↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/100

第25話 旅立ちの朝

 その朝は、いつもと同じように始まった。


 窓から差し込む柔らかな光。

 遠くで響く薪割りの音。

 鳥のさえずり。


 変わらない村の朝だった。


 ただ一つだけ違うのは——明日この村から旅立つ。


 準備は整っている。


 それでも、どこか現実味が薄い。


 レオンは静かに息を吐き、部屋の外へ出た。


 朝の空気は少し冷たく、肺の奥まで澄んでいる。



---


 台所では母が朝食を用意していた。


「もう起きてたのね」


「ああ」


 並べられた料理は、いつもと変わらない。


 焼いたパン。

 温かいスープ。

 香草を混ぜた卵。


 特別なものはない。


 だが、その“いつも通り”が胸に残った。


「ちゃんと食べなさい。旅に出たら、こんなに規則正しく食べられないんだから」


 少しだけ強い口調。


 だがその目は、どこまでも優しかった。



---


 家を出ると、トーマが壁にもたれて待っていた。


「遅いぞ」


「いつも通りだ」


「まあな。……行くか」


 二人は並んで歩き出した。


 言葉は少ない。


 だが沈黙は重くなかった。



---


 村の中をゆっくりと回る。


 見慣れた道。

 何度も駆け抜けた路地。

 幼い頃、転んで膝を擦りむいた坂。


 すべてがここにある。


 井戸の前を通ると、顔なじみの老婆が手を振った。


「あらレオン、聞いたよ。村を出るんだって?」


「ああ」


「これ持っていきな」


 差し出された布袋には、干し果物が詰まっていた。


「甘いものは元気が出るよ。道中で食べな」


「ありがとう、ばあちゃんも元気で」

 

レオンは深く頭を下げた。


 受け取った重みが、妙に温かい。



---


 畑の前では農夫が笑う。


「大きな猪を一人で倒した時は驚いたぞ。あの時は村中がその話でもちきりだったからな」


 トーマが肩を揺らして笑う。


「俺も腰抜かすかと思った」


「無茶はするなよ。……だが、お前なら大丈夫だろうな」


 軽い調子の言葉。


 だがそこには確かな信頼があった。


 レオンは小さく頷いた。



---


 子供たちが駆け寄ってくる。


「レオン兄ちゃん、帰ってくるよな!?」


「約束はできない。でも、帰れる時は帰るから」


「絶対だぞ!」


 差し出された小さな指に、自分の指を軽く合わせる。


 それだけで、十分だった。



---


 広場ではミナが待っていた。


「本当に行くのね」


「ああ」


「寂しくなるわ。でも……外の世界を見てきて。ここじゃ見られない景色を」


 隣でケイルが腕を組む。


「強くなって待ってる。その時は手合わせしてくれよ」


「望むところだ」


 二人で笑った。


 その笑顔を、レオンはきっと忘れない。



---


 気づけば日が傾いていた。


 空が橙色に染まる。


 村外れまで来たところで、トーマが足を止めた。


 しばらく何も言わない。


 風が草を揺らす音だけが流れる。



---


「正直さ……ちょっと怖ぇ」


 トーマがぽつりと言った。


「お前がいなくなるの」


 レオンは黙って聞く。


「でも、お前が外に出るなら……俺も負けてられねぇ」


 視線がぶつかる。


 迷いのない目だった。



---


「死ぬなよ」


「そっちこそ」


 二人は拳を突き合わせた。


 言葉はいらない。


 それが誓いだった。



---


 家に戻ると、夕食の匂いが漂っていた。


 テーブルには、少しだけ豪華な料理が並んでいる。


「食べなさい。冷めるわよ」


 母がいつも通りに言う。


 父は黙って席についた。


 変わらない食卓。


 それが何よりありがたかった。



---


「街に着いたらまずギルドだな」


 父が言う。


「ああ」


「焦るな。生き残ることを優先しろ」


 短い言葉。


 だが重い。


 レオンは深く頷いた。



---


 その夜。


 寝床に入り、目を閉じる。


 だが眠りは浅かった。


 しばらくして、小さな声が聞こえる。


 母だった。


「……ごめんなさい」


 泣いている。


 声を殺しているが分かる。


「見送るときは笑っていたいの……だから、今だけ泣かせて……」


 胸が締めつけられる。


 父の低い声が返る。


「あいつは帰ってくる。俺たちの息子だ」


 短い。


 揺るがない声だった。


 レオンは目を閉じたまま思う。


 ——絶対に帰ってこよう。



---


 朝。


 扉を開けた瞬間、足が止まった。


 村人たちが集まっていた。


 誰も大声を出さない。


 ただそこに立ち、見送っている。


 母は笑っていた。


 目が、少しだけ赤い。


 だが何も言わない。



---


 トーマが前に出る。


 再び拳を突き合わせる。


「頑張ろうぜ」


「ああ」


 それだけで十分だった。



---


 村を見渡す。


 生まれ育った場所。

 守られていた場所。

 そして——帰る場所。


「行ってきます」


 静かな声だった。


 だが確かに届いた。



---


 歩き出す。


 一歩。


 また一歩。


 もう振り返らない。


 だが村の気配は、背中に残り続けた。



---


 歩き出してどれくらい経っただろうか。


 村の気配は、もう完全に消えていた。


 振り返っても見えない。


 あの場所は確かに存在しているのに、もう手の届かないところにあるように感じる。


 胸の奥がわずかに軋む。


 それでも足は止めない。


 前へ進むと決めたのは、自分だ。



---


 街道に出ると、人の往来が少しずつ増えてきた。


 荷を引くロバ。

 大きな袋を背負った旅人。

 剣を腰に下げた男。


 知らない顔ばかりだ。


 それだけで分かる。


 世界はもう始まっている。



---


 やがて緩やかな丘を登りきった時だった。


 レオンは思わず足を止める。


 視線の先。


 遠くの平原に、小さな影が見えた。


 建物が集まり、煙が立ち上っている。


「あれは……」


 目を細める。


 村よりずっと大きい。


 だが、話に聞く巨大都市ほどではない。


 おそらく——中継町。


 旅人と商人が行き交う、街道の拠点。



---


 しばらく眺める。


 遠い。


 だが確実に辿り着ける距離だ。


(まずは、あそこか……)


 父の言葉を思い出す。


 街へ向かうなら途中で馬車を拾え。


 徒歩だけでは時間がかかりすぎる、と。


(あそこから馬車に乗ることになるな)


 まだ見ぬ旅路を想像する。


 知らない景色。


 知らない人々。


 胸の奥で、小さな高揚が灯る。


 恐怖は——不思議と少なかった。



---


 不意に風が吹き、森の匂いを運んできた。


 反射的に視線を向ける。


 深い緑。


 奥は暗い。


 あの夜、月を削った影が脳裏をよぎる。


 黄金の瞳。


 若鳥の宵喰い。


 胸の奥で、捕食者が静かに目を覚ます。


(次に会う時は——)


 迷いはない。


狩る。


 逃げる側ではない。


捕食者だ。



---


 レオンは視線を町へ戻す。


 あそこに辿り着けば、旅は次の段階へ進む。


 村ではない。


 だが、まだ本当の大都市でもない。


 世界の入口。


 そんな予感がした。



---


 一歩踏み出す。


 草を踏む音が、やけに大きく聞こえた。


 もう守られる場所はない。


 これからは、自分の足で進む。


 自分の力で生きる。


 少年は村を出た。


 捕食者として、生きるために。


 世界は広い。


 そして——道は、まだ始まったばかりだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


「続きが気になる」と思っていただけたら、ぜひブックマークをお願いします。

評価や感想もとても励みになります!


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。