寝ている子は起こしてはいけない
「そういうことで伯父さん、心配しなくていいよ」
『怪我はなかったか?』
「うん怪我は無かったし」
『受験は出来なかったんだろ』
「そう、受験は駄目だったんだけど、なんだか京都の方で全額免除の特待を受けれるって話が」
『ああ、さっき連絡があって明日行くそうじゃないか』
「え、そう、もう知ってるんだ。うんだから明日にちょっと京都まで行って来ます」
『別に崇ひとり学校へ行かせられない訳じゃないんだから、こっちで公立高校でも良いんだよ』
「まあ、でもせっかくだから話をきいてくるよ」
『うむ、なんだかこっちへ助けてもらったご挨拶と荷物を引き取りに来ますと連絡があったんだが』
「そういえばなんだかそんなこといってたから僕の荷物は全部その子に預けてくれていいよ、それじゃあまた連絡するね」
『ああ、待ってるよ』
相変わらず心配してくれるなぁ、7回も事故を経験してればもっと存在に扱ってくれていいのにな…涼子ちゃんももうちょっとで中学生なんだし娘をもっと大切にしないとイカンよ!
あんな可愛い妹がいるだけで…兄としてどれだけ鼻が高いか。
あ~、事故の事しったら飛んできそうだからメールだけ入れておいてやろうっと、うん。もう面会時間は終わったから、京都から帰ったら一緒に遊ぼうなっと、これでよし。
崇はシスコンだと言われても恥じる事は無いと思っている、それだけ涼子ちゃんはいい子なのだ。叔父さんが許しても多分俺が許さんと名乗りを上げるだろう位に溺愛してるといっていい。そもそも近年のシスコンの捉え方が変なだけだ。
そして一人納得した崇は病院のベットへ戻り寝る事にした。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
(おい、お主! 起きよ!、クソ寝つきのよい男だな、おい、お前も手伝え)
(どうして私があなたの手伝いをするんですか! 逆ですよ、追い払ってやりますよ! ていてい!)
(わかっておらんな、守護しているものが同じならば攻撃は効かぬのだよファーッハッハッハ!)
(やかましいですわ! 崇君の守護者はこの私です、どこの馬の骨かもわからないようなへんてこな格好をした狐目の男になんて勤まりません!)
(お主本当にわかっておらん、我こそは空狐よ)
(知らないわよ)
(なに? 空弧だぞ、本当に知らぬのか?)
(狐で有名なのって九尾の狐で悪い妖怪じゃない)
(ちょっとまてぃ! あんな跳ね返っりのじゃじゃ狐より下とか思うんじゃない! 俺はこれでも神使だぞ)
(嘘でしょ? だって神使がそんな人に憑いたりしないし、神々しくないし)
(我も好きでこんな事をしてるのではないわ)
(まさかとは思うけど…方向音痴とかじゃないわよね?)
(そ、そんな訳があるはずなかろうが!)
「うっせーぞてめーら!」
(起きて…話しかけてくるだと?)
「さっきからピーチクパーチクと…おい鈴音?」
(はい!)
「俺は寝てるときに起こされるのが嫌いだよな?」
(はい! すいません! すいません!)
「そして、てめえだろ問題の原因は?」
(なんという尊大な態度だ…我は!)
「うっせぇって言ってるだろ? あぁ?」
(ぬぉ! 言霊だけで我を押し込んでくるだと)
「守護霊になるのは勝手だが……、俺が寝てる時に二度としゃべるんじゃねえぞ! わかったら返事」
(わかったでござる)
(すいません、すいません、すいません…)
「鈴音、わかったから寝かせろ」
(はい)
「クー…ピースピー……」
『なんだったんだ今のは…』
『喋ったら本気で殺されますよ?』
『ヒィッ』
『明日教えてあげますから静かに』
そして夜は更けていく、恐怖で顔が引きつった空弧は恐ろしさで震えていた。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
崇の目覚めはすこぶる良い、歯もみがいたし、顔も洗ったし、入退院の手続きも保険屋がやるっていってたし、勉強しないで起きた久しぶりに快適な朝である。
「うん、なんだか体が殴りたがってるのは何でだろうか、判らんがとりあえずシャドーでシュッシュッシュっとそしてセイ!(ボコッ)あれ?」
(いきなり殴りかかってくるのはどういうことだ?)
「っかしいなあ手ごたえはあったのに…筋が伸びてたか?」
(今は見えてませんよ、あれは寝てるときの崇さんだけの性格です、性格も霊力もあがって怖いんですよ)
(いや、待て。でも今も殴られたぞ、我は今霊体のみだぞ?)
(それぐらいの力は元々あるんです、小さい頃はもっと普段から強くて一緒に遊んだものでした)
(そんなにか? 常に見えていたと?)
(いまでも稀に見えるようですよ、時折挨拶はしてくれますから)
(そういやお主普通の守護霊なのに名前を呼ばれていたな)
(ええ、崇君が小さいときに名前がないと不便だからって)
(ふむ、やはり逸材をみつけたやもしれん…やっと宇迦之御魂神を助けてもらえそうな奴をみつけた)
(あねご?)
(ああ、宇迦之御魂神ウカノミタマノカミ様よ)
(なんだかへんな事に崇君を巻き込むつもりですか?)
(こればっかりは譲れない…なんとかこいつの寝てるときに話をつけないと…)
(死んでもしりませんよ?)
(クソ…だが、まあいい京都へいけばもしかするともしかするかも知れん、こやつに我が出会ったのも天照様のお導きに違いない)
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
「こ、こんにちわ!お迎えに上がりました」
「ああ、わざわざ御免ね」
「いえ、当然の事ですから、荷物の手配はいたしてきましたので参りましょう」
「ああ、ありがとう」
そして崇と由紀は一路京都へと向かう車中の人となった
「お茶とお弁当をもってまいりました」
「いやあ、由紀さん本当によく気が利くというか、なんだか申し訳ないんだが」
「いえ御気になさらないでください」
「ちなみに学校ってどんなとこにあるの?」
「宇治川沿いに少し京都から離れた場所なんで凄い綺麗ですよ、意外に市外までは車で直ぐにいけますし」
「へーそうなんだ、ってことは由紀さん俺よりも上?」
「いえ、私も来年から同じ学校に通う事になっていまして」
「よかった、それじゃあ同じクラスとかだと助かるな、流石に京都に知り合いはいないや」
「そうですね、それがいいかもしれません」
「うん、そうなるように祈ってよう」
と、噛み合うような噛み合わないような話をする。
そして到着した学校…崇はあれれ? 由紀はちょっと申し訳なさそうな感じ。
「あの由紀さん? ここはどこですか?」
「えっと学校です」
「どこの?」
「崇様が通う…」
「だってここ女子高じゃん?」
流石に引いた崇…これが空狐の守護力なのか! 女装させられるのかと戦慄を覚える崇だが逃げ出すのだろうか、それとも受け入れるのだろうか…