第八話
相変わらず、二人のギクシャクしているところは変わらなかった。
ようやく、都から離れた片田舎の山里、と言ったのどかな村に着いた。
まあ、新婚が済むには手頃と言った屋敷だ、裏手を見てみると畑が広々としていて、ここで生活するには丁度手頃だろう、隠れ家と言っていい。
荷物、と言っても車に積んでいる彼女の荷物位だが、家に運んで、囲炉裏に火をくべて、暫くゆっくりしながら。
まあ、これで俺のお役は御免と言ったところか、チラと二人を見ていると何となくよそよそしいと言うか、おれが想像していた新婚のイメージにほど遠く。
最初に彼女と出会った時の、あの弾けるようなイメージは影を潜めていた。
理由はどうあれ、俺の親戚だし、従妹と言う俺の爺さんの形見みたいなものだ、やはりその行く末は気になるし、どうせなら幸せになって欲しい。
今の俺には、そう祈らずにはいられなかった。
いずれにしても俺の役目は終わった、帰る準備でもしておこう。
そう思って、屋敷裏に止めているランタボに戻り、車のチェックをしていると。
屋敷の表が騒がしくなってきた、沿道から騎馬と、物々しい手に槍や、腰に剣、刀を差した武装した一団が、あっという間にこの屋敷を取り囲んだ。
一団の奥から一層装飾の派手な、騎馬が進み出てきた。
そして、王子の名を三回大音声で呼びかけた。
結局、新居に着いて、ゆっくりする間もなく王子側の追手に、この新居を取り囲まれたのだ。
呆気ない幕切れか。
追手は王子側の人間ばかり、いや、中には獣人や、鳥人なども混じっているが。
慌てた様子で、二人は表に出てきた、不安そうな二人は立ち尽くすばかりだった。
派手な装飾の騎馬に乗ったリーダーらしき奴が、俺を一瞥した後二人を見据え巻物を広げ読み上げた。
内容はこうだった。
駆け落ちをするのはかまわないが、その身にある一切の特権、一切の身分、一切の財産を剥奪し、平民とする。
そして今後一切の、我が国に入国を子々孫々禁止する。
当然、冠婚葬祭関係なく。
まあ、簡単に言えば勘当と言ったところだろう。
当然と言っちゃ当然、駆け落ちするぐらいだからよっぽどの覚悟と勇気が必要なのは百も承知だろうと。
だが、王子の返事はこうだった。
私は、無理だ、王位継承を放棄してまで、
そんなことしてまで、生きていたくない。
と。
大声で。
彼女の方を見ると。
彼女の顔色はみるみる変わって、血の気が引いて行くのがわかった。
続けて王子は大声で叫んだ。
こんな、舞踏会で知り合っただけの女に、なぜ人生かけなければならないんだ、私は次期王、大王にならなければならない。
それを聞いた彼女は、膝から崩れるように倒れた、俺は駆け寄り彼女を抱き抱えた。
王子は、
ふん、と鼻で息を巻いて、お前には、その異世界の人間がお似合い、だ。
と、言い終わると、同時に俺の頭に血が上り、俺の拳が、王子の顔面にめり込んだ。
気のせいか、王子が一瞬止まったような気がする。
王子は、
三回転はしただろう。
武装した者が乗り付けた騎馬に頭を打ち付け、鼻血を垂れ流しながら、気絶した。
武装した者は王子、といいながら駆け寄り、騒然となった。
おのれ、不逞の輩。
と、剣、刀、槍を抜いて、にじり寄って来た。
その時、頭に血が上った俺の頭の中の、どこかの回路がブチ切れた。
刹那、周りの景色は奇妙な景色となった。
舞い上がった木の葉、土煙が舞ったままそのままの形で停止している。
人も何もかもが止まったままだ、いや厳密にいえば少しづつではあるが、動いている。
剣を抜こうとしている武装した者、槍を構える者、刀を抜き払い上段に構える者、気絶した王子に駆け寄る配下の者、騎馬と、ありとあらゆるものが、目を凝らさなければ分からない位、止まっている状態になっていた。
訳は分からないが、チャンスは最大限生かせと、俺の爺さんが常々言っていた事を思い出した。
理由なんて、どうでもいい、その前に動け、人間、理由を考えたら行動が停止する、まず動け、と。
空中で止まっている木の葉を手で避けながら、剣を抜きかけている奴の傍まで行き、剣をもぎ取って、武器となる小刀や、他の武装した者たちの武器という武器をもぎ取り、俺の車の中に隠した。
それが終わると、王女の身柄を安全な俺の車の陰に隠し、鼻血を出している王子は派手な騎馬に乗っている奴に向けて空中に投げ飛ばした。
念のため、手下どもは全員足払いを掛けてひっくり返してやった。
空中にいる鳥人は、ジャンプして足を掴み引きずりおろして、地面に重ねて置いた。
そこまですると、風景が徐々に目に見えて動き出しやがて、映像が再生されたかのように動き出した。
瞬間、あちこちで叫び声と、地面に叩きつけられる音が辺りにこだました。
地面に重ねられた鳥人は、羽根が絡み合い身動きが出来なくなっていた。
投げ飛ばされた王子は騎馬の頭の上に落下しものすごい音を立てて落下した、同時に叫び声が鳴り響いた。
辺りは混乱を極めた、後で、しまったな、一発づつ殴っておくべきだったな、と冷静に思っていた。
一団は訳が分からず、右往左往しているところに。
土煙を上げて一台のランタボが滑り込んできた。
囲んでいた部下たちを轢く事も厭わずと言っていい位。
お待ちなさい。
そう言って、その車から出てきたのは、この屋敷を手配した彼女の親友、俺の従妹の第一王女。
そして、第二王女が降りてきた。
親友がなぜランタボを。
疑問に思っていると。
降りてきた第一王女、第二王女達は、再度。
双方お引きなさいと、大声で周りに凛とした声で言い放った。
彼女の親友はチラと車の陰に居る彼女を見て、王子の陣営に向かい、涼やかなそれでいて威厳に満ちた声が響いた。
事情は聞いた。
その方、この領地はわが王国の領地であるぞ、その領地に武装した軍隊を差し向けるとは、返答次第では敵対行為と見なし、わが軍もそれ相応の対応をするが、返答は如何。
派手な騎馬の者はさっと、騎馬から降り、まず軍を出したことを詫び、これまでの経緯と、王子の帰還だけが目的との説明を第一王女に述べた。
第一王女は聞き終わった後、一呼吸置いて。
駆け落ちは、双方の責任である、が。
唆したのは、王子側で、その事で私は王女から何度も相談を受け、そして、間違いなく夫婦になると聞いたので、私は手配をした。
王子は全てを投げだしても、君と一緒になりたいとも言っていた、と聞く。
それを信じた彼女に、何の非があろうか。
それでも私は、親友の事が気になり、間者を放ち情報収集をした。
その中でよからぬ事実を聞いた。
王子があちらこちらの娘に、王子であることを餌に、関係を結んでいたこと。
独身の《《おいた》》は、多少目をつぶろう。
百歩譲って、過去の事を清算して一緒になる事ならいざ知らず、ここにきて、我が親友を蔑ろにするとは。
私の親友を泣かせるやつはゆるせない。
早々に立ち去るがいい。
それが嫌なら一戦交えるか。
第二王女は一層声を張り上げた。
派手な騎馬の武者は、そこまで言われ、面目丸つぶれと言った体で、周りの武者たちを促し、這う這うの体で引き揚げようと動き出した。
王子は気が付き、顔中血だらけの王子は這いつくばって、彼女達に悪態をつきながら、騎馬に乗り土煙を上げながら去って行った。
去っていく土煙を見送りながら。
ありがとう、助かった、それより色々聞きたいことがある。
なぜ、ランタボがここに?
俺は第一王女に聞いた。
あなたのおじい様の形見。
第一王女。
え、どういうこと?
俺。
いつか会える事を信じて、形見として、同じ車をクローンしたの。
この世界は貴方の世界とは理の外、それくらいは簡単。
それに貴方の光速術、時間を操るのではなく、あなたの力が、理の埒外となって周りの時間があたかも止まって見えるの。
俺は、第一王女に念を押すように、
それで、さっきの時間が止まっていたように見えて、空中までジャンプできたのか。
と。
第一王女は、ニッコリ笑いながら、
この術であなたのおじい様は、この世界でありとあらゆるご活躍をされたのです。
俺は車の陰に隠していた王女の事が気になり傍に行くと、彼女の肩がかすかにふるえていた。
声を殺して泣いている。
俺はこんな時に、女性にかける声を持ち合わせていなかった、ただ、隣にドカッと座り、頭をポンポンとして、泣き止むまで側にいる事しかできなかった。
ここまで、お付き合いくださり、本当に感謝いたします。本当に有難うございます。




