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話し合い

 美月がお礼にと持ってきたのは京都市内でも有名なパティシエのお店のチーズケーキだった。女子高の情報拡散能力恐るべしである。その日の内に高等部の生徒会長まで崇の好みが伝わっていた。


 そして夕食が終わりデザートのチーズケーキも食べ終わった所で小枝が3人を茶室へと呼びだした。


「さて、本日の朝方に起きた花瓶の事件だが……信じられんかもしれんがあれは人の仕業ではない」

「お婆様?」

「理事長……さすがにそれは」

「……」


 突然の小枝の言葉に大して三者三様に驚いた。実際に信じられないだろうがと告げたのは美月に対してだ。それが判るのは由紀と崇のみ。由紀にしてみれば秘事を話す事を意味し、崇にしてみれば既知の事とはいえどまさか小枝からその話を聞くとは思わなかった。


「まあ最後までお聞きなさい、先ず我が家が戦前の財界でなんと呼ばれていたかぐらいは知っているかな、美月さん」

「皇国の守護家、護国華族ですね」

「そう流石ですね、貴女の実家も地元では地域守護の役を担った家柄ですからね。これから語る事は知っていても損は無いでしょう」

「お婆様崇さんにお教えするのですか」

「フフフ、それは守護するこの家に婿入りを願うのですから当然ですよ、それにこれは夜桜(守護霊)様よりの提案でもありますからね」

「お聞きします」

「理解が早くていいけれども、何か知っているという事かしら」

「食事が始まる前に色々と聞いていました、流石に天ヶ瀬まで関わっているとは思いませんでしたけど」

「夜桜は適当な片ですからねえ」

(あら嫌だ、そんな事はありゃしません、偶々最後まで説明する時間が無かっただけです)

「これは美月さんと由紀さんも聞こえているのですか」

「そうそう、由紀はね一応これで巫女でもあるのよ、でも美月さんは……どうかしら」

「あの、一体何が……」

(ちと待っておれ……)とそこに白雪が現れて美月の体に入り込んだ。完全な憑依ではないようだが、それで聞こえるようになるという事だろうか。

(どうかの、妾の声が聞こえるかや)

「え、はい聞こえます」

(目はそのままじゃからな、目に見えざるものまで視る力はまだ早い、我はそなたの家を守護する白雪という、よろしくの)

「はい、その宜しくお願いします」

(うむうむ、流石は綾小路の娘じゃ聞き分けがよいの)

(ところで由紀はまだ視る事は出来ぬのか)

「まだ修行の浅き身なれば……」

(まぁ、視れたとしても、あの事故は防げなかったかもしれんがな。婿殿の方が優秀なのが転がり込んできたのは怪我の功名じゃなあ小夜)

「お戯れを……ですが婿、崇君には期待していますよ」

「そ、そういえば普通に聞いていましたがっ、崇さんもその、視えるのですか?」

「まあ、普段は気にしないようにしてたんだけど、そのこれは言っていいのかな」

(構わんだろう、それを知らなくては対策も立てれぬじゃろう)


 崇は自分が美月の頭上にある禍を取り除いていた事を説明した、朝と下校前に2度取り除いた事、そして夕食の前に話し合いで呪いではないかと結論をした事を述べて、更に空弧の存在と宇迦之御魂神の事も告げたのである。この力のことを他人に話すのはこれが初めてであったが協力を仰げる相手がいるのは非常に心強かった。さっきまでは一人の力で解決する事も視野に入れていたのである。


「成程、呪詛で間違いはないでしょう。だが宇迦之御魂神を捕らえてその力を利用する程の事ができるかどうか……」

(実際に宇迦之御魂神あねごは社に戻っていないのだ)

 狐目の男が説明をした。空弧である。彼としてはいち早く宇迦之御魂神を助けたい。


 こうして雪崩式ではあるが緊急の会議が開かれてしまった。そしてこの展開でじっとしていられなかったのは崇の中の人物である。崇に押さえ込まれてる事で普段は眠っているがこうまで守護者が回りで騒げば寝ている事が出来ない。


 意識を完全に抑えている崇ではあるがその気配までは抑えられなかった。ビリっとする殺気が崇の体内から発せられて鈴音はアワワと慌て他の守護霊は恐れおののいた。唯一動じていないのはキョトンとしている美月と崇に信頼を寄せる由紀、そして殺気を受け流している小枝であった。


「失礼したようですね、夜桜からお話は聞いておりましたが……崇君の中の方には少々騒がしかった様子。御無礼の段、御容赦下さいませ」

「すいません、僕が起きてると喋れなくしてたので余計に殺気が篭もったみたいです。数年来話して無かったからちょっとコツも掴めてなくて」

 小夜は泰然自若としているし、崇に至っては困った奴でという軽い調子であるが守護霊からすれば畏怖する程の存在感と殺気である。そもそも正体がわからないし、二重人格とも考えられない。しかし鈴音からの説明でも崇に憑依している訳でもない。背後にいたりするのと違い、肉体にもしも長時間憑依すれば意識障害や性格の変貌をもたらすことになりかねないし、これだけの力を発する存在がそんな事をすれば崇自体が発狂している。


「ともかく、護国の家としてもこの度の件は無視できません、よって美月さんも寮は少々危険ですから、本日より事件解決まで我が家で過ごしてもらいましょう」


 小夜はそう告げると崇の中の存在を気遣って解散を命じた。ほんとに面白い婿どのが来てくれそうだと喜びながらも「はて、一体何者なのか」と思いながら小夜は一人茶室に残り茶を立てていた。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



「分かれてから随分たつよね」

(全く、気がついたらこんな事態に巻き込まれやがって)

「自分でもこんな風になるだなんて思わなかったんだよ」

(いや、昔からいつも自分から禍を摘み取りにいっては痛い目を見てるだろ)

「周りの人からすればかなり美味しい目にもあってるらしいよ」

(あれは災いが偶々偶然にいい事で相殺しあう力が働いてるだけだ)

「君のお蔭なのは知ってたさ」

(そうか、ならいい加減昔の事はふっきれ、いくら俺達にだって居ない所で起きた事件はどうにも出来なかった)

「それは……わかってるさ」

(まあ、それで結局のところどうしたいんだ、もう殺気を撒き散らすのはやめてやる、煩いけど仕方が無い、但し本当にこれからは睡眠してる時に用もなくたたき起こさせるなよ、俺も昼は起きて居てやる)

「空弧だね、言っておくよ」

(鈴音もだ)

「鈴音はいいじゃないか、昔から僕らの面倒を見てくれてたんだし」

(そ、それは感謝してる)

「だろ、だから僕がこうやって喋ってたら変人に思われるからさ、鈴音との会話役は任せたよ」

(おい、テメエってかお前ってか俺じゃない俺、何勝手に決めてんだ)

「仕方ないだろう、そういった力は君が全部受け持ったんだから」

(グヌヌヌ、仕方ねえな、但し鈴音のみだからな)

「まあ、新しい知り合いがもう一人の僕にできるのも悪くないだろ」

(ウガーッ)


 独り言を呟いているように聞こえてしまうのが珠に瑕、数年ぶりなのでかなり気を使いながら語り合ったのだが、崇としてももう一人の自分とこうして話せるようにまでなるとは思ってなかった。事件が切っ掛けとはなったが悪い気分では無い崇だった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



(なんだ、鈴音だけか)

(はい、その皆さん遠慮しちゃって)

(待ったく最近の守護霊は気合がたらんな)

(仕方が無いですよ、私は今の崇君も知ってましたが、あの殺気を浴びたら逃げ出しても普通です)

(それじゃあ事件の解決ができねえだろうが、鈴音ちょっとひとっ走りいって全員を招集してこい、特に空弧だ、あいつ守護霊になりやがった癖になに勝手にほっつき歩いてんだ。あと白雪は美月の傍から離れさせるなよ、あの禍は厄介だ、また来るかもしれないからな。いくら隣の部屋といえど油断はできんだろう)

(わかりました!)


 霊体なので音も無く去ったが、効果音を付けるとするならそれこそダダダダッ!と響きそうな勢いだ。昔の崇の優しさを知っているからである。近所の守護霊の間でも人気のある少年だった。

 すぐさま集めた空弧、夜桜が連れてこられて深夜の情報交換と宇迦之御魂神の救出作戦についての話し合いが行われる事になった。空弧が叱られたのは言うまでもないが、結果として宇迦之御魂神を助ける事になると思えばと云うものだ。勝手に守護霊となって憑いて来たのも事実で逃げ出していたのも事実。平身低頭で謝っていた。夜桜はここまでの力を持つ存在を知らず一時的に危機を回避していたのだが、今後の事も考えて白雪と隣部屋で待機していただけだ。女性の方が肝が据わっているのがなんとも情けない結果で、神使としての格の違いだけでは無い所が空弧の情けなさを際立たせた。

 ともかく、こうして変わったメンバーでの深夜会議は召集された。事件解決への第一歩を踏み出した瞬間である。

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