転生者は自分憑き
世に神様って言うのが居るのならそいつの横暴は理不尽なのか不条理なのか考えたくなる。
それが運命のような意思のないものだったら不条理なんだろうけどいたずらでこんな状況にしたのなら理不尽なんだろう、そしてそいつにはしゃがんでからのアッパーカットと踵落しを御見舞いしてやりたい。
目覚めたときはそんなことを考えてた。
周囲は森、子供の遊び場として利用されている場所でそこに一人の少年が歩いている。
その道の先の木の上で同年代くらいの影が息を潜める、少年がその真下を通るあたりでその影は少年に飛び掛る。
少年はそれを何事もなかったかのように後ろに避けて頭に拳を振り下ろす。
皆さんこんにちわ、私『ジュキ』と申します、多分今の私は転生者というものです。
なぜ多分かというのは訳がありまして、大抵の転生モノのとおり死ぬ前の記憶があったりするのですが、前回に比べて今の人生は世の中の見え方がおかしくなってるんですよ、いえ、大人から子供の視点に変わったからとかここが剣と魔法の世界だからとかそんな簡単なものじゃないはずです。
「ジュキ、おまえなんでそんなに不意打ちとかに強いんだよ?」
「ん~? 多分それはあれだね、僕は目が四つあるからさ」
「ははは、何だよそれ?まさか後ろにも目があるっていうのか?」
今私の目の前で木の棒を握って頭にたんこぶをつけたまま倒れてる少年は私の言葉を冗談と受け取ったのか笑いながら立ち上がって体についた土を払い落とす。
これで何回目の奇襲失敗だぁ? とかいってるけど数えてるの?
いえ、ちがうんですよ、この体にとり憑くように私の斜め後ろに居る『自分の幽霊』で見渡せるからそういうのが見えるんですよ。
この自分の幽霊は私の周りを一定の距離までなら自由に動き回れる、触れないし物を透き通るけど物を持つように力を込めればちゃんと持てる、以前それとなくこの友人の目の前であっかんべーしたことがあるんだけど反応がなかったから多分他に人には見えてないんだと思う。
これって転生じゃなくて憑依な気もするんだけど物心ついたときにはこうなってたから転生って表現しておいたほうがいいよね。
でも死後の世界ってのは魂の牢獄送りにされるモノだと思ってたけどこの分だといろんな世界を廻る輪廻転生の教えっぽいね?
まぁ、転生の過程で記憶を失うのなら輪廻だろうと牢獄だろうと消失と変わらないし、もとの人生から引き離されることに変わりはないんだからいいんだけどね。
最も、元の人生の死因を考えたら恥ずかしくて記憶を消して欲しいとすら思えるんだけど。
「ジュキ~、ケイト~、もう帰るぞ~?」
「はいよ~」「は~い」
っと、まぁ自分の過去はともかく重要なのは今。
自分は今孤児院で生活している、肉体年齢は七歳といったところかな?
孤児院といっても現代世界での孤児院ではない、剣と魔法の世界、ファンタジー世界の孤児院で今は院長さんのカイガさんとその孫のミラ姉さん、後は孤児が自分を入れて15人くらいで暮らしている。
ミラ姉さんは魔術師の卵で、修了後は国仕えになることを条件に奨学金で隣の街の学校に通っている。
一週間・・・この世界では一年が十二ヶ月なのは変わらないけど言い方が違ったり、一週間が日月水風火土金の八日間になっていてそれが青赤白黒の四週で一月となっているので一年が前世のときよりも若干長い・・・の内二日間の休みに帰ってきて習ったこと等を少しだけ教えてくれる。
今日はその二日間の前の日、赤の金の日なので太陽はまだ高いところにあるけど少し早めに孤児院に帰ることになった。
「――昔々、この地は初め、神さまたちが平和が続く世界『楽園』を作る為に力を合わせて作られた世界の一つでした」
今日のお話は創世と大まかな歴史の話。
この世界はかつて古い神々が平和を夢見て作った箱庭のひとつで、いろんな生物の役割を始めから固定しておくことで環境を固定しようと試みたものだったらしい。
最も、種族の違いによる住み分けはある程度うまくいったものの役割については飛びぬけた才能の人が現れたりしたときに少しづつ歪みが出てきて崩壊した。
それでも世界は定められた役割を保とうとした結果いくつかの国に分かれたのが統合や分裂、滅亡を繰り返して出来たのが今の国々なんだそうだ。
世界によって役割を定める為に分けられた国々は平和とは程遠い形になる。
冷戦と激戦を行き来するようになって数年で大陸は疲弊し、たたかいを続けるのが難しくなって来たころに二つの事件が起きた。
品種改良と薬で強化した強靭な獣を心を繋げて僕にして操る魔獣使いの国「フェイレン」の首都で起きた『魔皇』という巨大生物の発生と、一夜にして起きたその国の滅び。
もう一つは極北の大地、精霊使いの国「ハーレント」に出現した魔族の侵略。
二つの災厄に対して各国はすぐに動いたけど元々戦線を維持するのが限界だった状態だったせいで歯が立たなかった。
この状況を打開する為に行われたのがハーレントの秘術である召喚術を大規模なものにして、より遠くから無作為に強い力をもつ存在を呼び出す『高次能力者召喚術』。
後に勇者召喚の儀式として有名になるこの儀式によって呼ばれた二人の少女は当時の代表達と契約を交わして戦の最前線に立つことになる。
「―――はい、今日はここまでね? みんな、今日はもう寝ましょう?」
ミラ姉さんの言葉で今日は解散になる。
みんなはまだ話を聞きたくてブーブー言ってるようだけどもう寝ないと明日起きるのがつらくなるので仕方がなくみんな寝ることになった。
今日も平和な一日、これからも続けば良いなぁ……