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憑かれて殴られ落ち込んで

(ふむ、こやつならば憑いても問題ないか…お邪魔するぞ)

(えー困りますよ)


 非常に運が悪かったのか運が良かったのか…

 人生で7回目の交通事故を体験した千鳥崇、彼の不幸はこんなものでは終わらない。


「痛てぇ!? なんだよさっきの…車が突っ込んでくるわ、お嬢ちゃんは飛び出してくるわ…あー、折れてるかなぁ、お、折れてなーい、流石は俺の悪運」

(ふむ、やはりものすごい運気をもって生まれてきておるな、それを人の為に使える者なれば我の願いを叶えてくれるやもしれん)

「なんだ、さっきからムズムズするぞ?」

「おい兄ちゃん、怪我はないか? 救急車呼んだからよ」

「あーはい、一応外傷はありませんね、多少軽い打撲とかぐらいですよ」

「そ、そうか、で、そっちの嬢ちゃんは…下敷きになってるが」

「あ」

「済まない! 上に乗っかってるとは思わず」

「嬢ちゃんで悪かったですわね! これでももうすぐ高校生なのよ!」

「「え?」」

「な…なんで同じ反応な訳? いっつも…っていうかどいてくださらない」

「御免、何だか服とそっちの金具かなにかが引っかかってるみたいなんだけど」

「あれ? そういえば、何でこんな体勢になってるのよ」

「ちょっと待ってねっと…おっし外れた!」

「……私の服まで外してんじゃないわよこの変態!」


 まさかの電光石火、ノールックドパンチよそみをしてたらくらったこぶしを顎に受けた崇はそのまま病院へ運ばれることになった。



 ◆◇◆          ◆◇◆          ◆◇◆



 見知らぬ天井、真っ白なリング状の機械MRI? 

 なんで病院なんかにいるんだろう?


「あれ、俺どうして検査なんて受けてるんですか?」

「あ、目が覚めましたか、もうすぐ検査終了ですからね、そのままで動かないでね」


 「はい、動いてもいいですよ」と言われ、台から降りるとお医者さんが対応してくれた。



「ここに来たときには意識不明でね、一応交通事故にあったんだが覚えてる」

「えーとはい、あれ?」

「後頭部を非常にものすごい勢いで強打して運び込まれたから、記憶の混濁があるのかな…MRIでみたところは問題なかったから、一応本日のみ様子見で入院していって」


 なんだろう…大切な事を忘れている気がするんだ…今日は何の日だったっけ?

 そうだ!受験だよ! っと時計を見る…あっ……もう終わってる時間だ。

 って落ち着いていられるかあ!

「うわああ受験が!」

「受験生だったのか…うーんでも安静にしてないと…」

「なんてこった」



 そう、特待生で入れそうな高校の受験日、崇は不幸にして高校進学を諦めなければならなくなった。


 幼い頃に両親と死に別れ親戚に厄介になっていたが、これ以上親戚に負担はかけまいと中学生になった崇は勉強に打ち込んだ、別にだからといって貧弱な体質だったのかといえばその逆で、人並み優れた動体視力と運動神経が備わっていた。クラスの体育では常に運動部を抑える活躍をしているぐらいだった。


 その並外れた動体視力があったからこそ、今朝のような不幸な事件があっても助かってきたと思うぐらいに事故も回避している。


 あれ、どんな事故だったっけ? と今は思い出せないのだが、特技ともいえるその動体視力は、崇が集中すると物事がスローモーションに見える。この現象は脳のリミッターが外れる事で発現し、事故など生命の危機に瀕すると走馬灯のように人生を思い出すという現象に似ていた。それと同じでは無いが一秒がコマ送りのスピードになるレベルで時間を引き伸ばして体感することが出来る。出来るというか出来るようになるのだが……実体験者がいうのだから間違いない。



 しかし変だなあ、今まで事故にあっても怪我なんてほんと少ししかしたこと無いのに、なんでよりにもよって受験日なんだよ…


 警察の調書を済ませて、保険屋が挨拶に来てと、一通り済んでから崇は病室で落ち込んだ。


「あー伯父さんと伯母さんにも連絡をとらないと……忘れてた、余りのショックで立ち直れない、受験日に限って事故に遭わなくてもいいじゃないか…」

「あ…あの…」

「くっそ…保険屋が来てたけど要領を得ない内容だったし…警察なんてよかったですね事故の被害者いませんよ、とか、俺が被害者だっつぅの」

「あの!」

「ああん?」

 しまった少々気が立っていた。

「すいませんすいませんすいません!」

 なんだか背丈の小さい子だな、つーか何時の間に部屋に居たんだろうか。まあそう云うのをコンプレックスに感じる子もいるから口には出さないがな。

 だけどこれは聞いておかないと。

「君、誰?」

「あの、えっと、その事故の時に助けてもらったんです」

「はぁ、それでなんでここにいるの?」

「何度もノックはしたんですけど返事が無くて、声が聞こえたので」

「いや、声が聞こえたからって入ってきちゃ駄目だよ?」

 天然か? なんだか気の弱そうな子だけど……顔と性格が合ってないのかな。

「いえ、でも」

「まあ、いいや、あれだ、よくわからんけど、助けた助けられたなんてのはその時のはずみでさ、別に恩に着てくれなんて思わねーから…それより俺は今猛烈に落ち込んでるんだ」

「保険屋さんの対応が悪かったのでしょうか…」

「あーいや、なんか怪我が無かったわりには至れり尽くせりだったな、いやそうじゃなくて…まあ君に言っても始まらないんだが…今日俺受験でさ? まあ今まで人生で事故には沢山遭うって変な運命にしては何時も無事で悪運が強かったのに、今日に限って脳震盪如きで意識不明とかってことで受験失敗高校には行けませんってところかな」

「え? でも、別の所だったらまだ」

「いや、うん、ちょっと家庭の事情ってやつで、特待生で完全に無料でいける高校を受験する予定だったんだ、だから他のとこじゃ駄目なんだよ」

「えっとええっと…ちょ、ちょっと待っててください!」


 女の子は慌てて飛び出していった、何をそんなに慌てる必要があるんだよと思ったが、どっかで見た顔…事故の時に見てるんだったか。

 はぁ、とりあえず伯父さんと伯母さんに心配だけは掛けちゃいけないな…


(フッフッフ我が憑いたから運命の歯車もコヤツにいい方向へ向かうだろう)

(女性のホックとボタンに金具を引っ掛ける霊がいい存在なわけが無いでしょう! せっかく崇は頑張っていたというのに、キィーぶっ飛ばしてやりますわ!)

(フッ甘いな…まるで大福よりも金鍔の如き考えの甘さよ!我の神算鬼謀の妙はここからよ)





 ガチャっとまたさっきの女の子が入ってくる。

 息を切らせてまで何処へ言ったと言うのか。


「あ、あの…学費免除、寮生活で良ければ入れる高校を紹介できるんです」

 え? なにそれてか、こんな子が紹介……いや先ずは話を聞こう。

 溺れる者はってやつだ。

「え? 学費免除で寮生活、寮費は?」

「大丈夫です無料にしてくれます、というか掛かりません」

 なにそれ怖いぞ?

 そんな所あるのか?

「ロハより高いものは無いんだけどな、捨てる神あれば拾う神ありか…、場所と学校名はどこ? 寮ってことは田舎の方かな」

「京都の伏見なんですが…」

「え、京都ってえらく遠いけど親戚でもいるの?」

「いえ、千葉には親戚がいて私がこっちへ来てたんです」

「へー、そうなんだ、で、学校はなんてとこ、まあ知らないとこでも学費免除で寮費も掛からないなら是非とも入学させて欲しいんだけど」

「ほっ本当ですか、ちょっとまってくださいね!

『はい、おねがいします、ええ入学していただきます、問題? ありません私の命の恩人です、おばあ様の許可ももらっていますから。では理事会に連絡と書類と男子用の制服を用意してください。はい急いでくださいね、あと書類を作りに明日そちらへいけるか今お伺いするので、ちょっとまってください』

 あのすいません、あした学校まで来て書類を提出して頂きたいのですが、新幹線の予約とかこちらで手配してもよろしいですか?」

 なんで病院の固定電話を使ってるの? あれ、それより電話って普通あったっけ? まあいいや、俺の一生が掛かってるんだ気にするな。

「あ、はい大丈夫ですお願いします」

「では手配しますね。

『ええ、聞いていましたね、グリーンで昼の2時頃の席を、そうねあとご挨拶に伺うから今から病院の前に車を回しておいて。そうよ、部屋は私の部屋の隣を用意して』

 手配がすみました、では崇様、明日お向かいに上がりますので準備してまいります」

 なんだか凄く手配の早い人だな、何者なんだろう、この子も電話の向こうの人も、只者ではないってのだけは確かだ。本当に神様が拾ってくれたのかも。

「ええっと、ありがとう? でいいのかな、で君の名前聞いてないんだけど」

「天ヶ瀬由紀です」


 そういって彼女は病室から小走りで走っていった、嵐の様な勢いだったな。

 渡りに船と乗った船、泥舟じゃないといいけどね、まあ何とかなるだろう。崇は家に電話すべく病室を離れた。

不定期掲載予定です。

2014/09/23校正

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