陛下、あなたの嫌った娘が王になります
わたくしアンジェリカはソルカール王国の王女として生まれ。
我ながら整った面相だなあとは思うのです。
奇麗な王女なんて恵まれた境遇とお思いですか?
そうでもないのですよ。
わたくしに父王と似たところがないものですから、母の不貞の子ではないかと疑われているのです。
確かに黒目黒髪は父王にも母にもない形質ですけれども。
おまけに母はわたくしを生んだ時に亡くなってしまいましたから、父王の疑惑はわたくしに集中し。
きょうだい達からは母を殺したとなじられるのですよ。
どうしろと。
侍女達もわたくしに関しては腫れ物扱いでしたね。
まともに構ってくれたのは侍女頭くらいでした。
「アンジェリカ様には教育の予算がついていないのですよ」
「よさん?」
「私も驚きましたが、先生を雇えないということです」
「ふうん。でもわたくしはたくさんたくさんしりたいです」
この頃生まれのせいで愛されないのは仕方がないと、既に諦めていました。
周りに潜在的な敵が多くて。
だからものを知らないことは危ないと、本能で感じていたのだと思います。
「うふふ。アンジェリカ様は向学心がありますね。読み書き計算とマナーは私がお教えしましょう」
「ありがとう!」
「それ以上のことは……そうですね。王宮にはアンジェリカ様を可愛がってくれそうな人もいるのです。気付いていましたか?」
「うん」
侍従や侍女のようなごく身近な人は、必要最低限しかわたくしと接触しようとしませんでした。
侍女頭以外は。
でも王宮文官や近衛兵はわたくしを姫ちゃん姫ちゃんと可愛がってくれるのです。
「王宮文官は忙しい者が多いのですが、窓際部署はそうでもありません」
「まどぎわ?」
「王国史や博物誌編纂の部署ですね。彼らはものをよく知っておりますし、アンジェリカ様が遊びに行っても邪険にしないと思いますよ。今度連れていって差し上げましょう。場所を覚えておけば次から一人で行けますね?」
「うん!」
こうしてわたくしは知識を蓄えていったのです。
一番面白かったのは魔法ですね。
宮廷魔道士達もわたくしに隔意がなかったですから。
いつ行ってもお菓子でもてなしてくれました。
「姫ちゃん、もう初級回復魔法を発動させられるのかよ?」
「えへへー」
「天才か。マジですげえ」
わたくしには何かを教わっている時しか褒められる機会がなかったのです。
自然と学ぶことに熱心になりました。
王立学校に通わせてもらえなかったのは残念でしたが、それ以上の知識を得られたと思います。
そして一六歳の春。
「そなたは隣国トゥルメア王国のレーベルク王子に嫁ぐのだ」
「はい」
初めて父王から呼び出しがありました。
直接声をかけられたのは何年ぶりでしょうか?
忘れられているだろうと思いましたが、そうでもなかったようです。
そしてトゥルメアのレーベルク第一王子との縁談ですか。
レーベルク第一王子は次期王と見られている方ですから、一見いいお話のように思えます。
しかし父王のわたくしを蔑むような目、絶対に何かあります。
トゥルメアと我がソルカール王国は長年いがみ合っている間柄ですが、近年は小康状態なのです。
レーベルク殿下とわたくしの婚姻を機会に友好を深めるという考え方もあるでしょう。
だったらレーベルク殿下と同い年で、まだ婚約も決まっていない姉様にこの役を振るべきなのでは?
わざわざわたくしに両国の平和の架け橋となる栄誉をくださる、なんてことはあるがはずがありません。
では……ははあ、読めました。
わたくしを嫁がせておいてトゥルメアを油断させ、攻め込むつもりでしょう。
宮廷魔道士達による魔道砲の完成が間近ですから、まず間違いないと思われます。
わたくしが処刑されたら、無抵抗な姫を殺す非道な国だとでも煽るのでしょうね。
「ふん、生意気な返事ではないか。まあよい。お前は見栄えだけは悪くないのだ。一度くらいは役に立て」
「はい」
一度くらいは、ですか。
完全に使い捨ての発想ですね。
言外に漏れてくる父王の考えで苦笑しそうになるのを堪えます。
こうしてわたくしは隣国トゥルメアに旅立ったのでした。
◇
――――――――――トゥルメア王国にて。レーベルク第一王子視点。
「わからんなあ」
「ですよね」
腹心マークとともに首を捻る。
何が起こったかというと、隣国ソルカール王国からオレの婚約者が送られてくることになったのだ。
「アンジェリカ王女か。正妃の二人いる娘の内、妹のほう。年齢はオレより一つ下の十六歳」
「うんうん、正妃の娘ならレーベルク様と格として釣り合いますよ。そこまでは何の問題もない話ですけどねえ」
歴史的に角突き合わせてきた隣国ソルカールとも雪解け気配なのだ。
オレがまだ婚約していないということを聞きつけたのか、王女をどうかとソルカールから申し入れがあった。
オレの婚約者が誰になるかで、トゥルメア国内の貴族の関係がギクシャクしているのを知られていたのかもしれん。
「ソルカールは侮れんのではないか?」
「こっちの状況を見透かしているんだとすると、確かにそうですね。しかも一見ソルカールが下手に出ているように思えますから、断りづらいってこともあります」
「うむ……。となるとどんな王女を送り込んでくるかで、ソルカールの打ってくる手の判断材料になると思ったのだが」
ところがこのアンジェリカ王女、調べさせても驚くほど情報が出てこない。
正妃の王女なのに何故?
「ソルカールには立派な王立学校があるのだろう?」
「王族貴族の子女は金銭的な理由がない限り通うものらしいですね」
「アンジェリカ王女は通っていないようじゃないか。全く意味がわからん。だから情報が出てこないわけだが」
まさか学校にも通えないほど盆暗な王女ということはあるまい。
トゥルメアにケンカを売るようなマネをする理由がないから。
「……オレに娶わせるために、なるたけ情報をトゥルメアに与えないよう育てられた王女というのは穿ち過ぎか?」
「うーん、疑える状況ですよね。でもそれならもっと早く縁談を持ってきてたと思うんですよ。殿下の婚約者が決まってからじゃ意味ないんですから」
「それもそうか。じゃあどういうことだ?」
「いやあ、サッパリ」
知恵の働くマークでもサッパリか。
「でも美人ですよね。似顔絵を信用するならですが」
「肖像画は信用ならんものとオレは知っている」
「あはは、まあそうですけれども。でも似顔絵通りだとすると、レーベルク様の好みドンピシャではないですか?」
苦々しいが頷かざるを得ない。
神秘的な黒髪の清楚な女性。
ソルカールはオレの好きな女性のタイプまで把握しているのかと、恐ろしく思ったくらい。
「そろそろアンジェリカ王女の到着の時間ですね」
「うむ、行くか」
マークを連れて王宮正門前に。
まあ今日オレは主役じゃないから、顔を出すだけだ。
正式な顔合わせは明日と聞いているから。
馬車から降りてくる彼女がアンジェリカ王女か。
「……レーベルク様。似顔絵以上に美人じゃないですか」
「……うむ」
やや遠目だが、やたらと美人なことはわかる。
オレが婚約者の王子だと気付いたか、視線が合った時控えめな笑顔を見せてきた。
うわあ。
アンジェリカ王女は父陛下と二言三言話し、疲れを癒すために部屋に案内されていった。
俺達も戻る。
「レーベルク様。あれほどの王女を送ってくるとなると、ソルカールは本気で友好を考えているようですね」
「……うむ」
「どうしたんですか。一目見ただけで陥落ですか?」
「……どう見ても知性溢れる瞳だった」
「完全にやられてるじゃないですか」
「いや、王立学校に通ってないのだろう? 何故だ?」
「あ……」
父陛下との挨拶一つ取っても如才ないことは窺える。
明らかに賢明な王女だ。
どうして学校に通っていない?
ちょっとわけがわからない。
まあいい。
「明日の顔合わせが楽しみだな」
「明日は基本、レーベルク様とアンジェリカ王女の面談なのでしょう? 陛下は参加されず」
「そうだな」
「もっと人数を絞りましょう」
「む? どういうことだ?」
「変なことが多いですよ。ソルカールの事情かアンジェリカ王女自身の事情かはわかりませんけど、大っぴらに外で話せない秘密もあるかもしれないです」
なるほど、突っ込んだことまで王女に聞けということか。
「よし、こっちからはオレとマークだけと伝えておこう」
「本当に聡い王女なら、それだけで何かを察すると思いますよ」
「うむ」
◇
――――――――――翌日。アンジェリカ視点。
今日は早速レーベルク殿下とお茶会です。
向こうからは殿下とマーク様という側近の二人のみがいらっしゃるそうで。
……既に何か感付いていますかね?
包み隠さずお話しするのには都合がいいですが……。
ああ、おいでになりました。
疲れてないか、大丈夫お気になさらずというやり取りから……。
「えっ? アンジェリカ姫一人を残して、随員は皆帰ってしまうのか?」
「婚約者なのですから、姫なんてやめてくださいな」
「アンジェリカ……アンジェリカか。実にいいな」
「ええ? 僕も婚約者欲しい」
アハハウフフと笑い合います。
大声で笑えるって楽しいですね。
「侍女一人も残さないのか。トゥルメアに早く慣れるためという配慮で?」
どうしましょう?
信頼関係を築けていない今、全てを話すのはタイミングが早い気がしますが……。
「表向きの理由はそうですね」
「表向き?」
レーベルク殿下とマーク様のみでわたくしに会うということは、何らかの不信があるのだと思います。
正直に話せということなら、腹の探り合いもまた必要ないと見ました。
レーベルク殿下の信頼を得るしかわたくしの生き残る道はないのですから。
「父王はわたくしをレーベルク殿下の婚約者という体で預けておき、トゥルメアに攻め込もうとしているのだと思います」
「「えっ?」」
「おそらくですけれど」
レーベルク殿下とマーク様の表情が険しくなりました。
どんどん質問してください。
「……君は本物の王女なのだろう? 替え玉などではなく」
「はい。既に亡くなった正妃の娘であることに間違いはありません」
「どうしてソルカールは自分から王女を人質に出すようなマネをした?」
「わたくしは人質の用を成さないからです」
「どういう意味だ?」
「わたくしは父王と似たところがなく、母である正妃の不貞の子なのではないかという疑惑があるのです。それで疎まれておりまして」
「ははあ? だから侍女も連絡員も残さずに、随員全部帰国させるんだね?」
「話は通るな」
わたくしを捨てていくつもりでしょうからね。
「もちろんわたくしは何も聞かされていませんから、推測ではありますけど」
「推測ついでに聞こうではないか。何故今なんだ?」
「アンジェリカちゃんをレーベルク様の婚約者にして使い捨てるつもりがあったなら、もっと早い時期に送り込んでくるべきだったんじゃないの?」
「決戦兵器魔道砲の完成が間近だからだと思います」
「「魔道砲?」」
「充填した魔力を圧縮して撃ち出すものです。魔力充填に数日かかりますので連発はできませんが、体力自慢の者が三〇分走ったくらいの距離の射程と、一発で宮殿を吹き飛ばすくらいの威力、座標指定によるほぼ狂いのない照準を併せ持ちます。通常の魔法結界は防御の役に立ちません」
「うわ、そんなの陣地に撃ち込まれたらパニックだね」
「待て。軍の機密に属することだろうに、どうしてアンジェリカが知っている?」
「わたくしが宮廷魔道士研究所に出入りしていたからです」
浮遊魔法でフワリと浮き上がり、魔法の実力を見せておきます。
「驚いた……アンジェリカちゃん魔法使いだったの?」
「厭われていたわたくしは教育係をつけてもらえませんでした。侍女頭によると、わたくしの教育費予算は組まれていなかったようです。ですから王宮でわたくしのことを嫌がらない人を探しては教えを乞うていました。宮廷魔道士もその類ですね」
また王宮には大きな図書室もありました。
一人でも学べる環境だったのはありがたいです。
「王女の教育費予算が組まれていない。考えられんことだが、アンジェリカが学校に通っていなかった理由はそれか」
「御存じでしたか。はい、わたくしは王立学校に通わせてもらえませんでしたので、ソルカールでの貴族人脈はなきに等しいです。申し訳ありません」
「でもおかしくない? 魔道砲のことを知っているであろうアンジェリカちゃんを、わざわざトゥルメアにプレゼントしてくれるなんて」
プレゼントと思っていただけますか。
嬉しいですね。
ソルカールでは廃棄物扱いのわたくしですから。
「宮廷魔道士からわたくしに関する報告が父王に行っていたことは間違いないと思います。ただ父王は軽視していたのではないですかね? あるいはわたくし絡みのことは目に入れたくなかったか」
「アンジェリカの魔法の実力はどの程度なのだ?」
「魔法言語の文法は普通に理解できます。実践魔法についてならば、ソルカールの宮廷魔道士の中にわたくし以上の実力の者はおりませんでした」
「うむ、あんな静かで安定している浮遊魔法は初めて見たものな」
「レーベルク様。アンジェリカちゃんの言ってることが全て真だとすると全部辻褄が合うわ。だってこんなすごい実力者だってソルカール王が知ってたら、追い出すはずがないもん」
かも知れませんね。
父王はわたくしと一度も向き合ってくれませんでした。
「……わたくしは父王とまともに話したことがないのですよ。売女の子だの裏切り者だのと蔑まれていましたから。また母がわたくしの誕生時に亡くなったので、同母きょうだいからも人殺しと呼ばれておりました」
「ひどい」
「ソルカールには身の置きどころがないのです。よろしく寛恕願います」
「アンジェリカ、ハグしていいか?」
「えっ……もちろん構いませんけれども」
逆らう術なんかありませんとも。
レーベルク殿下に強く抱きしめられます。
ああ、わたくしはこのように誰かにぎゅっとされた記憶がないですね。
温かい……思わず涙がこぼれます。
「あー、レーベルク様が泣かした!」
「す、すまん。嫌だったか?」
「いえ、全然。わたくしはこうやって誰かに抱きしめられた経験がないものですから。とても嬉しかったです。ありがとうございます」
「何だ。これから何度でもこういう経験はあるぞ。婚約者だからな」
まだ婚約者と言ってくださいますか。
もったいないことですね。
しかし……。
「いけません。わたくしは敵国の王女です。しかも人質にもなれない半端者です。レーベルク殿下の婚約者は、国内にもっと相応しい令嬢がいらっしゃるでしょう」
「いや、オレは賢く美しいアンジェリカのことを気に入った。そしてソルカールの内部に通じていてかつ大変な魔法の実力者となれば、全く文句ない」
「ですが……」
「陛下には事情を話しておきますよ。そして市民には魔法の実力まで含めて、早く披露しておけばいいんじゃないかな。実際に戦争が始まったら故国に捨てられた悲劇の王女ってふうに、同情を誘う方向に世論を誘導するから」
「となると困るのは魔道砲か。野営の際に隊を分散配置するくらいしか対応策がない」
「大丈夫です。わたくしを信用していただけるならデコイを作ります」
「「デコイ?」」
「魔道砲の照準をずらして引き寄せる誘引装置ですよ。どこに着弾するか決められるなら魔道砲も怖くないですから」
「よし。トゥルメアの魔道士達にアンジェリカを紹介しよう」
信じてもらえるというのは、何と素敵なのでしょう!
わたくしはトゥルメアのために働きますよ。
◇
――――――――――後日談。
アンジェリカがトゥルメア入りして半年後、ソルカール軍はトゥルメアに電撃的に侵攻する。
しかし諜者の報告とアンジェリカによって立てられた予測から、侵攻ルートはトゥルメアによって完全に察知されていた。
完全に裏をかいているはずの作戦が逆撃されるとソルカール軍は兵力を集中し、魔道砲を撃ち込んで混乱させてからの突撃に方針を切り替えた。
その方針もまたトゥルメアによって予測されており、ソルカール軍の野営地はアンジェリカ指揮下で製作された新魔道砲に直撃された。
新魔道砲一発でソルカール軍は、総司令官であった王太子と兵力の二割を失った。
苦し紛れで撃ったお返しの魔道砲をデコイで逸らされると、ソルカール軍は退却を開始する。
が、遅かった。
間道から先回りしたトゥルメア軍軽騎兵と工作兵に足を止められると、もう一度新魔道砲を撃ち込まれた。
ソルカール軍は総司令官と副官、全軍の五割の兵力、虎の子の魔道砲を失ったため降伏した。
武装解除したソルカール軍をアンジェリカが説き伏せる。
わたくしを婚約者として送り出しておいてソルカール側から開戦するなど卑怯である、恥を知れと。
わたくしがソルカール王になるから力を貸しなさいと。
ソルカール軍の指揮官の中にも、無用の戦であると王家の方針に疑問を持っていた者は多かった。
反論に対して聞く耳を持たない王の頑なな姿勢にも。
ソルカール軍があっけなく破れたのはアンジェリカの知略だという。
王太子が戦死した今、ソルカール軍の将兵は黒髪の美しき王女に希望を見た。
ソルカールとトゥルメアの混成軍を率いたアンジェリカは、ソルカール地方領主達に使者を送りながらゆっくり進軍する。
アンジェリカは知っていた。
地方領主達に理由なく増税していた父王が評判を落としていたことを。
その点を突けば、味方になってくれないまでも好意的中立を勝ち取ることはできると。
目論見通りであった。
アンジェリカの進軍を止めようとするたびに新魔道砲で吹き飛ばされると、ソルカールに抗戦の意志はなくなった。
無人の野を往くように進撃すると、王族は都を捨てて逃げ出す。
アンジェリカがソルカールの王位に就くと宣言した。
軍を握っていたこともあるが、領主貴族や公務員達の地位はそのまま保障すると発表すると、急速に落ち着きを取り戻した。
レーベルクがアンジェリカに問うた。
「逃げ出したやつらをどうする?」
「放っておけば首だけで戻ってきますわ。人民を捨てて逃げ出す者など王ではないのですから」
その通りになった。
アンジェリカは一族の首を丁重に埋葬し、それで義務を果したとばかり政務に取りかかった。
「ちょっとムダをなくして税金を安くする。市民と対話する。それだけで皆が納得しますのに、父王はそうしませんでした。滅びるのは当たり前です」
「ハハッ、アンジェリカは厳しいな。それよりもアンジェリカの扱いが不当だったろう?」
「不当というより中途半端でしたね」
「ふむ、中途半端とは?」
「疑ったなら殺すべき。信じたなら愛すべき。そういうことです」
「アンジェリカちゃん、マジで怖いんだけど」
「マーク、アンジェリカちゃんと言うな。ソルカールの王になるのだぞ」
「そうだった」
ふとレーベルクとアンジェリカの目が合った。
レーベルクがアンジェリカを抱きしめる。
それは合図のようなものだった。
レーベルクとアンジェリカの信頼は揺るぎないものとなっていたから。
「転移装置か」
「ええ、これがあれば瞬時にソルカールとトゥルメアを行き来できますよ」
「愛の前に距離の暴虐は潰え去ったな」
「うふふ」
アンジェリカはソルカール王であり、レーベルクもまたトゥルメア次期王となることが確実視されている。
ソルカールとトゥルメア互いの王宮の間が新開発の転移装置で結ばれることになったので、特に政務に支障はないと目されている。
いずれソルカールとトゥルメアはレーベルクとアンジェリカの子孫達による同君連合国家となるのだろう。
「アンジェリカが先王の正式な娘であるという魔道検査の結果が、宮廷魔道士から発表されたそうだが」
「父である先王が認めようとしなかった事実です。ずっと以前に行われた魔道検査の結果なのですけれどもね。もっとも血統を重視する者もいますので、わたくしがソルカール王たるためには、今公式に発表しておくことが必要なのです」
「アンジェリカは賢いな。もう一度抱きしめていいか?」
「うふふ、存分にどうぞ」
愛の足りない生い立ちのアンジェリカは、レーベルクの愛情を受けて嬉しかった。
しかし未来に思いを馳せる前に、重要なのは今だった。
アンジェリカは心の中で、かつて王だった父に初めて尊称をつけて言葉を投げる。
陛下、あなたの嫌った娘が王になります、と。
最後までお読みいただきありがとうございました。
どう思われたか下の★~★★★★★で評価してもらえると、励みにも勉強にもなります。
よろしくお願いいたします。




