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喰い譚-感情を喰う者-  作者: かさ


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最終話 目喰い(あいくらい)

翔太は涙を流していた。


 


目の前に立つ少女。


 


長い髪。


白いワンピース。


 


記憶の奥に残り続けていた姿。


 


 


「……零」


 


 


やっと思い出した。


 


ずっと忘れていた。


 


いや、忘れさせられていた。


 


 


それでも胸の奥に残っていた感情は


消えていなかった。


 


 


好きだった。


 


 


名前を思い出せなくても。


 


顔を忘れていても。


 


存在が消えても。


 


 


翔太は一歩、近づいた。


 


 


零の姿をしたそれも


静かに一歩、近づく。


 


 


二人の距離は


ほとんどなくなる。


 


 


翔太は手を伸ばした。


 


 


その瞬間だった。


 


 


零の黒い目が


 


翔太の目を


 


覗き込んだ。


 


 


深い闇のような黒。


 


瞳も


白目もない。


 


 


ただ


 


 


底の見えない黒。


 


 


翔太の体が動かなくなる。


 


 


逃げようと思ったわけではない。


 


 


でも


 


動けない。


 


 


目を逸らすことも出来ない。


 


 


その黒い目の奥が


 


ゆっくりと


 


 


渦のように動いた。


 


 


次の瞬間


 


翔太の視界が歪む。


 


 


目の奥から


何かが


 


 


吸い出されていく。


 


 


痛みはない。


 


 


でも


 


胸の奥にあった感情が


 


少しずつ


 


消えていく。


 


 


零と笑った記憶。


 


カフェで過ごした時間。


 


名前を呼ばれた声。


 


 


全部が


 


目の奥から


 


 


吸い取られていく。


 


 


翔太の頬を涙が流れた。


 


 


でも


 


 


なぜ泣いているのか


 


分からない。


 


 


零という名前が


 


消えていく。


 


 


愛していた感情が


 


消えていく。


 


 


胸の奥が


 


 


空っぽになっていく。


 


 


最後に


翔太は理解した。


 


 


目の前にいるものは


 


 


零じゃない。


 


 


 


目喰い。


 


 


 


その瞬間


 


翔太の視界が


 


完全な闇に沈んだ。


 


 


 


 


次に目を開けた時。


 


 


翔太は


 


 


知らない場所に立っていた。


 


 


音がない。


 


 


風の音も


人の声も


 


何も聞こえない。


 


 


ただ


 


 


無数の人影が


 


静かに彷徨っている。


 


 


誰とも話さない。


 


誰とも触れない。


 


 


ただ


 


 


歩いている。


 


 


翔太はゆっくり瞬きをする。


 


 


その時


 


気付いた。


 


 


視界の端に


 


自分の手が映る。


 


 


震える手で


 


顔に触れる。


 


 


そして


 


 


分かった。


 


 


翔太の目は


 


 


空洞だった。


 


 


瞳がない。


 


 


ただ


 


 


空っぽの穴だけが


 


そこにある。


 


 


翔太は遠くを見る。


 


 


無数の影の向こう。


 


 


三つの影が見えた。


 


 



 



 


 


そして


 


 


零。


 


 


三人は手を繋いでいる。


 


 


翔太は歩き出す。


 


 


一歩。


 


また一歩。


 


 


でも


 


 


距離は


 


 


縮まらない。


 


 


零は


 


翔太を見ていない。


 


 


父と母を見ている。


 


 


翔太は立ち止まった。


 


 


胸の奥には


 


もう何もない。


 


 


空っぽ。


 


 


それでも


 


口だけが動く。


 


 


小さく


 


呟く。


 


 


 


「……また」


 


 


 


「どこかで」


 


 


その声は


 


誰にも届かなかった。


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