第二話 黒い目
大学からの帰り道、翔太は駅のホームに立っていた。
夕方のホームは人が多い。
スマホを見ている人、友達と話している人、イヤホンをしている人。
いつもの風景だ。
電車が滑り込んでくる。
金属が擦れる音。
ドアが開く音。
人の流れに乗って、翔太も車内に入った。
空いている席を見つけて座る。
窓の外には、夕焼けが広がっていた。
ぼんやりとその景色を見ていると、胸の奥にまたあの違和感が浮かぶ。
思い出せない誰か。
確かにいたはずなのに、名前も顔も思い出せない。
「……なんなんだよ」
小さく呟く。
その時だった。
窓ガラスに映る自分の顔の向こうに、誰かが立っている。
男だ。
スーツ姿で、特別目立つところはない。
どこにでもいそうな普通の男。
でも、妙に目が引きつけられる。
翔太は窓越しに、その男を見た。
すると。
男が、こちらを向いた。
その瞬間、背筋に冷たいものが走る。
目が、真っ黒だった。
白目がない。
瞳もない。
ただ、黒い穴みたいな目が、こちらを見ている。
思わず振り向く。
しかし、そこには誰もいない。
「……は?」
立っているのは、普通の乗客だけだ。
黒い目の男なんていない。
もう一度、窓を見る。
今度は、自分の顔しか映っていなかった。
翔太は小さく息を吐く。
「疲れてんのかな……」
そう言いながらも、胸の奥の不安は消えない。
電車が駅に止まる。
ドアが開く。
人が降りていく。
翔太も立ち上がり、ホームへ出た。
階段を上り、改札へ向かう。
ふと、背後に気配を感じた。
振り返る。
人混みの向こう。
あの男が立っていた。
黒い目で、こちらを見ている。
翔太は思わず目を逸らす。
もう一度見る。
男はもういなかった。
「……気のせいだ」
自分に言い聞かせるように呟く。
そのまま駅を出て、夜の街を歩く。
コンビニの前を通り過ぎた時だった。
ガラスに映る自分の姿。
その後ろに
三人の人影。
翔太は振り返る。
そこには、誰もいない。
胸の奥がざわつく。
もう一度、コンビニのガラスを見る。
そこには、自分しか映っていなかった。
その時、翔太は気付く。
さっき電車で見た男。
足元を見た時。
影がなかった。




