表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: ヒサマル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/27

第4話 三歳、初めての調理

はじめまして。

本作は「料理×成長×捕食」をテーマにした異世界ファンタジーです。


少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

よろしければブックマークや評価で応援していただけると励みになります!


 その日、家の中はいつもより静かだった。


 父は仕事。  母は洗濯のため、家の裏手へ出ている。


 台所には——誰もいない。


 そして。


 鍋も、包丁も、火も。


 すべて、そこにあった。


 心臓が跳ねる。


 (……今だ)


 身体はまだ三歳児。  歩幅は小さく、足取りも不安定だ。


 だが、それでも俺は台所へ向かった。


 踏み台を引きずる。


 ギィ、と床が鳴る。


 一瞬固まる。


 ——母は来ない。


 よし。


 踏み台に登る。


 視界が、一段高くなる。


 そこには前世と変わらない景色があった。


 まな板。  包丁。  鍋。  薪の火。


 思わず、息が漏れる。


 「……やっとだ」


 声は幼い。


 だが中身は、三十年火の前に立ち続けた料理人だ。


 ◇


 まずは素材を確認する。


 台の上に置かれていたのは、小型魔物の肉だった。


 灰色がかった赤。


 筋が多い。


 脂は少ない。


 そして——臭い。


 (血抜きが甘いな)


 袋越しでも分かる。


 だが、逆に言えば処理次第で化ける肉だ。


 俺は小さな手で肉を持ち上げた。


 重い。


 滑る。


 危うく落としそうになる。


 (……身体が追いつかないな)


 だが問題ない。


 料理は力じゃない。


 技術だ。


 包丁に手を伸ばす。


 冷たい感触。


 ぞくりと背筋が震えた。


 ——帰ってきた。


 刃を握った瞬間、頭の中が静かになる。


 余計な思考が消える。


 世界が研ぎ澄まされる。


 これが俺の領域だ。


 ◇


 まずは血抜き。


 本来なら流水が理想だが、この家では桶の水しかない。


 ならば回数で補う。


 肉に刃を入れる。


 小さな手でも、角度さえ正しければ切れる。


 赤い液体が滲む。


 桶に沈める。


 水がすぐに濁った。


 (ほらな)


 この工程を省けば、臭みは絶対に消えない。


 二度、三度と水を替える。


 やがて、濁りが薄くなった。


 次は筋切り。


 刃先で細かく入れる。


 繊維を断つ。


 火を通した時の硬さが変わる。


 小さな身体に汗が滲む。


 だが、不思議と疲れは感じない。


 むしろ——楽しい。


 料理をしている。


 それだけで、胸が満たされる。


 ◇


 火を確認する。


 弱い。


 薪の組み方が甘い。


 俺は慎重に一本動かした。


 空気の通り道を作る。


 すると。


 ボッ、と炎が大きくなる。


 思わず笑った。


 火は正直だ。


 応えた分だけ、力をくれる。


 鍋を置く。


 油を少量。


 熱を待つ。


 まだだ。


 まだ低い。


 匂いで分かる。


 油がさらりと動き始めた瞬間——肉を入れた。


 ジュッ!!


 音が弾ける。


 香ばしい匂いが立ち上る。


 それだけで、勝利を確信した。


 表面だけ焼く。


 旨味を閉じ込める。


 ひっくり返す。


 焼きすぎない。


 あとは弱火で火入れ。


 シンプルだ。


 だが、この世界では誰もやっていない。


 ◇


 焼き上がった肉を、小さく切る。


 震える手で一切れ持ち上げる。


 息を整える。


 そして——口に運んだ。


 噛む。


 肉汁が広がる。


 臭みはない。


 繊維は柔らかい。


 成功だ。


 その瞬間。


 視界が光に包まれた。


 【捕食者 Lv1 起動】


 【スキル獲得:夜目(小)】


 世界が、少しだけ明るくなる。


 輪郭がくっきりと見える。


 ——これが、スキル。


 思わず笑みがこぼれた。


 だが。


 次の瞬間。


 「……なにしてるの?」


 背後から声がした。


 凍りつく。


 振り向くと、母が立っていた。


 目を見開いている。


 床には水。  桶。  切られた肉。


 そして——包丁を握る三歳児。


 沈黙。


 やがて母が駆け寄る。


 「危ないでしょ!!」


 包丁を取り上げられる。


 当然だ。


 だが次の瞬間、母の動きが止まった。


 鍋を見る。


 肉を見る。


 匂いを嗅ぐ。


 そして、小さく呟いた。


 「……美味しそう」


 恐る恐る、一切れ口に入れる。


 目が、見開かれた。


 「え……?」


 もう一口。


 噛む。


 飲み込む。


 そして。


 俺を見る。


 信じられないものを見る目で。


 「これ……あなたが?」


 答えられない。


 だが、目は逸らさなかった。


 母はしばらく黙り込み——やがて笑った。


 驚きと、少しの誇らしさを滲ませて。


 「……この子、天才かもしれない」


 胸の奥が、少しだけ熱くなった。


 その夜、父も肉を食べた。


 そして言った。


 「店が出せる味だな」


 店。


 この世界にも料理屋はあるらしい。


 なら——いつか。


 俺はそこに立つ。


 確信が芽生える。


 捕食者。


 この力は、戦うためだけじゃない。


 料理を極めるための力だ。


 小さな手を見つめる。


 まだ弱い。


 だが——もう、始まっている。


 俺の料理人としての、二度目の人生が。



---

ここまで読んでいただきありがとうございます!


「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。

評価や感想もとても励みになります!


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ