第一章 目喰い 第一話 思い出せない誰か
大学のキャンパスは昼前になると騒がしくなる。
講義が終わった学生たちが一斉に廊下へ溢れ出すからだ。
笑い声、スマホの通知音、誰かの呼ぶ声。
そんな日常の音の中を、翔太はゆっくり歩いていた。
「翔太ー!昼どうする?」
後ろから声が飛んでくる。
振り返ると、サークルの友達の健太が手を振っていた。
「学食?」
「いや、今日は外行こうぜ」
「いいよ」
二人で階段を降りる。
他愛のない会話。
いつも通りの昼休み。
なのに、最近ずっと胸の奥に妙な違和感があった。
何かを忘れている。
そんな感覚。
スマホを取り出して、何となく写真フォルダを開く。
サークルの飲み会。
旅行。
バーベキュー。
楽しかった思い出ばかりだ。
でも、写真の中には
妙な空間がある。
人が一人立っていたようなスペース。
「……なあ」
翔太は健太にスマホを見せた。
「この写真さ」
「ん?」
「ここ、空いてるの変じゃね?」
健太は画面を覗き込む。
「別に?」
「いや…誰かいた気がするんだよ」
健太は笑った。
「気のせいだろ」
翔太も苦笑する。
「まあ、そうだよな」
そう言いながらも、胸の奥の引っかかりは消えない。
誰かがいた。
そんな気がしてならない。
学食を出て、キャンパスの通りを歩く。
ふと、視線を感じた。
顔を上げる。
通りの向こう側に、三人の男女が立っていた。
年齢も服装もバラバラだ。
でも、なぜか目が離せない。
三人とも、こちらを見ている。
じっと。
ただ、見ている。
「翔太?」
健太の声で我に返る。
もう一度視線を向ける。
そこには、誰もいなかった。
「どうした?」
「いや……」
翔太は首を振る。
「なんでもない」
その時、胸の奥がわずかに痛んだ。
頭の中に、ぼんやりと浮かぶ。
長い髪の女の子。
でも、顔が思い出せない。
「……俺さ」
翔太は小さく呟いた。
「誰か好きだった気がするんだよな」
その瞬間。
キャンパスの喧騒が、ほんの一瞬だけ――
静かになった気がした。




