第六話
なんだ、これは、狭いしガタガタ揺れるし、乗り心地が悪い。
馬車の方が優雅で、乗り心地がいい、馬車に乗り換えてはどうか、
ルームミラーの、王子は彼女の髪の毛を愛おしそうに、触りながら言っていた。
廃城で遠くに聞こえた馬車の音と、蹄の音らしきものから遠ざかり、湖を左手に見ながら街道沿いを走っていた。
どうやら、従妹の追手ではなさそうだった.
廃城の直ぐ横を街道が走っていて、旅人や商隊ではないかという事だった。
運転しながら、それならいいが、と少し引っかかるものがあったが気に止めずアクセルを踏んだ。
本道を走れば発見されやすいからと脇道を選択し、またダートコースの未舗装の道に入った。
当然、未舗装のためかなり乗り心地は悪くなる。
暫くして従妹のお相手の王子とやらが馬車に乗り換えては、そう言ってきた。
なんだと、おい、お前。
俺はルームミラーの王子に向かって言った、
続けて、
ここに来るまで彼女は、必死で見馴れない地図を片手に、周りの景色と、記憶とを頼りにお前に会いに来たんじゃねえのか。
彼女に労いはねえのか、代わりに私が道案内します、位は言えねえのか。
それに、成り行きでこの車に乗せてやってんだ、乗り心地どうのこうの言うんじゃねえ。
だったら、惚れた女の手引きで駆け落ちなんかすんじゃねえ
で自分で馬車か何か用意しろってんだ。
、堂々と、掻っ攫う位の根性見せてみやがれ。
痩せても一国の王子だろうが。
そこまでまくし立てて言って一呼吸置いて、思った。
そうだ、堂々と、搔っ攫う位の気概がねえのは俺だ、クソ。
そこまで言うと、
なに、と王子は気色ばんでミラー越しに睨んだ。
貴様のように、下々のようなやつの言うこと・・・。
しもじもだと!
急ブレーキを踏んで、車が止まるか止まらない内に、サイドブレーキを掛けながら運転席から勢いよく飛び出した。
後部座席のドアを勢いよく開け。
降りやがれこの野郎!
俺は王子の胸倉を掴み、引きずり出した。
王子も負けず、
何すんだこの野郎、下々に下々と言って何が悪い!
と食って掛かった。
俺は思わず、拳を顔面に打ち込んでやった。
よろめきながら、王子の回し蹴りが死角から飛び出してきた。
急造のガードを弾いて俺のこめかみにかすってヒットした。
こいつ、何かやってるな。
王子は、
フン、王国護身術の味を味わうがいい。
変なステップを踏んで言った。
こっちの世界での、武道らしい。
うるせえ、こっちは学生からの喧嘩術だ!と言いながら、頭顔を両手の拳でガードしながら、間合いを詰め、右ストレートを放った。
学生の頃、群れなかった俺は一対多人数で喧嘩を好むと好まざるに、身置いてしていた。
身に降る火の粉は払うしかない。
だから、その自信はあった。
たとえ相手が武器を持とうが、何かやっていようが、だ。
王子に放ったこちらの拳を弾き、相手の蹴りを躱し、相手の肘打ちをかすめ、こっちの膝蹴りが当り、拳が脇に入った。
息が詰まりそうになった時。
やめて、と言って従妹の王女が割って入った。
彼女は同時に王子の腕を引っ張った。
一瞬で二人の動きは止まり。
王子にしがみ付いている、今も泣きそうな彼女の瞳を見て、手を振って。
俺は一言、
分かった。
と言って車に乗り込んだ。
こめかみと、口の中が少し切れている、最後の脇腹への拳の跡が、シャツをめくると青くなっていた。
ルームミラーを見ると、王女は王子の手当てをいそいそと、自分のカバンの中から布や薬らしきものを出して、甲斐甲斐しくしていた。
俺はそれを見ていたが、思わず王子と目が合ってしまったので、チッと俺は舌打ちをしてハンドルを握り直した。
都合良く、道は分かりやすかった。
後部座席から、彼女は道案内をし、あらかじめ用意していた友好国の、王女の知り合いが手配してくれたという宿にたどりついた。
この車は目立つからと、離れたところに隠し宿に宿泊した。
従妹の王女は今回手配をしてくれた、知り合いの王女に挨拶に行って、今後の詳しい打ち合わせしてくると一旦出ていった。
加えて、あなたの事を話すと、その知り合いは興味を大変持っている様で、あなたの事をもう少し話していいかしらと、律儀に聞いてきたものだから断る理由もないので、許可すると。
じゃあ、明日、挨拶がてら会いに来るのでお願いしますと出ていった。
適当に食事を済ませ、湯浴み場があったので目まぐるしい一日を振り返った。
もっとも、現実世界と時間の進行速度は、体感的に全く違うので、ものすごく長く感じた所はあるが。
まあ、当然と言っては当然だか、二人と俺一人は別の部屋で、その部屋で寛いでいると、ノックするものがいた。
従妹王女だった。
昼間の、彼の非礼を謝りにきた。
俺は俺で水を差したようで、と彼女に謝った。
王女は。
彼はあのような人じゃないと。
俺は、
まあ、彼女彼氏なら大抵、かばってそう言うだろう。
いいよ、気にしなくて。
続けて、彼女にこっそり耳打ちをするように。
それより、今夜は声を落としてくれて、俺が熟睡出来るように、してくれればいい。
二ッと悪戯っぽく笑いそう言うと、彼女は顔を真っ赤にして。
頭が取れるんじゃないかと言うくらいお辞儀をして、出ていった。
あくる朝、王子と従妹女王の二人はなんだか様子がおかしかった。
昨日のあれだけ、ひいてしまう位のイチャイチャぶりが打って変わって静かなものになっていた。
一日でこんなにも変わるものなのかと疑問に思っていた。
そんな二人をよそに従妹王女の知り合いが、我々の出発に際して、挨拶にやって来た。
ここの手配など、今回の駆け落ちの後援をしてくれた、彼女の知り合いは、自分のことのように、彼女の恋の成就に協力してくれている。
彼女もこの国の第二王女らしい。
しばらくぶりに会う王女同士、手を取り合い、親交を深め、頑張ってねと、労っていた。
そして、チラとこっちを見て、このかたがお相手?
と、彼女に耳うちするのが聞こえた。
俺は、全力で否定したかったが、盗み聞きしているようで、なにもなかったように、ふるまった。
その代わり、王子の方を見ると、顔色が変わって睨み付けていた。
それを見た、従妹王女は慌てて、否定して、そそくさと、出発しようと促した。
親友が、全国に偽情報を流していたため、こっちの足取りは暫く混乱しているとのことだった。
王子は、昨日とうってかわって、彼女の髪をさわるどころが、目も合わせない。
男と女の複雑さを反芻しながら愛車のエンジンキーを回し、相変わらず舗装されていない、地道を走り出した。
いつも拙作に目を通していただき、誠にありがとうございます。




