世界浄化のために……
手慰み、第数弾でございます。
ちょっぴり、ピュアな男の子をいじめている感があります。
成長型の勇者、ですね。
勇者と聖女が混じる時、世界は救われる……。
そんな言い伝えが残る世界で、先代の勇者と聖女がもたらした平穏が再び崩れ始めたのは、その二十年後だった。
その兆しを察したのは、聖女を育て上げる役目を担う神殿で、王都からはるか遠くの、当の混沌が生まれるとされる地に近い場所に建てられていた。
そこまでの道のりを、選ばれた勇者は数々の村を回りながらも目指し、最終的に聖女とかの地で結ばれ、再び村々を回りながら帰路につき、王都で聖女と婚姻して王太子となると、伝統で決まっていた。
ただ今回は、先の時から二十年しか経過しておらず、勇者側も聖女側も、人選が難しかった。
特に国王となった元勇者の子は、年頃の男児が殆ど成婚済みか縁組済み、少し若い世代には何故か、一人しか男児がいなかった。
流石に、十代半ば未満の子供に、長旅を強要するわけにはいかないと、王室は仕方なく、その男児を勇者として持ち上げ、盛大に見送って旅立たせたのだった。
どうせ、どんなに初心でも、旅を続ける過程での様々な女性との付き合いが、たくましい男へと変えてくれると、元勇者であった国王も、よく分かっていたのだ。
神殿までの道のりで立ち寄る村は、それぞれ戦士、魔法使い、賢者を育てる環境が整った村々で、その中から、勇者に選ばれた者が、神殿まで同行することになっている。
勇者は父親である国王に、聖女との交わりがスムーズにいくように、女の連れを選ぶようにと進言されていた。
もうすぐ十七になる勇者は、それを素直に聞いたのだが……。
「……この者が、一番強い女性、ですか?」
引きつる顔が抑えきれない勇者に、村長は真顔で頷いた。
「はい。混沌の影響か、こんな些細な障害が、村には現れてしまいました」
些細、些細か?
後ずさりそうになる勇者の前で、村長の娘と紹介された人物は、大きな体を縮めながら、恥ずかしそうに俯いた。
自分よりも一回り大きな、同年の男だった。
戦士らしい洋装なのが救いだが、それで安堵できる話ではなかった。
村長は深刻な表情で続ける。
「年頃の娘が全て、性別を変換させられてしまい、わが村は危機に瀕しております。どうか、娘を伴って旅を続け、無事聖女の元へっ」
信じられないと娘と紹介された男を見ると、戦士の女はごつい顔をほころばせた。
「王命により、旅に出る者と勇者様は、一夜の交わりをとの事ですが、私はこのありさまでございますので、今夜は私の代わりに、母が夜のお相手をしてくれると、そう申しております」
それは、有難いのか、有難迷惑なのか、勇者には判断が出来なかった。
口をパクパクとしている男に、娘は母親を紹介する。
村長の妻でもあるその母親は、勇者を獲物を見る目で見つめて、妖艶に笑った。
「一線を越えることはできませんが、満足させて御覧に入れましょう」
……勇者の、地獄のような旅が、こうして幕を開けたのだった。
それから立ち寄った村々も、混沌の影響を受け、勇者も散々だった。
どうしても年頃の、生の女性と出会えない。
いや、会えたのは会えたのだが、一様に女ではないと力説する。
賢者の村で選んだ娘が、混沌の影響で自分と同じものがついていると言った時は、もうそれでもいいと、返してしまいたくなるくらいには、勇者も病み始めていた。
何はともあれ、そんな地獄のような旅は、この地で終わる。
若干軽い足取りで神殿入りした勇者は、出迎えた人物を見て、絶望した。
白い髭を蓄えた大柄な男が、大仰な服装で待ち構えていたのだ。
恐怖で立ちすくんだ勇者を、不思議そうに見やってから、男は言った。
「長きに渡る旅で、お疲れでしょう。儀式はすぐにでも執り行えますが、まずはお休みください。……勇者殿を、部屋に」
男は背後に控えていた神官の一人に指示を出し、直に離れて行った。
大神官は、勇者の挙動の可笑しさに疑問を抱き、旅の同行者に事情を聞くことにした。
初めのうちは、国王がつけた護衛がいたが、ここに来るまでで全員が国に返され、前の人生では女三人に囲まれてやってきた勇者は、完全にクズ男と化していた。
が今回は、ただの一人の女も、伴っていなかった。
「……国王陛下より、命がありました。勇者を驕りにのめり込ませるなと」
賢者は、そう答えた。
それが、前回の世界の崩壊につながったのだと、国王が言っていたのだと。
「……まあ、間違っては、おらぬが」
大神官は、苦い気持ちになった。
前の人生でやってきたあの勇者は、見目のいい女三人と、ドロドロの関係になってここまでやってきた。
そして、聖女を顔を合わせた時に言ったのだ。
「は? こんな地味な女が聖女? もう少しメリハリのついた、派手な女じゃないと、触手が動かないんだが?」
そして儀式の時も、傷ついた聖女を乱暴に扱い、そのまま国に帰った。
聖女を王妃に据えることまでが、儀式だったというのに。
神殿に残った聖女は心を病んでしまったが、それを気遣う余裕はなくなった。
勇者が旅路についた途端、再び混沌の兆しが芽生え、王都についた頃までで空気が澱み切り、国全体が衰退していった。
大神官は、聖女が自死した後に病を得てこの世を去ったが、すぐに少し前に巻き戻った。
先の混沌の世から、二十年経過して再び、混沌の兆しが見えた頃だ。
いや、どうしてここだっ?
大神官は、声を大にして嘆きたくなった。
どうせならば、先代の勇者の旅の前に、巻き戻りたかった。
前回の混沌の時期の勇者の所業の方が、表に出ていないだけで、混沌をだまし切ってしまった分、最悪だったのだ。
同じように豊満な女たちを侍らせてやってきた勇者は、口には出さなかったが、当時の聖女の姿に落胆していた。
儀式の方も、聖女は耐えたが、勇者の動きは自分本位だったようだ。
「あの方、ご自身の手管に、酔ってらっしゃいましたわ」
悲しそうに聖女がそう言ったから、確かだ。
だが表向きのその儀式により、混沌は収まった。
聖女は勇者と共に王都に向かったが、一度も目出たい知らせはない。
代わりに、国王となった元勇者の浮名だけは、遠い地にも届いた。
噂ではない。
今宿泊している勇者は、百人目の王子だ。
こういう結末になったからこそ、こんな短期間で混沌が、再び現れてしまったのだろう。
大神官は、兆しの知らせを王都にもたらした後、どうにかこの聖女だけでも救い、この世の平穏を取り戻す方法を考えたいと、あがいていたのだが……。
「それは、わが村の男衆たちも同意見だった、という事です」
ここに来た男たちの親世代の記憶には、今回の勇者の所業も、前の勇者の所業も、後悔するものだった。
「前の人生では諦観していた。それは、あんな所業でも、少しの間とはいえ、平穏が戻ったのだからと、言い聞かせていたからだと、教えてくれました」
その諦観が、前回の悲劇を生んだのならば。
「力技ででも、今回の勇者には更生を促すしか方法がないと、答えを出した次第です」
賢者は言うと、戦士と魔法使いの村の男たちを見て、苦笑した。
「姉の代わりになり、我ながら白々しい作り話をしたんだが、この方々のお陰で、全く疑われなかった」
「いやいやあの坊や、元から初心な奴だったから、初めの時分から、あんな感じでしたよ」
「前の時は我々も、罪な選抜をしてしまっていた、ってことだな」
神殿内なので酒は出せないが、勇者との旅でぼろを出さぬよう、気を張っていただろう男たちは、ようやく真実を語りあえると、楽しそうだった。
後日、聖女と勇者は無事初対面を果たし、双方の合意の下で儀式が執り行われた。
二人が三人の男と共に王都へ向かう時、大神官は王妃当てに書面を預けた。
前の人生での崩れそうな気配ではなく、先代の時の頼りない気配でもない今の状況を、王妃から国全体に伝えるためだ。
これが、代替わりを早めて国王を追い詰めてしまうだろうが、それこそ大神官には願ったりの状況だった。
読んでくださり、ありがとうございます。
何というか、自分では意味不明な話になっておりますが、気楽な手慰みなので、ご了承いただければ。




