃん」
凄いな、侍女だけじゃなくて教員もしてるのか。
というより他にもじゃあ教員とかで護衛の人がいるって事だよね。
「えっと君が転校生の千鳥君ね。
宜しく短い期間ですが担任の葉山です」
「はい宜しくお願いします、千鳥崇です」
「それじゃ教室へいきましょう、SHRの時間になっちゃうわ」
「それではここで失礼いたします、綾小路先輩」
「ええ、では私も教室へむかうわ」
「じゃあ途中まで一緒に行こうお兄ちゃん」
「こら、また腕を組もうとしてっ」
「っふっふーん」
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
職員室棟からは高等部と中等部が別れている。
生徒会長とは逆方向。
教室に着くと転校の定番で、外で待機。
「では、千鳥君入って来て下さい、はい、こちらが本日から卒業までですがクラスメイトになる千鳥崇君です、女子ばかりで戸惑うこともあるでしょうから皆さん仲良くしてください、それでは自己紹介を簡単にお願いします」
「千鳥崇です、この度此方に転校させて頂く事になりました。
突然の男子の転入で驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、受け入れて頂けると助かります。
趣味は色々手を出していますが続いてるのは読書とキャンプだけです。女の子と趣味の話で合うかどうか判りませんが前に住んでいたところではお菓子のお店を制覇してましたので美味しいお菓子のお店があったら教えて下さい」
「先生、質問宜しいですか」
「SHRですからね、短く思慮のある質問を授業時間までなら許可します」
「では、天ヶ瀬様とはどういった御関係なのでしょう」
「はぁ」
「全く、思慮ある質問といった傍から」
「ですが、皆が聞きたいのはこの一言に集約されてます」
「先生、宜しいですか」
「天ヶ瀬さん、構いませんよ」
「それでは、千鳥崇様は私の命の恩人で将来の夫、婚約者です」
おー、言い切ってよかったのか。あれそれってどうなの?
あ、なるほど独占宣言ってことになるのか!
「「「キャー」」」
「はい、静かに」
「あの、好きな食べ物は」
「和食全般ですね、ケーキも好きで、チーズケーキが特に好きです」
「前に住んでたのはどこですか」
「千葉に住んでました」
「天ヶ瀬さんとの出会いのエピソードをっ」
「それは恥ずかしいので黙秘です」
「「「えー」」」
「今の勢いでいけると思ったのにぃ」
「時期早々よっ」
「でも、婚約者、恩人、しかも天ヶ瀬様とですわよ、これは胸が躍ります」
「今朝も生徒会長を助けたとお聞きしましたわ」
「私見てましたわ、颯爽と飛び込んで、抱きしめながら相手を気遣って下になった千鳥様」
「ちょっと興奮して倒れないでっ」
「まさかの綾小路家対天ヶ瀬家ですのっ」
「日本の経済が破綻しますわよ」
「あの、みなさん、落ち着いて下さい、そんな変な噂が本当に流れたらブラックマンデーになりますわ」
パンパンッ
「はい、皆様落ち着いて下さいませ、確かに崇様が綾小路様、生徒会長をお助けしたのは事実ですが、それで天ヶ瀬と綾小路が対立するなど在り得ません」
「ほっとしましたわ、危うく実家が潰れるかと思いました」
「はい、では千鳥君の席は」
「はい、婚約者の方がいるなら私が後ろに下がります」
「それは中瀬さんが後ろに行きたいだけでしょう、でもそうですね、じゃあ一人ずつ後ろにずらして下さい」
「えーバレたか」
とまあ、騒がしいがクラスには受け入れてもらえた。
ちょっと色々ありそうだけど、楽しく過ごせそう。
一人の女子生徒が思い通りにならない結果に歯軋りしてるとも知らず…