表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: ヒサマル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/34

第32話 黒い閃光

 消えた。


 確かにそこにいたはずの影が、視界から完全に消失した。


(どこだ——)


 思考より先に本能が叫ぶ。


 危険。


 剣を横へ払う。


 直後、凄まじい衝撃が腕を貫いた。


 火花が散る。


 骨が軋む。


 押し込まれる。


 もし反応が一瞬遅れていたら——首が飛んでいた。



---


 すかさずステップを踏み距離を取る。


 呼吸をまず整える。


 視線を巡らせる。


 そして見つけた。


 十歩ほど先の木漏れ日の狭間に、影がいる。


 四足歩行の獣。


 低い姿勢。


 地面すれすれまで落とされた頭。


 黄金の瞳だけが、鋭く光っていた。


 毛並みは黒に近い。


 だが輪郭が曖昧になるほどに薄暗い森と同化している。


(……黒豹、みたいだな)


 思わずそう思った。


 だが知っている動物とは何もかもが違う。


 静かすぎる。


 呼吸すら聞こえない。


 そこに「いる」と分かるのは、ただ殺気だけだった。



---


 低い唸り。


 吠えない。


 威嚇もしない。


 ただ狙っている。


 完全な捕食者の目。


 その瞬間、理解する。


 今、この森が異様に静まり返っていた理由を。


 小動物も鳥も——逃げていたのだ。


 こいつから。



---


 後肢が沈む。


 来る。


 息を一息吐き、剣を構える。


 次の瞬間、地面が爆ぜた。


 黒い閃光。


 速すぎる。


 剣を横一文字に振りぬく。


 しかし、魔物には触れず空を切る。


 魔物が目の前から消える。


 直後——背後からの殺気。


 (まずい!)


 反転と同時に後ろにステップ踏む。


 爪が閃き、魔物が飛び掛ってくる。


 

---


 熱。


 そして激しい痛み。


 左肩が裂けた。


 血が散る。


 衝撃で体勢が崩れる。


「ぐっ……!」


 息が詰まる。


 深くはない。


 だが鋭い。


 急所だけを正確に切り裂く一撃。


 無駄がない。


 (……今のも喉元を狙われた)


 間違いなく殺しに来ている。



---


 距離を取る。


 鼓動が跳ねる。


 考えろ。


 呼吸が浅くなる。


(逃げるか——?)


 一瞬だけよぎる。


 正解はそれだ。


 新人が単独で挑む相手じゃない。


 だが理解してしまう。


 背を向けた瞬間、終わる。


 逃げ切れる速さではない。


 なら——向き合うしかない。



---


 血が腕を伝う。


 温かい。


 滑る。


 だが握力は落ちていない。


 痛みが逆に意識を研ぎ澄ます。


 思考が静まる。


 余計なものが削ぎ落ちる。


 世界が、急に鮮明になる。



---


(速い……だが)


 観察する。


 踏み込み。


 筋肉の収縮。


 重心の移動。


 一撃離脱。


 背後を取る。


 急所狙い。


 合理的すぎる狩り。


 だからこそ——癖になる。



---


 影が揺れる。


 フェイント。


 右へ踏み込み、瞬時に軌道を変える。


(賢い……!)


 だがもう目が慣れている。


 剣を最短距離で振る。


 毛が舞う。


 浅い。


 それでも初めて届いた。



---


 黄金の瞳が細まる。


 空気が変わる。


 獲物ではないと理解したのだ。


 次は本気で殺しに来る。


 背筋に冷たいものが走る。


 それと同時に——胸の奥が熱を帯びた。


 恐怖と混ざる、高揚。


(来い……)


 自分でも驚くほど冷静だった。



---


 風が止む。


 森が息を潜める。


 時間が引き延ばされる。


 そして。


 消えた。


 一直線。


 迷いのない突撃。


 喉狙い。


 予測通り。



---


 半歩ずれる。


 爪が頬を掠める。


 間合いに踏み込む。


 魔物と視線が交差する。


 剣を渾身の力を込めて振る。


 狙うのは一点。


 頭ではない。


 胴体でもない。


 肉を捌く時、最初に刃を入れる場所。


 魔物の首を狙う。



---


 一閃。


 手応えあり。


 深く、剣が魔物の首に食い込む。


 だが魔物は止まらない。


 レオンの身体目掛けて体当たりしてきた。


 体当たりの衝撃で肺の空気が押し出される。


 視界が大きく揺れる。


 まだだ……倒れるな。


 踏ん張れ。


---


 身体中に痛みが走るがまだやれる。

 剣をまた構える。


 魔物と睨み合う。


 だが、先程からの首の出血により魔物の体勢が。


 ガクッと崩れた。


 ごの瞬間を見逃すわけにはいかない。


 足を踏み出す。


 剣を振りかぶる。


 全力で刃を叩きつける。



---


 重い音。


 巨体が地面に叩きつけられた。


 動かない。



---


 距離を取る。


 剣を構えたまま動かない。


 荒い呼吸だけが響く。


 数秒。


 やがて理解する。


 終わった。



---


 剣を下ろした瞬間、全身から力が抜けた。


 膝が震える。


 遅れて痛みが押し寄せる。


「はぁ……っ、は……」


 ギリギリだった。


 本当に。



---


 その時。


 枝が揺れる。


 鳥が鳴く。


 小動物が走る。


 風が通る。


 森が、息を吹き返した。



---


「……見たことのない魔物だ」


 思わず呟く。


 こんな捕食者が、街の近くにいるのか。


 都市の外は、やはり甘くない。



---


 魔物に近づく。


 まだ体温が残っている。


 筋肉はしなやかで、美しい。


 そして——


(……旨そうだな)


 本能が静かに囁いた。



---


 レオンは剣を収める。


 肩は痛む。

 

 血も流れている。


 身体中ボロボロだ。


 だが立てる。


 歩ける。


 なら問題ない。



---


 巨体を見下ろす。


 理解していた。


 この一戦で。


 自分はまた一歩——


捕食者に近づいたのだと。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。

評価や感想もとても励みになります!



次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ