転校したらトラブルだった
さて、翌朝目に入ったのは見事に見慣れない天井。
目が覚めて回りを見渡したが部屋には見慣れた持ち物と見慣れない家具。
流石に部屋に相応しくない家具は処分され新しいものが用意された。
今起きたのは北欧だかなんだかのベットメーカーの製品らしい。
スプリングが木で出来てるのが特徴だとか。
まあ、そんな説明を侍女の人がしてくれたけど、されても理解できない。
「ふぁぁぁ」
コンコン
「おはよう御座います、崇様、あと30分で朝食のお時間となります、起きていらっしゃいますでしょうか」
「はい、起きてます」
「では、お着替えを」
「自分で出来ますので」
「然様で御座いますか、専属の侍女ですので何なりと御用命下さいませ」
「お願いしたいこと、じゃあ着替えの種類、制服は新しいのがあるんですよね」
「ご用意して御座います。お出しいたしましょうか」
「お願いします」
パリッとしたブレザータイプの制服だった、このシャツはシルクだ。
靴は革靴…
ベルトも新しいものが、うーん、これはコードバンかな。
「あの、そこに立ってられると着替えが…」
「崇様、これからはこういう環境に慣れて頂くことも必要で御座います」
「はぁ」
「お嬢様の婚約者になられましたからには侍女がつき、時には執事も同行いたします」
「慣れですか…」
「慣れで御座います」
緊張はするが…
あれアンダーウェアが無いな。
ちなみにトランクスの事ではない。そっち方面ではないので申し訳ない。
「静音さん、アンダーウェアはどこにありますか」
「静音とお呼び下さいませ、アンダーウェアは着ないのが正式なものでございます」
「そうなんだ」
「そのためのシルクのシャツです」
そうなのか、う、こんな高そうなシャツは着た事がないぞ。
カフスってのか、止めにくいな。
「カフスをお付けいたしますね」
「すいません」
「度々では御座いますが、このような場合は無言でおられるか、有難うと」
「そうですか、有難う、静音さん」
「はい」
ネクタイも色々と巻き方があるらしい。
このタイプのシャツの襟の作りだとウィンザーノットかセミウィンザーノットあたりがお勧めされた。
普通に巻くプレーンノットと言われるものだと狭い襟などに合わせるのが基本だとか。
広めのウィンザーノットの場合は中央にディンプルを作る、両端にディンプルを持ってきたりなにもしないと野暮な印象になると言われる。
革靴とベルトも色が合わせられていて、ダークブラウンの落ち着いた色合いだ。
堅苦しいタイプの革靴ではなくチャッカーブーツが用意されていた。
このあたりは選んだ人の好み。悪く無い。
空気が綺麗な山の中だからか見てなかったのに静音さんの頭の上に暗い靄が見えた。
経験上、これがよくない物であるのは知っている。
放置すると大きくなって事故や病気にあうのだ。
「では食堂へ」
そう言って前を歩き扉を開けようとする静音さんの頭の上へと手を伸ばして握りつぶす。
「どうしました」
「いえ、なにか埃が見えたので」
「そうですか?」
ふむ、まだ影響は無かった位かな。
学校でやるとスッキリした顔になる子が結構いたけど。
「では御案内は必要ですか」
「いえ大丈夫です」
「それでは私は鞄の準備をしておきます」
「お願いします」
食堂に着くと由紀と美由ちゃんが席に着いていた。
全員が揃って食事を取れるのは中々難しいとの事。
「おはよう御座います」
「おはよう御座います、崇様」
「おはようお兄ちゃん」
ここにも妹が出来てしまった…
「よくお似合いですわ」
「うんうん、流石だね」
「そうかな、ちょっと恥ずかしいんだけどね」
しかし良く制服のサイズがあったな。
と、聞いた自分が馬鹿だった、一日で仕立てさせたのだとか。
そんな時間で服が縫えるのかと、感心してしまった。
実際お金の力のごり押しだが、業者は喜んでやってくれたという。
「早く食べて一緒に学校に行こう」
「そうだね、じゃあ一緒に行こうか」
「やったー」
「フフフ、お兄ちゃんが欲しかったって言ってたから良かったわね」
「エヘヘ、婚約者でも良かったんだけど」
「崇様は私の婚約者です」
そんな会話をして三人で学校へ行く事になった。
もちろん車である。車の後部座席ってこんなに広かったんだと思う。
対面にも座れるが何故か自分を中心に左右に姉妹が座っている。
そして振動し続ける携帯。涼子だけでなく、恐らくは前の学校の連中だろう。
後で纏めて読もう。
できればこの幸福地獄といえばいいのか、なれない環境に自分が早く慣れる事を祈るしかない。
そして学校に到着して待っていたのは勿論、突き刺さるような疑問の眼差し。
一部は既に知っているが急に進められた共学化だ。
崇も事実は知らない。
「まあ、男の子がいますわよ」
「隣にいらっしゃるのは天ヶ瀬様では」
「腕を組まれてますわ」
「なんだか暗そうじゃありませんこと」
「優しそうな方ですがどうしたのでしょう」
「あれが噂の王子様ですか」
などなど、話される会話が漏れ聞こえてくる。
都合よく会話がカットされないものか…
美由ちゃん流石に腕を組み続けると、反対側のお姉さんが対抗してくるのはさっきの車で…
「美由、離れなさい」
「いいじゃない独占しなくても私のお兄ちゃんになるんだし」
ああ…
「お兄様になるですって」
「もしやフィアンセということですの」
「きゃぁ」
「天ヶ瀬様にお似合いですわね」
「「「キャァァ」」」
と無駄に刺激をしている。
そうです、えっと婚約者です。
思わず太陽を探してしまった。
エッ ちょっとなにそれ
気が付いてしまったら止めるしかない。
そもそも花瓶なんか落ちてくるなんておかしいんだけどね。
前方に駆け出す。
間に合えっ
ガッシャーン
女の子を抱えたまま植木に突入してしまった。
ああ、どうしてこんなに目立つのだろうか。
そして目の前には巨大な膨らみがあったのだった。