第七話
何だか険悪なムードが車内に漂っていた。
未舗装の道路、ダートコースと言っていいほどの道を、特有の振動と、乗り心地で駆けている。
ルームミラーをチラと見ていると、王子とは彼女と目も合わせない様に、外の景色をずっと眺めている。
昨日と打って変わって、従妹の王女の方はジッと俯いている、何だか今にも泣きだしそうな表情だった。
昨日までの、彼女のはしゃぎっぷりから一転して、その表情は悲しげだった。
確かに成り行きとはいえ、駆け落ちに加担している俺としては、そんなお通夜みたいな逃避行なんて願い下げだ。
楽し気で、嬉しそうなキラキラした彼女の表情を暗くした原因が、今その彼女の隣にいる王子とやらであることは明らかだった。
時折、舌打ちするそいつの表情を見るとだんだん頭にきた。
何度目かの舌打ちにを聞いた時に、俺は急ブレーキをかけ車を停めた。
そして、後部座席の舌打ち野郎に。
てめえ、いい加減にしろよ、何が不服なんだ、昨日からといい、彼女に対する態度といい、しかも彼女の親友に、お礼の一つもなく、何不貞腐れてんだこの野郎。
俺は怒鳴った。
ミラー越しに俺を睨み返し。
なんだと、このやろう。
と王子。
俺は。
ドアを蹴り開け、車の外にでた。
表でやがれ。
王子の、胸ぐらを掴み表に引きずりだした。
やんのかコラ。
と王子。
やるから、引きづり出してんだコラ。
と俺。
やめて。
そう言って彼女も慌てて外に飛び出した。
どうせ、俺に嫉妬かなにかだろう。
一緒に、落ち合う場所に俺と彼女二人だけで来たこと。
宿で彼女が俺の部屋に来て、暫く俺の部屋に居て、真っ赤になって帰った事。
最初、親友に、駆け落ち相手を俺だと間違われたこと。
その他、何だか知らねえが勝手に嫉妬しやがって、てめえの女そんなに信用できねえか。
一気に俺はまくし立てた。
俺に取っちゃ、他の女なんだからどうでもいいと言ったらそれまでなんだが、やっぱり、俺の大好きな爺ちゃんの孫、俺の従妹と言った身内贔屓がそうさせたのだろうか。
いや、まっすぐな。
そのやり方には若干の問題はあるが、自分の大切な人に対する、その真っ直ぐな想い、を大切にしたかったのかもしれない。
自分が出来なかった、真っ直ぐな想い、なんだろうか。
王子も負けじと、
お前に、そんなこと言われる覚えはない。
俺達二人の問題だ、
その二人の問題に俺を巻き込んだのは何処のどいつだ。
本来ならてめぇが自力で何とかするもんだろうが!
俺は掴んだ胸ぐらにより力を込めた。
そこまで言うと、彼女は胸ぐらを掴む手にすがり付き、止めて下さい、許して下さいと、すがっり着いてきた。
必死ですがる彼女に俺は無言で離した。
とにかく、早くこの茶番を終えて、元の世界に戻してもらおう、そう思った。
運転を再開してカーラジオが聞けたらどんなに良かったかと、心底思った。
ガタガタと、震える車内で。
まあ、この山の向こう側にある町が用意している新居までのことだ。
と、思い直した。
最初は異世界転移、転生なんて、ラノベでしか、お目にかかる事はないと思っていたが。
いざ異世界と言っても、所詮、男女の中身は変わらない、と言ったとこか。
と。
昨晩のことが思い起こされた。
王女と入れ違いで、この国の第一王女と名乗った、髪の長い気品のある女性。
どこかで見た事のあるような、それでいてどこだったか分からない。
記憶を必死に手繰るが分からなかった。
彼女は微笑み、ようやくお約束を果たしに来られたのですねと、俺の横に当然の様に座った。
おじい様からお聞き及びではございませんか?
と、少し悲しげな顔を彼女はした。
俺のお爺さんの名前が出た。
聞き間違いじゃない。
まさか。
怖くてそのまさかを聞くことが出来ない。
フッ、と彼女は微笑み、あなたのおじいさまが、この国をお救いになった時、故あって私のおばあ様と炎のように愛し合ったと。
その時の情熱的なお話は何度も何度も、おばあ様から聞かされてきました。
キラキラと澄んだ瞳で俺の顔を見詰め言った。
じいさん何やってんだよ。
俺は頭を抱えた。
彼女は。
いいのです、真実の愛で私のお母様が生まれ、そして私が・・・。
ちょっと待て、俺は遮った。
まさかとは思うが。
俺と君は。
そうです、従妹です。
と、王女。
おれは目の前が真っ暗になった。
彼女は続けた。
お聞き及びで無ければお話いたします。
おばあ様は当時、この国の王女として次期統治者として、そのお力を修めるため日々励んでおられました。
ところが、当時まだ弱小だった我が国は、近隣諸国からの侵略や、野盗の襲撃に日々怯えておりました。
その時、さっそうと伝説の白い乗り物に乗って、現れたのはおじい様、その人だったのです。
そう言って、彼女はキラキラした瞳を一層キラキラさせて言った。
そして続けて。
おじい様は、とてもお強く、あっという間に野盗を手懐け、それを戦力としての足掛かりにして近隣諸国を平らげ、この国をさらに大きくしたのです。
そんな英雄におばあ様が虜にならないはずはあありませんでした。
それはもう、この国の氷河を溶かすような熱い愛を育み、そして。
お母様が生まれ、そして私が生まれたのです。
ですが、故あって元の世界に帰らなくてはならなくなり、その時の約束を、おばあ様は日ごろから言ってました。
あの人はきっと帰ってくると。
もし、俺が帰る事が出来なければ、俺の孫が男ならきっと帰ってくるだろう、そして君の孫と一緒にさせよう。
従妹同士なら問題は無いはずだ。
君と添い遂げられなかったせめてもの償いだ、と。
そこまで言うと、王女は俺に向き直り。
そして、私はずっと待っておりました。一日千秋の思いで。
と、言いながらグイとその距離を縮めてきた。
待ってくれ。
俺は慌てて、その距離を空けるように離れた。
続けて、
待ってくれ、急にそんなことを言われても困る。
王女は、
そ、そうでした。
私はなんてはしたない、女性の方からこんなことを申し上げるなんて、私ったらなんてはしたないのかしら。
御免あそばせ。
と顔を真っ赤にしながら脱兎のごとくこの部屋を出ていった。
出ていった部屋に残された俺は、
今、話された内容を飲み込むのに四苦八苦していた。
暫くするとコンコンとドアをノックして来るものがいた。
今度はなんだと思いながら、開けてみると、さっき出ていった王女とそっくりな少女が立っていた。
二ッと笑いながら、フーンあなたが、お姉の想い人。私のお義兄さんになる人なのね。
と言うセリフを、飲み込みかけた話と共に気が遠くなりかけてしまった。
そこまで昨晩の事を思い出しながら、目的地近くの町にはいった。
いつも拙作に目を通していただき、いつも本当に有難うございます。




