表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コミケとたくさんの100円玉

本当に辛いことは本が売れないことじゃない。

本当に辛いことは自分だけが売れないこと。

本当に怖いのは赤字じゃない。

本当に怖いのは大量の在庫を持ち帰ること。

コミックマーケットにサークル参加した昔話。



私は突如として同人誌を描きたくなったのです。

一応、小学生までは漫画家になりたいという夢を持っていましたが・・・。まあ、社会科見学のつもりだったのでしょう。とにかく軽く考えていたことは確かです。何の迷いもなくオンラインで手続きを済ませました。


わりと早めに申請書一式が届きましたが、その頃には「そもそも参加許可がおりないだろう」と思うようになりました。だって実績もなく、サークルといっても私一人です。そういうことを申請書に書いているうちに、弱気になっていったのです。さらに絵の心配も増しました。40mm×55mmのカタログ用のカットを描くだけでもだいぶエネルギーを使いましたので。


数か月後。通知がきました、当選です。12/29に東京ビッグサイトでのサークル参加が決まりました。

『魔法少女まどか☆マギカ』の4コマ漫画。と申請書には記載しましたが中身は考えていません。だって通ると思っていなかったから・・・。10月末に受け取ったので、残りは二か月。果たしてできるのか?


形式はコピー本でいくことに決めました。

A4上質コピー紙に印刷した原稿を半分に折って、そこにL字ホッチキスを打ち込むという、とても簡素なものです。しかし製本所というステップを省くメリットは大きいです。あまりにも未知の領域でしたから。コピー本は折ったらA5になるので、私の絵の拙さもかなりカバーできます。


あっという間に当日になった気がします。とにかく描いて捨てて描いて捨てての日々でした。家にいる間は基本絵を描いていました。前日は寝てないです。L字ホッチキスで製本していました。ギリッギリで50冊完成。


総武線・武蔵野線・りんかい線からの国際展示場駅。途中めちゃくちゃ混みます。「さすがはコミケだ」と思っていましたが、舞浜駅で半数以上の乗客が降りていきました。「さすがは夢の王国だ」


駅からビッグサイトまではゾロゾロと歩く人についていくだけでしたが、入ってから手間取りました。フロアの大きさに対して自分のブースの狭さたるや。なんですかあれは。


開場までに、両隣の方にご挨拶。その時、値札と見本を作ってないことに気づき、慌てて作成しました。


そんなこんなで10時を向かえます。開場です。最初に入ってきたお客さんは目の前をスルーして真っすぐに目的地に行きました。こういう事態になることは事前情報として勉強していました。徹夜組、始発組の方々ですものね。お疲れ様です。


30分ほどして私も本気で客寄せの声を上げます。こんなの学生時代の新人勧誘以来です。が・・・上手いこといきました。


声をかける、まどマギトーク、見本を見てもらう、購入、「ありがとうございました!良いお年を!」この流れが、基本ずっと続きました。昼に休憩をとる暇もありません。最後のお客さんは二人組。残り一冊だったので、足りない一冊は見本を無料で差し上げました。これにて店じまいです。私は「完売。ありがとうございました。」と書置きを残して持ち場を去りました。まだ14時でした。


帰り道でカタログと次の夏コミの申請書を買いました。その他のサークルを見るパワーはありません。慣れない作業と今日までの同人誌作成のダブルパンチで初めてのコミケを楽しむ余地は残っていませんでした。人ごみを抜けてりんかい線に乗り込みます。時間が早かったおかげかゆっくり座れることができました。そうして私は脱力をしながらも、言いようもない充足感に満たされたのです。


さて、売り上げとなった100円×50冊から参加料、製作費、交通費、雑費を引いたら1万とか2万の赤字でしょう。私の同人誌制作時間を人件費としてカウントしたら、とんでもない数字になります。でもいいのです。今回に限って、そこはどうでもいい。大成功なんだから。有頂天になっていい。成功したんだから。



調子に乗ったのか?と問われれば、乗りました。イエスです。



初参加での成功からくる勢いで次の夏コミへ参加申請書を送ったのです。冬コミでの実績があるので8割方受かると思っていました。そして無事当選。今回は『アイドルマスター』の4コマ漫画でチャレンジです。


結果から言えば惨敗。10冊だけ売れて、残り40冊は持ち帰ることになりました。


前回と同じように描いて、同じように接客したはずです。さらに私には「一度参加した」という経験値が積まれています。しかもこれは成功体験なのです。上がることがあっても、下がることはないと思っていました。完売しないパターンなんて頭のどこにもありませんでした。


夏コミも当日朝までは、ほぼ同じです。再びコピー本を選択したので、ギリギリまでL字ホッチキスでの製本を徹夜でやっていました。


前回と違ったのは、まず両隣のサークルの存在でした。前回は最初の挨拶以外、記憶にも残らない方々でした。今回は左隣のおじさんが妙に馴れ馴れしく話しかけてきます。それは私にだけではなく、様々な人に挨拶をしたり、話し込んだりしていました。聞いてみると、色んなサークルの手伝いをしているうちにコミケの常連になり、自然と顔が広くなってしまったとのことでした。


10時となり開場します。最初の30分は、やはり人がきません。これは前回と同じです。しかし違った点もありました。両隣のサークルにはそこそこ人が来ているのです。つまり、元々のコミケの目的がそこにあったということでしょう。これには焦りました。しかし本当の焦りはこれからです。客足が落ち着く時間帯になっても、私の本は売れないのです。そもそも見本を見てくれる人が少ない。たまに見てくれても、スッと戻して消えていってしまう。開場から2時間。12時になった時の売り上げは、ゼロでした。


昼過ぎに私の友人がやってきました。彼は一般参加で、コミケに来るのは初めてでした。そんな彼を呼んだのは、他ならぬ私。一度の成功で強気になっていた自分が恥ずかしい。ここにきてようやく一冊目が売れました。友人の前で多少見せ場が作れたことが、この夏コミでの唯一の救いでした。


さて、友人は帰っていきました。気づくと右隣のサークルが凄い人気です。「Twitterのファロワーさんが予想以上に来てくれた」とのこと。さらに人が集まり列をなします。通路には広がれないから隣の私のスペースに並ぶ。これはどうしたものかな。とりあえずは屈辱。だって私のブースにお客さんがいたら、こうはなりませんもの。ガラガラだからこそなるわけです。私には「君たち、マナーを守りたまえ」と言う権利はあります。しかし、そうやって開けたスペースに人はやってこないのです。情けなくて嫌になりますね。「すいませーん、前が塞がってしまうので・・・」と柔らかい注意を小さく繰り返しました。売れないことは罪です。売れない奴は罪人なのです。


16時になり一般参加者が出口へ向かう時間帯になりました。「これ以上は売れない」と判断し、少し早く撤退しました。残り1時間なのだから、居てもいいかと思うでしょうが、その時の私は「早くこの場を去りたい」とばかり考えていました。消えてしまいたかったのです。売れない本売るという立場になれば、誰だって同じ考えになります。私が16時まで耐えたのは人気のあった両隣から「逃げた」と思われたくなかったからです。それも限界を迎えました


帰り道は14時に退場した前回とは比べらないほど混んでいました。一般参加者の帰りのピークに、私のような早上がりサークルが混じってのことでしょう。売れない奴にはこんな仕打ちまであるのか・・・。


総武線に乗り換えて、シートに座りました。疲労困憊です。なんでこんな思いをしないといけないんだろう。あんなに頑張ったのに・・・。小学生並みの感情でしたが、ずっとそんなことを考えていました。泣かなかっただけマシなほどのへこみ具合です。


座りながらバッグを整理していると、100円玉が大量に入った袋が出てきました。前日に用意した釣銭です。近所のゲームセンターの両替機で50枚ほど100円玉を量産しました。「すぐに、いくらでもお釣り出せるように」って。ばーか。あの夏コミのことを思い出すときは、先ずこの100円玉が思い起こされます。惨めさってこういうこと。虚しさってこういうもの。


それからは、コミケに出ていないです。しかし、ふとしたことで再びサークル参加する日が来るかもしれません。その時はやはり一人で全てをやるでしょう。あの惨めな空気を誰かに共有させるなんて、それはもう犯罪ですもの。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ